【第5話】罪調べの儀・後半
時間をずらしてみましたが、頭がこんがらがりそうになりました。
「ジノ・フロット。前へ!!」
「はい!」
「何か、言う事はあるか。」
族長がマイクモドキを此方に渡す。なんともインタビューを受けているようにしか思えなくてシュールだ。
「え、えーと。はじめまして、みなさん。ぼくは、ジノ・フロット。ノクトパパとシャルママの間に産まれた子供です。まず、こんなに沢山のひとに集まって貰って、ごめんなさい。産まれてすぐで、あまり詳しい事はわからないけど、ぼくは、産まれちゃダメな子だったみたいです。」
会場に居る殆どの人間が息を呑む。
産まれて2日、右も左も分からない赤子に、何て事を言わせるんだ。と。
ママンは直ぐにそんな事無いわ!と顔を真っ赤にして今にも飛んで来そうだが、パパンが宥めて、なんとか座ったままだ。けどもう涙目になっている。
「でも、ぼくはパパとママが大好きです。ぼくは、生きているだけで皆の迷惑になるのかもしれない。けど、生きたいです。パパとママの子供に産まれてきて、良かった。まだ産まれてすぐだけど、そう思うんです。だから、パパとママに悲しい顔をさせるわけにはいきません。」
ゆっくり息を吸う。
「ぼくは、ヴァルゲルムじゃない。でも、それは分からない。その聖剣が本物かだってわからない。皆何一つ本当のことはわからない。でも、僕は生まれて2日。普通の剣で斬られたって死んじゃいます。それは、パパとママが悲しむ。」
「それは許せない。だから。自分勝手だけど、僕が万が一にでも死んだら、どんな方法を使ってでも。例えーーヴァルゲルムになってでも、この島を壊滅させてやる!」
ざわめきが起こる。
族長にマイクモドキを返した。
「フン。何を下らない事を。」
アハドは鼻で笑う。
「皆は、どう思う。」
族長が聞く。
暫くの沈黙の後、変化は起こった。
「本当にヴァルゲルムなのか?」「ノクトの子だぞ。見た目がどうだろうと関係無いだろう。」「そうだ!こんな小さい子に!」「そうだ!聖剣が本物だって証拠は無いじゃないか!」
ぽつぽつと、反対意見があがる。
「・・何なのですか・・これは・・。私が、創救の始祖龍と知って言っているのですか?」
アハドは驚愕していた。なぜこの龍人達は、厄災を目の前にしてこんな戯言を宣うのか。剰え創救の始祖龍の顕現体を前に、疑うような発言が飛び出るのか。
そう。龍にはこの答えは出ない。龍とは関係の無い感情だからだ。
だが龍人は、人間より寿命が少し長いだけのなんら人間とは変わらない「心」を持つ種族だ。
民衆の心は大きく二つに別れた。
一方は、良心の呵責だ。
民衆のほぼ全てが、「親」であり、「子」である。
考えてしまうのだ。いや、アハドは考えさせる時間を与えてしまったのだ。もし、自分の子だったら。もし、自分だったら、と。
そして、生まれて2日の子が見せる余りにも切ない感情。そして眩い親への愛。
自らの良心が激しく責め立てる。
そして、もう一方は、畏怖。
本当に何かをしでかしてしまうのではないか、という幼子が持つには余りにも仄暗い覚悟。その異形。龍人達は本能的に恐怖してしまっていた。
ジノはこの短い間に、龍人達の心を操る。
良心を責め立て、畏怖させた。
ヴァルゲルムとしてでは無く、忌み子。ジノ・フロットとして。
アハドは感じていた。このままではまずい。何としても、斬らなければ。
「族長、直ちに聖剣を持って来なさい。」
「し、しかし・・」
「黙れ!龍人如きが口答えするな!!『命令』!」
「なっ・・!ぐ・・。」
族長が不自然な動きで石像の後ろに付いている扉の中に入って行く。
「おい!族長に何をした!」「呪いか?」「アイツがヴァルゲルムなんじゃないのか?!」
ざわめきは更に大きくなり、一部では怒号も飛び交っている。
すぐ、族長は戻ってきた。右手には、聖剣オーガストが握られている。
アハドが命ずる。
「斬りなさい。」
「う・・・ぐ・・」
族長は真っ直ぐ此方に歩いてくる。
「族長!何をしているんだ!」「族長!!」
龍人達の怒号が飛び交う。
パパンとママンが立とうとする。
「パパ。ママ。見てて!」
族長は聖剣を真っ直ぐ振り上げ、俺の右肩から斜め下に袈裟斬りを掛ける。
ブォン!!!!!!
大きく、空振った音が鳴り、ジノの体を通り抜ける。
族長はバランスを崩し、転がる。
「通り・・抜けたぞ。」「やっぱりヴァルゲルムなんかじゃなかったんだ!」「嘘だったんだ!!」
民衆の声が響き渡る。
「!?そ、そんなはずない!!!」
アハドは絶叫する。目の前で起こった現象に納得出来ないようだ。
「まだだ!!何をしているの!!もう一度斬りなさい!!」
族長は苦しそうに顔を歪めながら、立ち上がり、向かってくる。
「それ以上は必要ないだろう!」
パパンが止めに入る。族長の手を捻り、聖剣を奪う。
「族長は魔法をかけられているわ!『魔力抵抗』!あなた!何者なの!!」
「・・・私は、始祖龍アハド、です。」
「嘘だ!」「騙したんだ!」
民衆は騒ぐ。
「みんな!落ち着いてください!!この方はアハド様の顕現体で間違いありません!族長をも操る力をお持ちなんですよ!」
ジノがそう叫ぶと、騒いでいた龍人達はピタリと大人しくなった。
「僕は無事です!何も問題はありません!!アハド様も、これでもう問題は無いですよね?」
「・・・・・えぇ。そうですね・・。」
族長がよろよろと立ち上がる。マイクモドキで話す。
「わ、私も、もう大丈夫だ。少しトラブルはあったが、ジノ・フロットは災禍の始祖龍ではない。という事だ。宜しいですかな。アハド様。」
「・・・・・・・・・えぇ。」
アハドは完全に呆けて居る様だ。
「それでは、これにて罪調べの儀を終了する!!」
族長の宣言後、解散となった。
30分程して、神殿からはアハドとジノだけになった。族長とパパンママンに頼んで二人きりにさせて貰ったのだ。最後まで司祭達は離れようとしなかったが、アハドの命令で仕方なく出て行った。
「・・・一体、どうなっているのですか。ヴァルゲルム。貴方程の龍が龍人如きに同情を買わせるなど、あなたらしくもない。それにー」
アハドが問う。やはりこの龍は俺の事をヴァルゲルム本人だと思い込んでいるようだ。
「訂正させて頂きます。まず、僕自身はヴァルゲルムではありません。正真正銘、ジノ・フロットです。」
「なっー」
「只、この体の一部はヴァルゲルムが顕現した名残で、ヴァルゲルム本人は僕の中に居ます。」
「・・そんな、事有り得ません・・!じゃあ、聖剣はなぜお前を斬れないのですか・・!」
「そうですね。色々と種明かしをしましょうか。ー」
ーー時は昨夜のヴァルゲルムとの逢瀬まで遡るーー
《あァ?斬れない物はァ、そうさなァ。・・・龍が触った物以外、かもしれねェなァ。》
「龍が触った?どういう事だ?」
《アイツの剣はなァ、俺ッから見たらよォ、何でもかんでも斬れッちまう様に見えんだがよォ。
アイツァよく邪悪なる物しか斬れないッとか言ッてよォ。物とかアイツ自身を刀身がすり抜けてんのを何回も見た事があッた。
だがよォ、よく考えてみらァ岩でも水でも火でも、俺様が触った途端、真っ二つに斬られてやがッた。》
「それが本当だとしたら、聖剣は邪を払う剣ではなく、龍殺しの剣、なのか?」
《さぁなァ。ただオメェはその理屈で行くと俺様の干渉を受けた龍人だァ、真っ二つだぜェ。》
「なぁ、ヴァル。俺の体は、『龍の干渉を受けている性質』って事にはならないか?」
《ほォ。なるほどなァ。とんちみてェな話だけッどよォ。そう考える事もできらァな。》
「龍の干渉を受けていない性質、に、一部でも変質出来れば。」
《聖剣をすり抜けさせる事が出来るッてこッたなァ。》
「ただ、そうなると聖剣の不透明な部分が怖いな。まだ情報が足りない。」
《それで成功したとしてもよォ。龍の干渉を体ッから一部でも無かった事にする、なんてェのは世界の理からァ離れる力だァ。相応の魔力が持ッてかれると思うぜェ。》
「そう、だな。」
《あとァ島の奴らをそれで納得させられるかッてェとこだなァ。》
「それは何とかしてみよう。そういうのは割と得意なんだ。あとは、アハドの情報が欲しい。」
《あァ、昨日言いそびれたやつなァ。アハドの奴はよォ。1800年くらい前、かァ?いきなり現れてからよォ。何でかァわかんねェが事あるごとに俺様に干渉して来ようとするきらいがあッてなァ。鬱陶しィ奴で何ッ考えてんのかァわかんねェ。》
「敵対していたのか?」
《いんやァ。俺ァ邪魔だとしか思ってなかッたからよォ、こッちからァ何かした事ァ無ェな。》
「アハドの目的はなんなんだ?」
《さァなァ。まともに話した事すらァ無ェ。》
「うーむ。アハドの情報は収穫ナシ、か。・・あ、この精神世界って断罪の騎士が来た時みたいに誰かを呼ぶ事は出来るのか?」
《少なくとも普通の存在じャあ無理だ。アハドならできんじャあねェか。》
「わかった。あとは色々試して見るよ。」
ーーーー
目が覚めてから、ジノは変質を使い、指先だけ、『龍の干渉を受けていない性質』が発動できるかどうかを試した。
何も見た目も感覚も無いが、発動できた。ただ、かなりMP効率は悪い。仕方の無い事だが。
そこでママン、パパンに魔力の回復方法を教えて貰った。
1つ目は自然回復。1分あたり1程度。2つ目はアイテムによる回復。回復薬、特定の食べ物など。3つ目は他者からの魔法。『魔力移動』等がこれに値する。
パパンとママンに聖剣に斬れる物を聞いたが、邪、なるもの、としか知らないようだった。これでは情報が足りなさすぎる。ここで俺は、神殿に行くまでに、祝福スキル、鑑定のレベルを上げる事に専念した。
現在のレベルは2、聖剣をこの目で見て、最大限の情報を得る為に、鑑定のレベルをあげようという試みだ。
ジノは神殿の中で、約300人の龍人族を出来るだけ鑑定した。アハドにバレたのはこの時だ。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
鑑定。鑑定。鑑定。鑑定。
《祝福スキル、『鑑定』のレベルが3に上がりました。》
《祝福スキル、『鑑定』のレベルが4に上がりました。》
《祝福スキル、『鑑定』のレベルが5に上がりました。》
結果的に、鑑定のレベルを5まで上げる事に成功した。目が疲れた。少し頭が痛い。
レベル5で分かる情報を見てみる。
ママンを見てみよう。
名:シャル(母親)
種族:龍人族
年齢:28
最大HP:552
最大MP:820
ほう、少し増えているな。ってかママンMP多いな。問題は武器がどうなるか。だ。
パパンの剣を見てみる。
名:鉄剣ガル
攻撃力:98
耐久度:84%
特性:耐久度5%上昇、使用者のMPを50消費し、30秒間剣の長さを3倍まで伸ばせる。(クールタイム300分)
よし!特性が見れれば問題無い!ってかパパンの剣個性的すぎるだろ。クールタイム5時間って。
そして、いよいよ罪調べの儀が始まった。
俺はどこかでアハドに短絡的な行動を取らせる必要があった。
そこで、先の演説だ。民衆を味方に付け、アハドにこのままでは聖剣が出てくる前に、罪調べの儀自体が無くなってしまう。そう思い込ませる状況に陥らせる事ができた。
あんなに上手くいくとは思ってもなかったが。
結果として狙い通り焦燥したアハドは族長に魔法をかけ、聖剣を取って来させる。
これで民衆の不信感を募らせる事に成功した。
自分で取りに行かないのはもちろん、刃に触れれば9999のダメージを食らうからだ。
そして、操られた族長と共に現れた聖剣。
『鑑定』
名:聖剣オーガスト
攻撃力:9999
耐久度:--%
特性:不滅。『刃』魔王、龍に干渉された対象にのみ攻撃できる。それ以外の対象には干渉出来ない。『柄』普通の柄。
思っていたよりも単純で、予想通りだった。
分かりにくい特性だな。
ただ、流石聖剣、魔王特攻付いてたか。
にしても攻撃力9999って。作成者は絶対にゲーマーだろう。
特性が刃と柄に別れているのは、柄まで干渉できなくなったら誰も使えなくなるから。だな。
「斬りなさい。」
族長が剣を振り上げる。
視界の端に今にも飛び出しそうなパパンとママンが映る。ここで止められたら逆にややこしくなる。
「パパ。ママ。見てて!」
そして、斬られる寸前。
(『変質』。『魔力操作』により、MP出力範囲詳細設定。性質を、龍の干渉の無い性質へ!!)
変質の出力範囲を、斬られる形に合わせる。
ブォン!!!!!!族長の袈裟斬りはジノの体をすり抜け、転がる。
この時、ジノのMP残量はなんと9。MPはママンに頼んで全快にしておいたのだが、ギリギリだった。
ヴァルゲルムの体から、普通の龍人へ変質するのは、やはり世界の理に触れる程の物だったのだ。
この為、ジノは聖剣に斬られるのを一度に抑えなければならなかった。
その為のこれまでの布石。アハドはこの瞬間、民衆に完全に敵意を向けられる。
良心を責めていた者はその反動を。
畏怖していた者はその安堵を。
反対していた聖剣での攻撃を無理矢理族長にやらせ、ジノの体はすり抜けているのだ。
百聞は一見に如かずとは良く言った物だ。
この、罪調べの儀の一見で、今まで100以上は伝聞され続けて来たお伽話の創救の始祖龍アハドへの信仰心は、殆どの民衆から音を立てて崩れ落ちた。
そこからは簡単で、もうアハドは好き勝手に行動出来ない。二の剣はジノに届く事は無く、パパンの手によって聖剣は奪い取られる。
そうなれば、聖剣で斬られて死ぬのはアハドも一緒だ。龍の力を出そうものなら、パパンが聖剣で一太刀だ。そこで、ジノが妥協点を作る。
「僕は無事です!何も問題はありません!!アハド様も、これでもう問題は無いですよね?」
アハドは、乗ってしまった。これ以上の状況の悪化は、創救の名前を持つ者として、許す事は出来ない。
こうして、罪調べの儀でジノは、龍と島の民を騙し切る事に成功したのだった。
ーーーー
「ーーーと、こんな感じですかね。」
「そ、そんな異質なスキル・・・。罪調べの儀が始まった瞬間から、貴方の掌の上で転がされていた、という訳ですか。」
アハドは諦める様な表情を見せた。
「死んでもおかしくなかったですけどね。でも、どうしても解らないことがあります。」
「なんでしょう。」
「貴方がヴァルゲルムを狙う理由、そして今、私を殺さない理由です。」
「簡単な事です。貴方が本物のヴァルゲルムであれば、あの程度の聖剣の一撃ではまず死にません。ただ、動きを止める事は出来ると思ったのです。後者は、貴方がヴァルゲルムでは無いのでしたら、特に殺す必要も無くなっただけです。」
「貴方はヴァルゲルムを殺したがっていたのでは無いのですか?」
「な?!そんな訳ありません!!私は、ただ、ヴァルゲルム様とずっとお話がしたかっただけなのです!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
不自然な点、誤字脱字等御座いましたら、ご指摘お願い致します。
コメント、お待ちしております。