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しっぽの勇者  作者: 羽西ミル
【第1章】始祖龍編
7/10

【第6話】災禍の始祖龍と2000歳JK

なんだろう。生まれて3日の内容じゃ無いなって思いました。

「あ、あの、もう一度言ってもらっても?」


「で、ですから私はヴァルゲルム様とお話がしたいだけなのです!」


「はぁ・・・・・・・・・・。」


呆気に取られるジノ。


「え、えーっと。つまり、貴方はヴァルゲルムと話をする為だけに、2000年もの間ヴァルゲルムを追い続けてきた、と?」


「最初からそう言っているではありませんか!それと、正確には1900年です!」


「言ってねーーーー!!!!言ってねーよ!!!ってかその100年気にすんのかよ!!・・・あ、すみません。」


思わずツッコミが入ってしまった。


「ゴホン。一応、そうなるまでの経緯を聞いても良いですか?」


咳で空気を切り替え、アハドに問う。


「・・私が龍として生まれたのは約2000年前。

簡単に説明しますと、生まれて間も無い100歳頃でしょうか。程、私は現界に異常を感じ、顕現しました。

その時、見たのがヴァルゲルム様でした。

私とは真反対で、真っ黒で凶悪なその様を見て、最初はなんて野蛮なのか、と思ったものです。

でも、見ていると、胸が締め付けられるような感情が沸き上がってきてしまって。

その正体が何か分からず、一度お話をすれば分かると思ったんです。

その為に現界でヴァルゲルム様と対の存在となるべく、創救の龍となり、ヴァルゲルム様を追い続けたのです。」


何とも間抜けな話だ。分かり易く説明すると花の100歳アハドちゃんは極悪ヤンキーのヴァル君に片思いをし、ストーカー紛いの行為を2000年続けて来た。という話だ。こわっ。


「成る程。そんな事の為に僕は殺されかけたと言うのですか。」


「そんな事とはなんですか!!!私はこの為だけに顕現を繰り返しているのです!!」


「私がその感情の答え、教えて差し上げましょうか。」


「な?!龍人如きに答えが解るのですか?!?」


一々失礼だなコイツ。


「そうですね。教えて差し上げても構いませんし、なんならヴァルゲルムに会わせて差し上げる事もできますよ?」


「ほ、本当ですか!!」


「ただし、いくつか条件があります。」


「なっ・・・・!ぐ・・・まぁ、いい、でしょう。私にできる事であれば。」


どうやっても龍人の言う事を聞くのが嫌みたいだ。


「まず、その体を今日中に元の持ち主へ安全に戻す事。」


「分かりました。借りたのは私です。それくらいの事はしましょう。」


「次に、司祭達に島の民が僕を殺そうとする事を禁止するように伝える事。」


「それは問題ありませんが、そんな必要あるのですか?先の儀式で、十分な牽制になったと思いますが。」


「まぁ、保険です。心って物は脆く揺れやすいのです。」


「わかりました。」


「最後に、僕の事をジノさん、と呼ぶ事。」


「な!!!な、なんて屈辱的な条件なのですか・・・。し、仕方ありません。飲みましょう。ジノ・・・サンぅぅ。」


絞り出す様に敬称を付けるアハド。面白い。


「あはは、条件はこんな所で、早速答えをお教えしましょう。」


「あぁ・・・。これで私の積年の願いが叶うのなら、安いものです。」


遠くを見るアハド。


「・・・・・・あなたのその感情は、・・・「恋」です。」


「へ」


間抜けな返答が聞こえたと思ったら、アハドはフリーズしていた。


真っ白な彼女は10秒程固まり、徐々に真っ赤になっていった。


「!!!そ、そそそそんな事ありぃえましぇん!!!!り、りりりゅうであるこ、こここのわ、私が!!!!そ、そのこ、ここ、ここここ!!!!ここ!!!恋!!!!なん!!て!!!!!」


あ、やべ、バグッた。


アハドは目を回し動揺が極致に達している。


「お、落ち着いて下さい。アハド様。これは知的生命体なら誰にだって起こり得る感情なのです。」


((アキト)には起こらなかったけど・・・。)


「はぁっ・・・。そ、っそんな・・この、感情が・・・恋・・・っ・・。」


アハドは服の胸部を掴み、苦しそうに呻いている。


「そう考えると、辻褄が合いませんか?」


「ぐ、ぐぅ・・・確かに・・。れ、例を、言います。ジノ・・・・サン。」


絶え絶えに礼を近くにあった木の長椅子に突っ伏すアハド。


「いいえ。大したことではありません。」


「そんな、まさか・・・。この龍である私が持った感情が・・。そんな俗な物だったなんて・・・。」


アハドは一転、長椅子に沈んでいた。ぶつぶつ何か言っている。


「まぁ好きになってしまった物はしょうがありませんよ。」


「そう・・・でしょうか・・・・。」


「そういうもんです。」


「貴方は生まれて2日なのに、2000年生きた私より「恋」に詳しいのですね。一体、何者なのです。」


「それは今日の夜中、ゆっくりお話ししましょう。」


「夜中?」


アハドが突っ伏した長椅子から顔だけ此方に向ける。何というか、平和な絵面だ。


「ええ、ヴァルゲルムが言っていました。僕の夢の中・・精神世界にアハド様なら干渉できるんじゃないかって。」


「精神世界・・そこにヴァルゲルム様はいらっしゃるのですね。」


「はい。今できるか試してみますか?」


「いえ・・今は少し、気持ちを整理したいです・・。家で彼女に身体を返す準備をした後、試してみます。」


「そうですね、では、また後程。」


その後、神殿を後にしたジノは、両親と家に帰った。

帰り道の途中、ママンは大泣きしながらジノを抱っこして帰った。パパンは、心底ホッとした顔をしていた。


(あぁ、この人達を守れた。本当に、良かった。)


ジノは、この時心から安堵した。

この時気づいたが、疲れ果てていた様で、そのまま帰路の途中で眠っていた。



ーーーーーーーー




《オイ。》


「お、寝ちまってたのか。よう、ヴァル。何とかなったぜ。」


《ふざッけんなァ!俺様ァ何ともなッてねェ!!!アハドのヤローなにッ考えてェやがる!》


「だから、ヴァルの事が好きなんだろ?」


《龍にャあそんな概念ねェよ!!愛だの恋だの、低俗な感情、持ち合わせちャあ無ェ。》


「本当か?」


《・・あァ?何が言いてェ。》


「いや、龍人って普通に考えて人間と龍のハーフから生まれた種族なんじゃねーかなって。」


《・・・・。》


「でも、龍と人間じゃあ時間の感覚が違い過ぎるだろ?龍にも心がある。そういう事に耐え切れなくて、無意識に避けてるだけだと思うんだよ。アハドさんは龍なんだし、問題無いと思うけど。」


《・・そういう、問題じャあねェ。》


「そうか。まぁ俺も深く聞くつもりは無いさ。まぁ、アハドさんがヴァルに恋してるしてないは別として、2000年も追いかけて来たんだ。話くらいしてやれよ。」


《俺様の決める事じャあねェよ。アイツが来たら嫌でも話し合いにならァ。ってか俺は何で呼び捨てであのヤローがさん付けなんだァ?!》


「そっか。ちなみにさ。お前いつまで俺の中に居るつもりなんだ?」


《無視すんなァ!!!あと好きで居るわけじャねェ!!!お前が死ぬまでは出られねェよ。》


「そうか。まぁ何かと知識不足だから助かるよ。ちょっと頼り無いけど。」


《テメェ外出れたら最速でぶッ殺すッから覚悟しとけよォ!》


「あははー」


ーーコン、コン


真っ白な空間に、突如ノック音が響く。


《アハドの野郎だなァ。》


「野郎は失礼だろ。せめて呼び捨てにしとけ。アハドさん、入ってください」


すると、フッと白い空間にアハドが現れた。ノックの意味はあるのだろうか。


(っ!!?!?)


ただ、今日見ていたあの娘とは、見た目も様子も違い過ぎる。

髪の毛はゆるくウェーブのかかった長い暗めの茶髪。薄い色素の青い目に、()()の見た目の美少女だ。年は15〜17歳くらいだろうか。彼女は体操服と思わしき()()()()()()に身を包んでいる。胸部には刺繍があり、漢字で柏と書かれていた。


人間だ。それも、日本の学生の柏さんらしき人だ。


「魂に、一番馴染む姿・・・。」


アキトがボソッと呟き、考え込む。


《や、やろうと思えば出来る物ですね。お、お、お、おお邪魔します。》


アハドの気持ちは整理が付かなかった様だ。


《真っ白な空間・・。この感じ・・・え、ジノさんと・・・・。だからここに閉じ込められて・・・でも、殺せば・・断罪の騎士!?そんな・・。なるほど・・・。あぁ、お会いしたかったです・・。ヴァルゲルム様・・・。》


アハドは周囲を見渡して頰を赤く染め、何かを色々感じ取ったヴァルゲルムをうっとりとした目で見ている。


《あァ?人間のガキじャあねェか。坊主みてェな見た事無ェ格好だしよォ。オメェ本当にアハドかよォ?》


ごもっともだ。姿形が違い過ぎる。


《が、ガキとはなんですか!アハドです!!!私の前の世界ではJKって言うんですよ!国宝なんですから!》


「国宝じゃねーよ!!!!」


《はひゃ!?・・あなたは・・え?!ジノ・・・さんじゃない?!》


まださん付けは慣れない様だ。


「あぁ。さっきぶりですアハドさん。俺は楠川アキト。龍人ジノ・フロットとして転生しました。この姿は魂に定着していた姿、らしいです。あなたの様に。」


《あ、本当ですね。懐かしい・・。あ・・あなた、その学生服!!日本人なんですか?!》


「それはこっちのセリフです。ただ、いくつか不可解な点がある。あなたは約2000年前に誕生した。そうでしたね?」


《えぇ、間違いありません。私は2000年前に人間から龍に転生しました。》


「前世死んだ時の記憶はどこまでありますか?」


《殆ど覚えています。私の人間だった頃の名前は柏ミヅキ。高校生でした。》


「死んだ時期は覚えていますか?」


《確か・・・2016年の夏だったと思います。》


「そんな・・・・・。」


《それにしても、2000年も経ったのに、日本の制服はあまり変わっていませんね。》


「いえ、どうやらこの世界の時間の流れと、あの世界の時間の流れは違う様です。」


《・・・え?どういう事ですか?》


「最初からあなたの雰囲気が人間らしいとは思っていましたが、2000年前の人とは思えなかったのです。


《そんな・・・それでは、私が死んでからあの世界ではまだ2年しか経ってないと?》


「単純な計算上だと、そういう事になりますね。」


《・・・驚きましたが、元の世界には未練もありません。古き同郷の友に会えた事に感謝しましょう。それよりも、驚いたのは、断罪の騎士です。あのような存在がここに来るなんて、ヴァルゲルム様が手が出せないのも納得です。》


「ええ、あれは驚きました。」


《あん時も思ったがァオメェらァ異常すぎるぜェ。どっちも元々別世界の人間ッてェ事かよォ。》


ヴァルゲルムが口を挟む。


「そういや言ってなかったな。なぁ。人間が龍に転生するのは不自然な事なのか?」


《異常も異常だァ。まず魂のデカさが違ェ。最初に人間に生まれるか龍に生まれるかで魂のデカさは決まるハズ、なんだがなァ。》


《それは転生する際に言われましたよ。あなたは人間にしては魂が大きすぎて普通に死ねないので他の世界で生きてくれって。》


ナナシさんだろうか。


「そんな事もあるんですね。」


《はァ。何万年ッと生きてきたけどよォ。今までの常識ッつーのがァバカらしくなるぜェ。》


「あはは。時間はあるから、ゆっくり調べて行こう。あぁそうだ。アハド様、これからどうするんですか?」


《そうですね。もう体はアルルに返しましたから、行く宛てもありませんし、ヴァルゲルム様と親睦を深めさせて頂きます。》


《ふざけんなァ!!!》


「アルル・・・あの10本尾の白い娘の事ですね。」


《えぇ。あの子も十二分に特別ですね。私の顕現体とはいえ、10本の尾はでそれぞれが5又になっているなんて。》


「龍としてのアハド様は10本の尾じゃなかったんですか?」


《えぇ、3本でした。》


「ふむ・・。俺みたいに忌み子にならなきゃいいんだけど。」


《かなり神聖視されてはいますが、正直私が暴走してしまった後、あの子の立場はなんとも微妙な状態です。司祭達は分かってくれてはいますが、民衆までは・・・。悪い事をしました・・・。》


「そこらへんは、俺がなんとかしてみます。まぁ忌み子なんで、近づけるかどうかも分かりませんが。」


《お願いします。》


《おィ坊主。目ェ覚ますぜ。》


「おお、やっぱこの精神世界、時間過ぎるの早くなるな。あ、あとこの精神世界って毎日繋がるのか?」


《いんやァ。俺が繋げてらァ。イメージとしちャァ坊主が寝てる時だけ形の合う扉の鍵を持ってるってェ感じだなァ。》


「結構親切なんだな。ヴァル。」


《いやァ。それがよォ。なんか変な感じすんだよなァ。俺が繋いでるってェ自覚はあるんだが、繋ぎたくねぇ時も坊主が求めれば繋がっちまう・・・みてェな感じすんだよ。》


「ふぅん。まぁそういう時は繋げなくていいからな。直面の危機は退けたんだ。また、俺の方から求めるさ。」


《フン。どっちにしろ動けャしねェんだ。好きにしろやァ。》


《私はヴァルゲルム様と共に居られれば文句はありません。またお会いしましょう。》


(はは・・・改めて考えると俺の中にこいつらいるんだよな・・やべェな・・・。)




こうして、ジノ・フロットは生まれて3日にして、災禍の始祖龍ヴァルゲルムと、創救の始祖龍アハド(2000歳JK)を特に意味は無いが、自らの精神に取り込む事に成功したのであった。


不自然な点、誤字脱字等御座いましたらご指摘宜しくお願いいたします。

コメント、未だ0なんです。よければ。よければ。

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