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しっぽの勇者  作者: 羽西ミル
【第1章】始祖龍編
3/10

【第2話】誕生。忌み子ジノ・フロット。

あれもこれもと書き続けていたら、長くなってしまいました。

(ついに!!この!時が!!!)


孵化まで約1分を切っていた。自身を包み込んでいた卵白が自分の身体に完全に吸収され、無くなる。


筋力はほぼ無いようで、四つん這いがやっとだ。


呼吸を始める。不思議な感覚だが問題なく空気を吸って吐ける。


(声は出せるのかな。)


「カ・・キュ・・」


掠れた声が僅かに出る。


(むむ、喋るのはまだ難しそうだ。)




記録表示(ログ・ディスプレイ)


ー孵化まであと10秒 9.8.7.6.5.4.3.2.1.0ー


(・・・・ん?卵割れないけど。。自分で破るのかな?)


四つん這いの体制から尻尾を勢いよく殻に向かってぶつける。


バシッ!


もう一回。


バシッ!


(あれ。思ったより頑丈だな。尻尾の先を変質させてみよう。『変質(オルタレーション)』石のように!)


尻尾の先に集中させ、勢い良く突いてみる。


ズドッ!バキバキピシピシピシピシ・・


(お、割れた割れた。)


「■■■!■■■■!■■■!」「■■■■!■■■■■!」


外の音が聞こえる。卵の殻はかなり分厚かったようで、防音性能があったみたいだ。

やたら五月蝿く感じる。


尻尾で空けた穴を、外からゴツゴツした指で割り広げられる。人間の指と変わらない。


(パパンかな?『鑑定(チェック)』)


『手』


そりゃな。


浮遊感に包まれる。

持ち上げられたようだ。すごく眩しい。


光に目が慣れてくる。

若干視界がボヤけているが2人の姿が視認できた。パパンとママンだ。


俺はパパンに抱え上げられていた。


母親と見られる女性は眩い金色の腰辺りまで伸びたストレートのロングヘア、目尻には鮮紅の鱗。翡翠色の大きな瞳にそして美しい曲線を描きやや上に伸びた真っ白な角が生えていた。可愛い。スタイルも良い。160センチくらいだろうか。凄まじい美人だ。ママン最高。


父親と見られる男性は暗めの紺の短髪。少し癖っ毛だ。鮮やかな群青の目尻の鱗。優しいそうな顔つきをしているが、それを台無しにしそうな鋭い目。黄金色、と言うべきだろうか。光るように映えた色だ。

そして角は髪に反し真っ直ぐ斜め上に生えている。

ガタイはそれ程逞ましくはないが、身長が高く引き締まっている体だ。180センチはあるだろうか。

パパンもかなりイケメンだ。その眼光、シビれるぜ。


あれ?2人とも尻尾が見えない。しまえるのかな?


(まずは二人を鑑定してみよう!『鑑定(チェック)』。)


『龍人:男』


『龍人:女』


わかってるわ!!なんだこのクソスキル!!!


四つの瞳は、掲げた俺を見て目を見開いていた。


(そうかそうか、そんなに俺の誕生が嬉しいか。よろしくねパパン、ママンぬぉあー?!)


「えぶぁ!」


変な声出た。


唐突に半回転させられ、逆側に掲げられたのた。そこには木とレンガでできた洋風の家の中だった。

「■■■■■■・・?」「■■■・・・・。」


(パパン雑!!おお、屋内だったのね。良い雰囲気の家だ。『鑑定(チェック)』。『家』わかってたよ!!!まぁでも割と文化は発達してるみたいだな・・・。ん?静かだな。)


先程まで大騒ぎだった両親の声がピタリと止んでいる事に気づく。


そして再度半回転し、ママンに抱かれた。


二人の顔色は優れない。二人とも動揺しているようだ。


(え・・・・なに・・?)


漠然と不安になる。するとそれを察したかのようにギュッと強く抱きしめられる。苦しい。


「■■■■■■■。■■■」


父は俺と母を一緒に抱きしめる。


(何て言ってるんだ・・・?何でママンは泣いてるんだ・・・。)


小さい指で母の手を握る。


母は笑顔を見せる。子供に不安を感じさせまいと、必死に涙を堪える。


(俺、もしかしてなんかヤバイもんに転生した・・・?そりゃないぜナナシさん・・。少し、疲れた・・。孵化の影響だろうか。眠ろう。)



龍人族固有(トライブ)スキル取得条件『孵化』を達成しました。『変体(ヴァリアント)』を取得しました。》

祝福(ギフト)スキル鑑定(チェック)のスキルレベルが2に上がりました。》

《V世界必須スキル『言語理解(ワールド・ワーヅ)』を取得しました。》


こうして俺は、龍人族の忌み子として生まれ落ちた。



ーーーーーー


意識が浮上する。どうやら木でできたベビーベットみたいな物の中で寝かされているようだ。

隣の部屋から声がする。


「なんでよ!!あの子には関係無いわ!髪の毛は黒いけど瞳はあなたの色だし、眼鱗はあたしの色よ!間違いなくあたし達の子なのに!」


(・・・ん?言葉が分かるぞ。お、必須スキル『言語理解(ワールド・ワーヅ)』か。多分孵化した事で他人とコミュニケーションを取る必要が出てきたから取得できたって感じなのかな?良かった。分かる気しなかったんだよな。)


「落ち着いてくれシャル。わかっているがあまりにも異常な事なんだ。髪の色は良いとして、眼鱗の色と尾鱗の色が違う種なんて見た事無い。しかも尻尾は真っ黒な鱗で忌み子の象徴の一本尾。族長に報告すべきだ。」


(目尻の鱗は眼鱗って言うのか。そして俺のはママン似で赤いんだな。んで、尻尾の鱗が黒いのと眼鱗と色が違うのと尻尾が1本は異常なのか。なるほど。そりゃ異端すぎるな。)


「忌み子なんて言わないで!!初めて生まれた子なのよ!!なんで・・・なんであたし達の子だけ・・!・・・逃げましょう。あの子を連れてこの島から出るの。親子水入らずで外の世界で暮らしましょう?」


(ママン・・。ん?島?島なのか。)


「そんな事はできない。第一、君と僕だけじゃ転移門番ナタークを倒す事はできないよ。あれは龍人を外に出さない為のものなんだ。この島一の剣士の僕が言うんだ。少なくとも30人は手練れが居ないと倒せるようになってないんだよ。僕が族長に掛け合うよ。誰が何と言っても僕達の子供さ。誰にだって殺させやしない。」


(良い両親だ。パパンは島一の剣士!修行して貰おう。あとナターク気になるな。よし。第一目標はナタークさんをぶっ飛ばすことにしよう。)


「ノクト・・・でもあの子は、その、1本尾の上にお伽話に出てくる災禍の始祖龍ヴァルゲルムの特徴、

純黒の鱗よ?族長が見たらなんて言うと思う?」


(ママンの名前がシャルでパパンがノクトか。 災禍の始祖龍ヴァルゲルム・・。めちゃめちゃかっけぇ。)


「馬鹿。お伽話の話だろ?本気にするな。ただ、あの族長の事はわからない。僕の祖父の代からずっと生き続けてる人だ。すぐに殺す事は無い・・・と思うが、どうなるか予想もつかない。」


(族長長寿なんだね。最悪殺されるか・・。まぁ成り行きに身をまかせるしか無いな。今の俺じゃ抵抗もできない。)


「嫌・・・嫌よ・・・!」


「シャル、僕もさ。でもこの島から出る事が許されていない以上、すぐにバレる。隠していたと分かったら、問答無用で斬り殺されても仕方の無い事なんだ。あの子の事を思っても、族長の所に行くべきだよ。」


「・・・・・。わかったわ。族長の家に行きましょう。でも、あの子を殺すなんて事になったら、あたしは世界を敵に回してでも、我が子を守るわ。」


「シャル・・僕も誓うよ。フロット家総出で戦争だ。」


(パパン、ママン、ありがとう。家名があるのか。フロット…。何というか、普通だね。あれ、そういえば俺の名前は?)


「ありがとう、ノクト。・・じゃあ、族長の家に行く前にあの子の名前を決めましょう?」


( そうそうそれそれ!)


「実は一つ、考えてあったんだ。皮肉なもんだが、始祖龍ヴァルゲルムを倒した龍人の勇者、ジーン・ノルドラの名前をあやかって、ジノ。どうだい?」


「ジノ・・。うん。何があっても、この子には強く生きてほしい。良いと思うわ。」


(おお、勇者の名前もじったのか!!かっけーかっけーよ!俺の名前はジノ!ジノ・フロットだ!)


「よし!じゃあ行こうか。シャル、後悔してないかい?」


「ノクト。怒るわよ。私はこれから後悔しない為にこの子を守るって決めたの。」


「ああ。シャル。僕は君と結ばれる事が出来て本当に幸せだよ。」


「あたしもよ、ノクト。愛してるわ。」


(お熱いこと。さて、ここからが本番だ。)


「あーうあー」


(声を出す器官が発達していないのか、言葉を発する事ができないな。)


「はいはいジノ、お出かけでちゅよ〜」


「まー!!おー!!!」(ママン!俺が族長ぶっ飛ばしてやるぜ!)


「ジノは元気だなぁ。よし、パパも頑張るからな!!」


「おー!!ぱー!!!」(おう!パパンも頼りにしてるぜ!)


ママンに抱かれて外にでる。そこは思ったより田舎っぽい長閑な町だった。


見る限り龍人しか居ないみたいだ。田畑を耕してる者、行商人のように何かを売り歩いている者、かけっこしている子供、剣を素振りしている者など、様々な龍人だ。

皆、髪の色、瞳の色はバラバラだが、やはり眼鱗と鱗は同色みたいだ。そして、黒色は居ない。灰色っぽいのは居るけど。


俺は外套を被せられ顔しか見えないミノムシ状態である。族長の家まで誰にも見つからずに行く必要があるのだ。事が明らかになるまでは、不用意に厄介塗れの俺を晒して騒ぎになると面倒だからね。


(緊急ミッション!族長の家まで誰にも見つかるな!スタート!)


「あら、フロットさんこんにちわ。お散歩かい?」


(ミッション失敗!!!!)


家を出て数歩で声をかけられた。ふくよかな天パのおばさんだ。


(おいおい幸先悪いぜ。こういうおばさんって世界を問わずどこにでもいるもんなんだな。髪は緑だけど。)


両親に緊張が走る。


「リ、リジェおばさん!!こんにちは。そうなんす!!!良い散歩びよりすから!」

(マ、ママン演技下手すぎ・・。そうなんすて。)


「そうかいそうかい!おや・・?その子は・・あぁ!そろそろお子さん生まれる頃だったわね!!やーおめでたいねぇ。一回抱かせてよ〜。」


(はいピンチ!!!もうゲームオーバーだよママン!!)


「リジェさんすいません。息子は今病気の可能性があるんです。散歩がてら族長の家に行こうと思ってまして。族長がいつまでいらっしゃるか分からないので少し急いでいるのです。また後ほど、挨拶に伺わせてください。」


(パパンナイス!嘘もついてない!)


「あら、それは大変。呼び止めちゃって悪かったわ〜。あ、私も洗濯物の途中だったわ!あっはっは!また後でね〜!!」


「はい!また後ほど。」


リジェおばさんはそのまま小走りでうちの隣に戻って言った。お隣さんだったようだ。


「・・・シャル。緊張しすぎだ。逆に怪しいよ。」


「そ、そんな事いったってやった事ないんだものぉ・・。」


「最悪バレてもなんとかなる。自然体で行こう。」


「はぁい・・・。」


この後は特に何も無く20分程経っただろうか。今までに見た中で一番デカイ家についた。族長宅だろう。


「シャル、一応何も無いとは思うけどいつでも対応できるようにしておいて。万が一の場合は、ジノの生存が優先だ。」


「わかったわノクト。ジノ優先ね。」


「コン、コン」

族長宅の扉をノックする。


しばらくすると、扉がゆっくりと開く。


「ふむ。やはり来たか。中に入れ。」


族長は思ってたより若いオッサンだった。人間の見た目で言うと40台前半といったところだろうか。白髪が混じった灰色の長髪に、くすんだ青い瞳。サークレットの様に額側に伸びる角。背丈は170センチ程だと思われるが、不健康なガリガリ体型だ。ちょっと怖い。

中に案内されると、窓の無い少し不気味な応接室のような間に通された。部屋には木でできた長椅子と机があり、両親はそこに座る。対面に族長が座った。

俺はママンに抱かれている。特等席だ。


「族長、何かわかるんですか?」


ノクトが問う。


「今日は2回目だからな。推測すると、忌み子が生まれたか。もっと悪いモノが生まれたか。」


ゴクリと、ノクトの喉が鳴る。


(2回目・・・?)


「息子のジノです。見てください。どう思われますか?」


「ふむ。」


ジロリとくすんだ青の瞳が近づき、体を細かく見られる。嫌な気分だ。


「うむ・・。忌み子だな。即刻殺すべきだ・・・が、ここまで通常の龍人のルーツと離れている種は見た事が無い。瞳、眼鱗、それぞれお主らの遺伝子だろうが、見た目だけの話だ。構造はもっと原種の龍に近い。先祖返り、という物かもしれん。このまま正しく成長すれば・・いや、問題なのは純黒の鱗だ。いつ我々が殺されるやもわからん。今、殺すべきだ。)


「・・・そんな、お伽話を族長は信じられるのですか。」


「ノクトよ、ヴァルゲルムの言い伝えはお伽話でも何でもない事実だ。お主らの世代ではお伽話に感じられるやもしれんが、龍人族にとって畏怖すべき物に変わりはない。排除するべきなのだよ。尤も、私も数百年前からずっと聞かされていた話だ。半信半疑では居たよ。今日まではな。」


(何歳なんだよこのオッさん。)


「族長、どういう意味ですか?」


「始祖龍にはヴァルゲルムと対になる存在が居るのを知っているだろう?」


「・・創救の始祖龍アハド、だわ。・・まさか。」


シャルが重々しく呟く。


「そう。そのまさかだ。君たちが来るほんの少し前に、ドラクロン家からそれはやってきたのだ。」


「ドラクロン家・・確か、司祭の一家でしたか。」


「そうだ。そこで約3日前に産まれたのが、髪は純白で瞳は赤。眼鱗は若草色で尻尾は・・純白の娘だった。彼と違うのは尻尾だ。10の尾を持ち、一つ一つの尾が5又に分かれている。まるで神話の存在だったよ。」


「そんな・・。」


「それに加えて産まれて3日の彼女がこう言った。「 我が名はアハド。真なる龍。ヴァルゲルムに似た気配を察知した為私の一欠片をこの少女に顕現させています。数日内にこの体は返還しますのでご心配はいりません。」とな。」


「そんな、この子がそのヴァルゲルムとでも言うのですか!」


「状況証拠では、そういう事になるな。」


「他に方法は、ないのですか。」


「転移門番ナタークを倒し外界に逃げ果せるか、子供の死に毎日怯えながらここで暮らすか、どれを取ってもまともな人生は送れない。・・・ご婦人。殺気が漏れてますぞ。」


ふと、ママンの顔を見ると物凄い形相になっている。怖いよママン。

このままじゃ血を見る事になりそうだ。なんとかしてこの場を納めなければ。


「そうさな・・・。む、そういえば、神殿に勇者ジーンがヴァルゲルムを倒した際に使った聖剣が祀られていたか。」


「それが、どうかなさいましたか?」


「例えばの話だが、民衆を集めてその赤子を聖剣で切る。罪調べの儀、とでも名付けてな。聖剣は邪なる者以外は切れぬから、それでその赤子が死ななければ晴れてヴァルゲルムの忌み子ではなく、只の一本尾の忌み子だ。死ねば災禍の始祖龍ヴァルゲルムの復活を阻止したと言えば良い。」


「それでも忌み子なのですか・・?」


「当たり前だ。ヴァルゲルムでは無いとなっても一本尾の呪いは消えぬ。その子にとっては辛いやもしれぬ。只、将来害になるかもしれない忌み子と、害にはならない忌み子とでは、民衆の印象が違うだろう。」


「・・・そう、ですね・・。」


「冗談じゃないわ!罪調べの儀?!この子には何の罪も無いわ!」


「それを証明する為の儀だ。」


「そんなの納得できるわけ・・・!」


ジノが母の腕を掴む。そして真っ直ぐ見つめる。


「だーー!!」(大丈夫だよ、ママン!俺は暗黒龍なんかじゃないよ!)


「ふむ。彼は理解しているようだが。どうするかね?」


「ジノも男だ。親の僕たちが怯んでどうする。ジノがヴァルゲルムなんて有り得ない。ジノが前に進もうとしてるんだ。背中を押してやろう。」


「ノクト・・そうね。始祖龍なんて関係ないわ!ジノが大丈夫って言ってる気がするの。信じてあげなきゃ、ね!」


「ふむ。それでは明後日。日が落ちる頃にこの町の神殿でいかがかね。」


こうして、俺の罪調べの儀が執り行われることになった。

不自然な点、誤字脱字等ご指摘宜しくお願い致します。

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