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しっぽの勇者  作者: 羽西ミル
【第1章】始祖龍編
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【第4話】罪調べの儀・前編

ちょっと矛盾が生じたので編集しました。

朝が来た。暖かい日差しを感じながら、ゆっくりと意識が浮上する。


「はーい、ジノ〜、朝でちゅよ〜」


この声はママンだな。


「ん・・おはよう、ジノ。」


パパン。眠そうな声だな。


起き上がる。


「おはよ!パパン!ママン!」


「もうすっかり言葉は喋れるのね!うちの子、天才かもしれないわ!」


ママンは嬉しそうにはしゃぐ。


「やったー!」


便乗しておいた。


「シャル、僕だって生まれてその次の日には喋れたよ。」


「あら、奇遇ね?あたしもよ!じゃあ家族みんな天才なんだわ!」


「はは、そうだね。天才一家だ。」


ママンは少し抜けてる感じがする。

パパンはいつも優しい笑顔だ。

幸せな家庭だ。俺が一本尾じゃなければ。

恨むぞヴァルゲルム。


この人達の笑顔を守る為には明日の晩までに聖剣への対策法を考えないといけない。時間が無いな。


「シャル、僕は朝ご飯になる物を取って来るよ。」


「ええ、お願い!ジノの為に栄養タップリの朝ご飯、取って来てちょーだい!」


「うん。1時間もかからないと思うから、待ってて!」


「わかったわ!いってらっしゃい!」


ママンとパパンは軽くキスをし、パパンは出かけていった。


(キスの文化はあるんだな。お熱いようでなにより。)


「ジノ、ママキッチンで朝ご飯の準備してるから、何かあったら呼ぶのよ!できる?」


「はーい!」


部屋に1人になった。


(よし。現状罪調べの聖剣をどうにかできそうなのは色々考えても固有(ユニーク)スキルの変質だ。

この際リスク度外視で、色々と試してみよう。『変質(オルタレーション)』。腕を、スライム状に!)


ドロォッ


右腕が溶け落ちる。


「うわぁぁぁァァァーーーー!!!か、解除!」


声に出して驚いてしまった。腕は逆再生するように元通りになった。


バゴォ!!!!!!


「ジノ?!何かあったの?!」


ママンが扉を吹き飛ばす勢いで開けて入って来た。


(あっぶねーーーー!!!ママン、それ扉が開く音じゃないぜ!!!)

「な、何でもないよ!ちょっと寝ぼけてて・・えへへ。」


「そう。ならいいのよ!何かあったら今みたいに呼ぶのよ?飛んで来るから!」


本当に飛んでこれるから困る。


「うん!」


扉がギィと痛々しい音を立てて閉まる。今ので歪んだのかもしれない。


( あ、危なかった。今のをママンに見られたら卒倒するぞ。あ、でも俺が隠さなきゃいかないのはヴァルゲルムの体って事だけだよな。にしても、性質を変える事によって聖剣を物理的に躱すのは難しい、か。・・ん?気体ならどうだ?『変質(オルタレーション)』。空気に!)


すると、右腕がフッと消えた。感覚も全く無い。本当に戻って来るのか不安になる。


「っ!!!・・解除。」


予想はしていても実際に起こると驚いてしまうものだ。声は出さずに済んだ。

腕は再度フッと現れ、元に戻った。


(うーん。戦闘には使えそうだけど、流石に消えたら分かり易すぎる。いかん。俺の知識じゃ手詰まりだ。あとは夜ヴァルに聞こう。アハドの事もあるし。)


ふとMPを見ると、半分程に減っていた。


(試行回数もかなり限られてる。MPを回復する手段は身近にあるだろうか。できれば、魔物でも倒してレベルを上げて超回復(リミットアッパー)をまた使えるようになれば、かなり違うんだろうけど・・。

ただでさえヴァルゲルムじゃないかと疑われている状態なんだ。怪しい行動は避けた方が良いだろう。)


悶々と一人考え事をしていると、パパンが帰ってきた。

パパンはいくつかの果物と、桃色のウサギっぽいナニカを取ってきた。ピクロと言うらしい。


朝ご飯はそのピクロの肉とサラダとミドリパンだった。ピクロの肉は殆どクセが無くて美味かった。


その後、パパンは仕事に行った。

パパンの仕事は簡単に言うと警察で、島の人達の些細な揉め事の解決や、魔獣が村に入って来ないように巡回している。島一番の剣士なのに、なんとも平和な仕事だ。

ママンは学校の先生だ。今は育児休暇的な状態で、何を教えて居るのか聞いてみると、なんと魔法学。少し意外だった。


その日はママンに魔力の扱い方を教えてもらう事にした。


「いい?まず基礎スキルの魔力感知よ!ママがジノに魔力を通すから、集中して魔力の存在を感じるのよ!」


「基礎すきる?」


「魔法を使う上では必須スキルよ!素質、素養があれば簡単に取得できるわ!無くても魔法やスキルは使えるけど、魔力消費の効率がひどく悪くなるわ!」


(なるほど。だから変質のMP効率が異常に悪かったのか?)


シャルは人差し指をジノの額に当て、唱える。


「『魔力移動(ムーヴ)』。」


額から、暖かい何かが流れ込んでくる。MPが回復していく。


「あら?あららら?」


ママンの様子がおかしい。MPが70程回復した所で魔力移動(ムーヴ)が解除された。


「待ってジノ、あなたMP今いくつあるの?」


ギクッ。隠しても怪しまれるし、素直に言うとしよう。


「202だよー!」


無邪気を装い答える。


「・・・・え?202?え、202!??!天才だわ!天才すぎるわっ!!」


「そんなにすごいの?」


あざとく頭を傾げる。ヴァルゲルムにも見られていると思うと、少し恥ずかしい。


「当たり前よ!最初は5しかないの!MP200っていったら、20レベル相当はあるんじゃないかしら!」


「やったー!」

おお、MP無双も夢じゃないな。


「おかしいと思ったわ!本来これは相手に自分のMPを与えるって魔法なの。で、いっぱいになると、魔術回路を通して、お互いを行き来するのよ。ジノだったらすぐ循環するはずだわ!と思ってたらぐんぐん吸い取られちゃったからびっくりしちゃった!」


「えへへ!でもあとちょっとだよ!」

自然回復も含め、あと10程で満タンだ。


「そうなのね!あれ?・・でも、おかしいわ?魔力総量が大きくても使った事が無ければ減るはずないのに・・。ジノ、何か魔法を使ったかしら?」


ギクギクッ 今日のママンは勘が鋭い。


出来れば秘密にしておきたかったが致し方ない。


「あれれぇー?このスキルの事かなぁ?(『変質(オルタレーション)』指先に光る性質に!)」


あざとい演技も板に付いてきた。その様はまさに名◯偵コナ◯の如く!!


ポゥと淡く指先が光る。おぉ。やってみれば出来るもんだな。


「あぁ、それは光属性初級魔法の・・・ってえぇ?!指先自体が光っているの?!!見た事無い魔法だと思ったけど、それ、スキルなのね?何に使うのかはよく分からないけど、さすがあたしの子ね!」


よしよし、誤魔化せたようだ。


「じゃあ続けるわよ!」


「はーい!」



そうやって、夕飯の時間になるまで、俺はママンに魔術の基礎を教わった。


《基礎スキル、『魔力感知(サーチ)』を入手しました。》


《基礎スキル、『魔力操作(オペレート)』を入手しました。》


どうやら俺には魔力を扱う素質があったようで、魔力感知はすぐ取得できた。その後一時間程で魔力操作も難なく取得した。


魔力感知(サーチ):体の中にある魔力の流れが分かる。そして周囲の魔力を感知出来る。MPの消費は無く、常に発動している。


魔力操作(オペレート):自身の魔力を自由自在に操る事ができる。MPの消費は無い。


基礎スキルとは、MPの消費の無いスキル全般らしい。異世界人の俺(楠川アキト)からすると、ファンタジー要素をうまく使う為のスキルのように感じる。よく出来てるな。


魔力操作に関しては本来1年程修行が必要だそうだ。

先祖返り(というか先祖本人)の体のおかげで、かなりチート気味な速度で取得できた。


予想通り、魔力操作のおかげで変質のスキル効率が上がった。更に、出力範囲がかなり精密に指定できるようになった。


その晩もやんややんや騒がれながら、1日を過ごした。

その間も体の成長は続いており、体型は3歳くらいになっただろうか。背中に小さい羽が生えてきていた。


明日の晩は、罪調べの儀。今夜のヴァルとの逢瀬で、何か手がかりを掴まなければ。



ーーーーー


《よォ。》


「おっすヴァル。色々考えたがお手上げだ。お前の知恵を貸して欲しい。」


《そうみてェだなァっても、俺様ァ今まで破壊しかやってこなかったからよォ。殺られる前に殺るッつーのが最善策だと思うんだけどよォ。》


「脳筋め・・。今後この島で生活する為にも、両親の為にも、それはしたくないんだ。」


《にしてもオメェ、あのガキの演技はァ面白ェなァ!カカ!こっちが恥ずかしくなるッてもんよォ!》


「やめろーー!!!それは言わないでくれ!掘り下げるな!!!」


《カカ、まぁ好きにしろやァ。オメェが死んでも俺ァこの精神世界で殺されねぇ限りは困らねェからよォ。ただァ、オメェのあのスキル、ありゃァなんだ?》


「変質、か。お前のスキルかと思ってたんだけどな。」


《俺らァ龍はそういう概念の生き物じゃァ無ェんだよ。顕現したらァ姿形は違っても力はァ龍のままだ。んなもん必要ねェんだよ。》


「強くてニューゲームか。チートだな。」


《あァ?何言ってんだァ?》


「こっちの話だ。ん?じゃあ、俺の力自体は、お前の物とは違うのか?」


《オメェの体自体の性質は俺様だけどよォ、見た目の黒鱗と尻尾以外はァ大体オメェのもんだぜェ。》


「そう、なのか。・・性質。・・性質ね。」


《物理的な性質を変えるッてェのは一部の魔物に似てッけどよォ。オメェのスキルは自由自在に物理的にもそのものの性質も変えられるなんてェのは見た事がねェ。》


「・・・ん?そのものの性質?いつ俺がそんな事したんだ?」


《したッだろーがよォ。指自体を光る性質に変えてただろーが。ありゃァ物理的な効果ではあッけど性質じゃあネェ。指自体を光に変えるならまだしもな。》


「・・言われて見れば、そうなの、か?・・待てよ、だとしたら・・ヴァル、聖剣には何が斬れて、何が斬れない?」


《あァ?斬れない物はァ、そうさなァ・・・》





ーーーー




こうして、ヴァルとの作戦会議を済ませ、罪調べの儀、実行の日を迎えた。



その日の朝、俺は一人ある事を確かめていた。


「・・・予想通りだ。あとは、聖剣だな。」


いつも通りに過ごし、陽が落ちる少し前、両親と共に神殿に向かった。


徒歩で大体30分くらいの所に神殿はあった。


全てレンガ造りで、白く塗り潰されている手作り感のある建物だった。


中には既に300人は超えるだろうかという龍人達が集まっていた。住民の6割が参加しているらしい。族長の一言とはいえ、よく集まるもんだ。


「よく来ましたね、黒龍の子。」


白い幼女だ。姿形は俺と同じ3歳程の体型だ。人形の様に整った顔。真っ白な髪に真紅の瞳。若草色の眼鱗がよく似合っている。ただ、彼女の尻尾は10本。そしてその其々が5又になっている。やや細く、ゆらゆらと面妖に揺れている。


始祖龍アハド。その人だ。


彼女は司祭達に囲まれ、ジノの前に現れた。


「逃げださなかったのは褒めて差し上げましょう。無謀な賭けをするのですね。」


アハドは俺を無表情な紅い瞳で見つめ、そう言った。


「お初におめにかかります。あはどさま。」


俺は膝を折り、頭を垂れる。


(早速ラスボス登場かよ。『鑑定(チェック)』)


『始祖龍アハド:龍人顕現体』


(顕現体・・ね。)


「ぼくは言い伝えのヴァルゲルムとはちがいます。その、証明にきました。」


「フフ。その、可愛らしい演技もどこまで続くでしょう。楽しみにしていますわ。」


両者礼をし、すれ違う。その、間際。


「この日を待ち望みましたよ。やっとですね。」


ぼそりと、アハドがジノだけに聞こえる声で囁いた。


「っ!!!」


静かに、放たれたその言葉は、何百年もの重みを持っていた。

ゴクリ、と自らの喉が鳴るのを感じる。思わず振り返ってしまった。

アハドは無表情から一変、妖艶な笑みを浮かべていた。

その様は後ろから見ると、蛇のような尻尾も相まって、メデューサの様だ。


「どうかしたか?ジノ。顔色が悪いぞ。」


パパンが心配そうに顔を覗く。


「う、ううん!大丈夫!」


(アハドは、何が目的なんだ・・。)


神殿の中は薄暗く、簡素な木の長椅子が無数に並べられ、最奥にステージがある。中央にはに剣を翳した龍人の巨大な石像があり、異様な存在感を放っていた。


「ジノ。あれが名前の由来になった、勇者ジーンだよ。男の憧れなんだ。」


ノクトは目をキラキラさせて石像を見ている。気持ち、わかるぜ。パパン。


ステージの両サイドに俺含めパパンとママン、アハドと複数の神官が着席した。

中央の石像の前に族長が立っている。学校の体育館みたいだ。


完全に陽が落ち、闇に沈んだ頃、それは始まった。


神殿内の柱や壁には、いくつもの松明が設置され、火の揺らめきに応じて、薄暗く神殿内を照らしていた。


族長が短い棒を取り出す。短い杖のようで、先端にはピンクの宝石の様な物が付いている。拡音石という少し珍しい鉱石だそうだ。マイクだな。


静寂の中、族長が話し始めた。


「待たせた皆の衆。今宵、皆に集まって貰ったのは、つい2日前、フロット家に生まれた長男、ジノ・フロットに、災禍の始祖龍ヴァルゲルムの顕現体である、という容疑が掛かっているのだ。それが、本人は違うと言っていてな。それをこの場の皆に証明しようという事になったのだ。」


俺にスポットライトが当たる。眩しい。ってかどうやってんだこれ。


「ノ、ノクトの子が・・?」「まだ子供じゃないか・・。」「黒い鱗だ・・・。」「大丈夫なのか・・?」


見た事も無い異形の登場に、恐れ慄きざわつく民衆。そりゃそうだ。


「静粛に!!!!!!」


族長がマイクモドキで叫ぶ。鼓膜が破れるかと思った。だが、静寂は戻った。


「それを裏付けるように、また、もう一人。特別な子供が生まれた。創救の始祖龍アハド様の顕現体だ。」


同じくアハドにもスポットライトが当たる。


先程同様ざわついたが、族長のひと睨みで静まった。スゲー。


「まず、アハド様。ジノ・フロットはヴァルゲルムの顕現体なのでしょうか。」


族長が拡音石の杖を渡そうとしたが、アハドは手で制し断る。そして喉に手を当て、言った。


「絶対。とは言えませんが、その可能性は限りなく高いと思われます。」


おお、凄いデカイ声だ。ママンによると拡声魔法といって、調節の難しい魔法らしい。


「ふむ。それでは、ジノ・フロットがヴァルゲルムでは無い、と証明し得る方法はありますかな?」


「ここには丁度、聖剣が保管してあったはずですね。聖剣は邪なる物しか斬れませんから・・」


「なるほど、斬られてしまえば邪、なる者。つまりヴァルゲルムであったと。斬れなければ、ただの特殊な見た目の子供、という訳ですな。」


「ええ、その可能性は限りなく低いでしょうが。」


態とらしい茶番だ。民衆に分かり易く伝える為だろう。


「それでは、この儀を罪調べの儀と名付け、儀式を始める!ジノ・フロット。前へ。」


「・・はい!」



さぁ、見てな。アハド。族長。民衆よ。

ここで俺は名実共にただの忌み子になってやるぜ!!


不自然な点、誤字脱字等御座いましたらご指摘の程、宜しくお願いいたします。

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