【第7話】初めてのエンカウント
プロットって大切なんだろうなと思いました。
月日は流れーーー
ジノ・フロットは1歳になろうとしていた。
体付きは人間でいうと5歳児程。もう飛んだり跳ねたりもお手の物だ。
角は母に似て少し上に曲がってきた。羽はまだ小さい。小さいのがピコピコしてるだけだ。
尻尾は体の2倍程の大きさに成長していた。
知能の成長速度もかなり早く、近所の子供達の様子を見ても体格通りの様だ。
子供達とはこの世界の必須スキル、『言語理解』のおかげで喋る事はできるのだが、意思疎通は難しい。
黒い鱗の一本尾というのは龍人にとって本能的に恐怖の感情を感じる様で、怯えさせてしまうのだ。
そのせいで近所のママさん達にはかなり不評らしい。
その噂を聞く度にママンが飛び出して行きそうになるので止めてほしい。
レベルはまだ上げられてない。生まれてすぐの子供を魔獣が住む森などには連れて行ってくれないからだ。
その気になれば行ってみる事もできるが、レベルアップすれば直ぐにバレるので大人しくしていた。
その代わりに、ママンに空いた時間には魔法の勉強を教えて貰った。
と言っても、今までの殆どは魔力操作、魔力感知の基本的なスキルを使って、
より効率的な魔力運営や出力精度を上げるというものだった。
そのおかげで、今ではスキルのMP効率や精度がかなり高まった。魔力感知は半径50メートルくらいの範囲での索敵が可能になった。
パパンには剣術を教えて貰いたかったが、
仕事が忙しいので、作って貰った木剣で素振りをする程度だった。
あ、ちなみに変体でいつも尻尾は隠している。トラブルの種だからな。
ママンの魔法の才能は30年に1度くらいの天才らしいが、ママン曰く俺は50年に1度の天才らしい。
親バカだろう。
この日は、初めて初級の属性魔法の練習に入るらしい。wktk。
「今日は、ジノがどの属性に適正があるのかを調べるわ!」
属性!ファンタジーだぜ!!!!
「属性って何種類あるの?」
「そうね、属性は火、水、地、風、光、闇と言われているわ!」
「言われている?もっと違うのがあるの?」
「まだ色々と発展途上でハッキリしてないのよ!」
「うーん?」
結構長い歴史があると思ってたけど、そんなもんなのか?
「分かり易い例を挙げると、氷の魔法ね!何の属性の魔法なのか、わかる?」
「水属性でしょ?」
「そう思うでしょ?でも火魔法の多くは熱量操作ができて、熱くも冷たくもできるの。それに対して、水魔法は熱量操作ができるものは無いの。」
「じゃあ火属性?」
「そうかしら?火魔法は熱量操作できるけど、氷は火じゃない。物質自体は水。この問題は学者達の間で議論されて、氷魔法は水属性だと言うもの、火属性だと言うもの、はたまた氷属性だと言うものが現れたわ!ジノはどれだと思う?」
へぇ。学者とかいるんだ。
「うーーーん。氷属性でいいんじゃない?」
「そう。その適正の存在があればね!今の所は居ないの。だから、属性って結構あやふやなの!」
「なるほどー。」
なんとも適当だな。
「で、本題に戻るけど、ジノの得意な属性を見つけるわ!」
「いぇすまむ!」
「聞いた事ない言葉ばっかりどこで覚えてくるのかしら?まぁいいわ!この石を思いっきり握ってみなさい!」
ママンのポケットから出てきたのは無色透明の丸い石だった。
「なにそれ?」
「これは、力見の龍輝石。握ると輝いて適正スキルが手に入るわ!こんな感じで!」
ママンがその石をギュッと握る。そして手を開く。真っ赤に燃える石が現れ、轟々と火柱が立つ。
家の中なんだが。
「マ、ママン!火事になるよ!!」
「大丈夫よ!これは光。龍輝石がそう見せているの!これが、火属性の適正の反応よ!私の魔力量が大きくて少し派手だけど!」
3秒程、部屋を燃やし尽くす勢いだった炎が、すぐに無色透明に戻った。
「さあ!握ってみなさい!」
ママンに言われるがまま握る。
バリッ、バリバリィ!!
その瞬間龍輝石から電光が駆け巡った。
《スキル:雷属性適正を取得しました。》
「・・・・・・・え?えぇえええええええええええええええええええ?!?!?!!」
ママンは絶叫した。
ジノは不思議に思う。
「雷属性?そんなのなかったような・・・。」
「・・・・・そうよ!無いはずだったわ。今までは!」
「無いはずだった?」
「ええ!属性っていうのはこの龍輝石に現れるもののみで考えられているの。今まで雷魔法は使い手もほぼ居なかったし、使えたとしても暗雲を巧みに操る程の水と風魔法が使えないといけなかったわ。でも、適正者が居なかっただけなのね!!」
「え・・?」
「龍輝石に電光が走った事なんて言い伝えでも一度も無かったのよ!!水か風属性の上位魔法の派生系が雷魔法だと思われていたのが、雷属性があるって事が発見されたのよ!!今!!!」
ママンは物凄く興奮している。
「わ、わーすごーい」
つまり今この瞬間雷属性の適正者が現れた事によって、属性の数が7個に変わったわけだ。
確かにそれは大発見だな。
ヴァルゲルムの体のせいだろうか。
「こうしちゃいられないわ!!学会に報告しないと!!ママ学園に行ってくるわね!」
「い、いってらっしゃい」
ママンは即決断、即行動な人だ。「いってらっしゃい」の「て」の時点で飛んで行ってしまった。止められない。
「あ、結局魔法教えてもらい損ねちゃった。」
ジノは仕方なく外で散歩する事にした。
「良い天気だな〜」
外は散歩日和で、真っ青な空が広がっている。気温も丁度良く、心地良い風が吹いている。
長閑な村々は子供達が遊んでいたり、体格の良い青年が田畑を耕していたりと、実に平和な光景だ。
涼しい風感じながら、ふとこの一年を思い出す。
思えばこの一年、急速に過ぎて行ったが、色々な事があった。
異世界へ転生してきてまずは卵で半年間。そして産まれてからの3日間。
忌むべき一本の尾で生まれ、黒い鱗のせいで始祖龍ヴァルゲルムの生まれ変わりだという疑いをかけられる。
アハドというヴァルゲルムと対と言われる存在の始祖龍も現れ、その後自分の中にヴァルゲルムが居る事を知った。
そして、罪調べの儀。
神殿に連れられ、聖剣で斬られるその瞬間。固有スキルの『変質』を使って難を逃れたのだった。
アハドはその騒動後、ヴァルゲルムに恋をしていた事に気づく。
その後始祖龍アハドは元の娘に体を返し、俺の精神世界に居着いた。
始祖龍アハドの正体は俺と同じ日本人。柏ミヅキという名前の元女子高生だった。
地球とこの世界の時間の流れは違う様で、柏ミヅキが死んでからアキトが死ぬまでの期間は約2年。
だがこの世界ではアハドは2000年前に誕生している。つまりこの世界は地球の1000倍の速度で進んでいるという事実を知る。
彼女は未練も無いらしく、あまり気にもしてはいなかったが。
(ってことは今俺は1年過ごしたけどあっちでは・・・まだ9時間も経ってないって事、か。)
なんとも不思議な感覚だ。
最近アハドはヴァルゲルムのツノがお気に入りらしく、登ろうと必死だ。
ヴァルゲルムは躊躇なくぶっ飛ばす。JKが1キロほどぶっ飛んでいく様は中々の見ものだった。
アハドのヴァルゲルム攻略は難航しているが、恋する乙女はいつだって全力だな。
その後はなんだかんだ平和ではあった。
忌み子というのは生易しい物では無かったが、島一番の剣士の父、学園の教師である母の影響もあり、
なんとか普通に接してくれている人も居る。
未だに会うだけで逃げてしまう者や、睨んでくる者。両親が居ない時を見計らって悪態を吐いたり、ワザとぶつかってきたり、石を投げつけてきたりする者も居る。
干渉して来るヤツに対しては『変体』で尻尾を出してやると、悲鳴をあげて逃げて行くので面白い。
「ジノ。お散歩かい?」
「(しまった。)うん!またね〜!」
急いで走り去る。
リジェおばさんだ。お隣さんで、両親共仕事に出てる時はよく世話になる。
良い人ではあるのだが話しが長い。だが、忌み子の事など気にしないその態度に、十分甘えさせてもらっている。
「あら、また来なさいよ〜〜〜」
「はーい!」
この間は2時間喋りっぱなしだったからな。
今、一つ気がかりなのは、あの神殿の夜から、ドラクロン家の神官達の姿を見てない。
アハドが顕現に使っていた娘もだ。少し嫌な予感がする。
もう少し経って実力がついたら探ってみても良いだろう。
そうこうしている内に村の外れの広い草原に着いた。ここはジノのお気に入りの昼寝スポットだ。
ほぼ人が来る事も無く、適度に短い草は、最高のベッドだ。
いつも通り、寝転ぶと、魔力感知に違和感を感じた。
何かがいる。
バッと飛び起き、辺りを見渡す。
遠くに気配の正体は居た。
「変な角のウサギ・・・?」
一見すると少し大きい灰色のウサギだが、その額からはバネ状の大きな角が生えていた。
兎にも角にも情報だ。鑑定は現在レベル7まで成長している。
50メートル程離れている魔獣に対し、照準を合わせる。
(そういえば魔獣に鑑定をするのは初めてだな。)
『鑑定』
名:スプリングラビット
種族:魔獣(最低級)
レベル:2
HP:12/12
MP:12/12
特徴:バネの様な角を地面に刺し、飛んで移動する。普段は群れで行動する。
特性:寒冷耐性lv1、魔力感知lv.1
「よし。いける。」
これなら戦える。相手は最低級の魔獣だ。
これは最近知ったのだが、魔獣には序列がある。ここら辺は殆どが最低級だ。
とは言ってもこんなだだっ広い見晴らしの良い草原で魔物がいるなんて聞いたことも無い。
普段は群れで行動しているらしいし、はぐれたのだろう。
にしても移動方法がウサギなのに角で跳ねるとは。
わけわからんな。
さて、どう戦うか。ここでジノは気付く。
「あ、攻撃方法が無い!!」
よく考えてみればダメージを与えるスキルを持っていない。それを今日ママンに教えて貰うつもりだったのだが。
「仕方ない。魔力操作で物を投げよう。」
手頃な石を拾い、魔力を込めてみる。
「うんうん、ちゃんと魔力で操作できるな。」
こうする事によって、魔力操作で石ごと操作できるのだ。
尤も、物に魔力を込めて操作するのは、非常にMP効率は悪い。一回分でMPが50持っていかれた。
ただこの動作は、魔力操作を行う上で、非常に効率の良い練習になる。
自身の魔力を込める動作、魔力の込もった物を操る動作、そして思った通りに投げる動作。
全てにかなりの集中力を要するのだ。
ジノは大きく振りかぶり、投げる。
(威力と、回転力を!)
そうして放たれた魔力を込めた石は、物凄い速さと回転力を持って、魔物に真っ直ぐ飛んで行く。
そしてーーーーーーボッ!!!!!
魔物の体を大きくえぐり飛ばし、貫通した。
「うわぁ?!エッッグ!!!」
予想以上の威力にビビってしまった。
魔獣はこちらに気付く事なく、絶命した。
「そういやママンに魔力操作で操作した物を他の人にぶつけちゃダメって言われてたな。やっと意味が分かった。使用にはちょっと気をつけないとな。」
ふと、違和感を感じて下を見ると、自分の体が淡く光っている事に気付いた。光はすぐ収まった。
「・・・なんだ?ログを見てみよう。」
『記録表示』
《スプリング・ラビットを倒した。》
《経験値を10獲得しました。》
《レベルが2に上がりました。》
《『超回復』の使用回数がリセットされました。》
「よし!レベルが上がった!!あれはレベルが上がった時のエフェクトみたいな物か。」
狙い通り、超回復の使用回数はレベルアップでリセットされた。今日からまたMPを0にする生活だ!
ステータスを見てみよう。
ーーーー
種族:龍人族:幼生体(転生体)
名前;ジノ・フロット
レベル:2
装備:なし
HP:7/11
MP:202/206
EXP:3.06%
ーーーー
よし、最大値が上がってるな。
ゲームとかによくあるレベルアップで全回復ってのは無いみたいだ。残念。
にしても簡単に倒せるもんだ。魔力操作万能だな。
魔獣の死体に近づく。血は赤色だった。グロい。
グロ画像は見慣れていたのでグロ耐性はあるつもりだったのだが、
実際に殺して、その血とむせ返るような臭いを直に感じると、本能的に胃液が込み上げてくる。
なんとか胃液を飲み込んで、観察する。
魔獣の側に、淡く光る石の様な物が落ちている。
『鑑定』
魔核石(最低級)・・・最低級の魔物の核。魔力が含まれており、武器、魔道具の製作に使われる。
へぇ、これが核か。魔道具の元にもなるのか。面白そうだな。
その刹那、僅かに気配を感じた。
「・・・・ん?」
辺りを見渡すが、魔力感知にも何も引っかからない。気のせいか。
「とりあえずこれを土産に帰ろう。」
ジノはスプリングラビットの死骸を後にし、帰路に就いた。
ーーーーー「『影隠れ』、解除。」
少し離れた木陰の中から、二人の影が姿を現わす。
「オ、オイ。今の見たかよアニキ。スプリングラビットが一発で死んだぜ。しかも見た事無ぇ魔法だったぜ。」
「見てたよルドー。あれは只の魔力操作さ。にしても、あの子、魔力総量が異常だ。あれはかなりの魔力を消費するんだよ。今の僕らには到底無理だ。本当に只の忌み子なのか?」
「アニキ、アイツ今年学園入るかな。」
「入るさ。しかも特待生でね。」
「そ、そんな!あの変なババアに気に入られた奴しか与えられない特待生で!?」
「あの子にはそれだけの異質な物があるよ。さぁ、帰ろうルドー。目的の物は見れた。」
「うへエー、アニキが言うならそうなんだろうぜ。」
「楽しみだよ。ージノ・フロット。」
不自然な点、誤字脱字等御座いましたらご指摘よろしく御願いします。
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