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9 テロリストに武器を売った鍛冶職人

単純(ばか)だから、ですか?」


カインは首を傾げながらエルムの言葉を聞き返した。


「ああ、いい意味でだけどね」


「はあ」


カインは作業を中断し、エルムの近くまで戻ってきた。

その姿を確認し、エルムは話を再開した。


「デイビスは良くも悪くも真っ直ぐって感じなんだよね。これだ!って思うことがあったら、とにかくそこに向かって突っ走る」


「ああ、なるほど」


「そう。だから釣りバカとかと同じ意味での単純(ばか)ってこと。あいつの場合は勇者バカかな。勇者っていうものだけをとことん考えてる感じ」


まあこれくらい言っておけば大丈夫だろ、と思いエルムは一度息を吐く。


「それを言ったら、僕は(つるぎ)バカですね。ああ、作る方のですけど」


「カインさんは剣を振るったりはしないの?」


「ええ、僕は作る専門ですね。戦う方はめっきりダメです。まあ、この手を見た人からは、剣士と間違えられたりするんですけど」」



そう言うと、カインは手のひらをエルムの方に向けた。

その手にはいくつもの血豆や傷があった。


「確かに、武器を握ってる人の手にも見えるかも」


エルムは率直な感想を言った。


「そうなんですよ。よく言われるんです。でもこれは、鍛冶道具によるものなんです」


「そっか。まあ、道具を握るという意味では同じだもんね。そういえば、カインさんはいつから鍛冶職人に?」


「僕ですか?う〜ん、ちゃんとは覚えてないんですけど、物心がついた時にはもう鍛冶に携わってましたね」


「へえ、そんなに昔から?」


「ええ、まあ父の影響なんですけどね」


エルムは、いい流れになってきたぞ、と思いながら「お父様?」と先を促す。



「実は父も鍛冶職人だったんですよ」


「あ、そうなんだ。じゃあカイさんの家は職人一家っていうことか」


「ええ。でも、もう父は亡くなってしまったんですけどね」


「あ、そう…。…すみません」


エルムは一応、申し訳なさそうな表情を作る。

こういうのは、常日頃から正体を偽っているエルムにとっては他愛もないことだ。


「いえ、いいんですよ。もう亡くなって10年以上も経ちますし」


カインは明るく振る舞う。


「病気か何か?」


エルムはもう少し踏み込んでみることにした。


「いえ…」カインは俯き、少し考えるようなそぶりを見せた。



「あの…、エルムさんって勇者様と一緒に王都からいらっしゃったんですよね?」


「うん、そうだよ」


エルムは表情は変えずに、相手の顔や体の動きを観察する。


「それじゃあ…、それじゃあキース・フォレストっていう鍛冶職人を知っていますか?」


「キース・フォレスト?いや、知らないなあ」


「そうですか…。じゃあ、テロリストに武器を売った鍛冶職人は?」


「ああ、その人なら噂で聞いたことがある」


「それが僕の父なんです」


きた!とエルムは心の中で叫んだ。

これで色々と聞きやすくなるだろうと考えたのだ。



今回のアンデッドの出没や泥棒騒ぎには、少なからずカインの過去が関係している、直感だがエルムはそう思ったのだ。

そのために、カインの過去について知る必要があったのだ。


「あ…えっと…」


エルムは言葉に詰まった様子を演じる。

あくまで自分は何も知らない、といったスタンスをとるためだ。


「突然こんな話をしてすみません。何だかエルムさんは信用できそうな感じがして…」


「いや、そうじゃなくて。なんか自分が聞いていい話なのかどうか分からなくて…」


「あの、もしエルムさんが嫌でなければ、聞いていただけませんか?この話をできる人はあまりいないもので…」


カインは懇願するような目でエルムを見てきた。


「あ、うん。分かったよ」


エルムも改めて心の準備をする。



「僕の父は、テロリストに武器を売った罪で処刑されたんです。でも、父はそんな人間じゃないんですっ!」


カインは悔しそうに言う。


「どういうこと…なの?」


「父は嵌められたんです!絶対にそうなんです!」


カインは下を向き、両手の拳を握りしめながら話す。


「…んと、どうしてそう思うの?」


カインは一度顔を上げ、エルムの目を見る。


「父は、鍛冶に命をかけていたんです。鍛冶を心から愛していたんです。完成した刀剣の輝きの微妙な違いに一喜一憂したり、自分の追い求める形を作り出すために、同じ刀剣を何百回と繰り返し打ち直したりするような人だったんです。そんな人が、テロに加担するわけないじゃないですか!」


捲し立てるようにカインは一気に話す。

その間、エルムはカインの目を見ながら無言で話を聞いた。



「それに、父は戦いのための武器なんてほとんど作ってこなかったんです。祭祀や観賞のための武器ばかり、敢えて人が傷つかないように作っていたんです」


「そうなんだ。でも、なんで王国はテロに加担したなんて言ったんだろう」


カインの話が一段落したことを確認し、エルムは口を開いた。


「いえ、分かりません。だから、誰かに嵌められたとしか考えられないんです」


「誰か心当たりはあるってこと?」


「いえ、15年以上も前のことなのでちょっと。当時は僕もまだ小さかったので、父の交友関係までは…」


カインは再度視線を下に落とす。


「でも、確かに今の話を聞く限り、お父様がテロに加担するような人だとは思えないね」


「そうですよね!やっぱりそうですよね!」


カインが再び顔を上げ、エルムの方へ前のめりになる。



「エルムさん。僕は父の無実を晴らしたいと思って15年以上も生きてきたんです!真面目に武器を作り続ければ、いつか周りから認めてもらえるようになる。そうすれば、父に対する見方も変わってくるんじゃないか!そう思ってるんです」


エルムはカインの目が少しずつ赤くなってきているのに気づいた。


「だから…だから僕は、これからも武器作りをしていきたいんです!だから…邪魔をする奴らは許せないんです!」


そして、カインの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「エルムさん!どうか、どうか力を貸してください!お願いします!」


カインはエルムの手を握りながら頭を下げた。




その時、店の扉が勢いよく開かれた。


「謎は全て解けました!真実はいつも1つです!」


そこにはサーナが立っていた。


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