【第0話】楠川アキトとしての人生
初投稿なもので、誤字脱字、不自然な点等ご指摘頂けると幸いです。
ある少年は世界に退屈していた。
「はあぁ・・憂鬱だ。」
この少年が楠川アキト。この物語の主人公である。
「この世界にはロマンが無いよ。ロマンが。あ〜主人公したいよ〜〜。」
この地球という惑星に生まれ、日本という国で育ったアキト。
両親共に世界を股にかけ仕事をしている為、家には家政婦が一人。兄弟は居ない。
両親は忙しく、2.3年に一度会うかどうかといった所だ。
また、子供の育児方針は本人に任せるという自由奔放ぶりの為、
お金だけは十分にあり、それをアキトは存分に利用し、趣味に偏った生活を送っていた。
アキトの物心が付いた頃から約15年。
アニメ、漫画、ネトゲ...etcなど自分の趣味に囲まれて過ごし、生粋のヲタクが出来上がった。
とは言っても、小中学校では普通の少年を演じていた。
クラスで浮いてもメリットなど無い。
そこそこ友達も居て、成績は中の中。平凡な生活を送っていた。
だが、高校に入り、自分の趣味を受け入れてくれる友が増えた途端、アキトは演じる事をやめた。
その気になればいつでも親のコネで仕事には困らないので、特に進路も気にする必要も無い。好きな事で、生きていくってやつだ。
現在高校2年生17歳のアキトは高校のヒエラルキーの最下層でヲタク友達と和気藹々ヲタ活していた。
だが、現実はヲタクに厳しい。
周りに馬鹿にされ、小中共に過ごした友人は殆ど離れていった。色恋沙汰なんて以ての外だ。
そんな事を気にするアキトでは無いが、煩わしい事に変わりはない。
生徒の中で浮く事を感じながらも、少しずつ授業をサボるようになっていった。
「ん〜〜明日は話題のMMORPGのオープン日か。徹夜だなぁ。」
アキトは学校の屋上で寝転がりながら、スマホでネットサーフィンに勤しんでいた。
「おーーーいアキトぉ!!そこに居んだろぉ!?」
幼馴染の榊マコトだ。幼稚園から一緒で腐れ縁というやつだろうか。五月蝿い。
ヤツとは趣味は殆ど合わないのに気がつくと一緒に居る数少ない例外だ。
「んぁあ?うっせーよばーか!美少女になって出直して来い!」
アキトは鬱陶しそうに返答する。
「やっぱここか。お前ここ好きだなー」
マコトは辛辣なアキトの返答をスルーしつつ、アキトの隣に座る。
アキトは屋上が好きだ。太陽に焼かれ乾き切ったコンクリートの匂い。地上よりも澄んだ空気。街並みの景色。そしてなにより、静かだった。
「ほれ、購買で買ってきてやったぞ。どうせ食ってねぇんだろ。」
マコトが差し出したのは焼きそばパンだ。
アキトの家は家政婦が居るのだが、丁度難しい年頃だ。迷惑もかけたく無いので弁当は作ってもらってない。
自分で買いに行くのも面倒なので昼食を抜く事も多いのだ。
「おっ丁度小腹が減ってたんだよ。毎日毎日ごくろーさんっ!ほい100円。はむはむ。」
マコトに100円渡し、かぶりつく。
「お前もう少し遠慮しろ。あと30円足りねえ。」
「ハイハイ。来世で返すさ。」
「ふざけんなバカヤロウ。」
「おい!俺の嫌いな紅ショウガ入ってるじゃねーか!マイナス30円な。」
「お前紅ショウガ好きだろうが!幼馴染ナメんな!」
「たった今嫌いになったんだよ俺の舌のご機嫌ナメんな!」
「じゃあ食うなよ」
「そんな可哀想な事できるわけないだろ!俺は紅ショウガの事は嫌いだけど紅ショウガは俺の事好きなんだよ!どうしてそんな酷い事が言えるんだ!悪魔か!!」
「紅ショウガの気持ちはわからねぇ。」
他愛の無い会話が続き、昼休憩終了の予鈴が鳴る。
「アキト。この後の授業どうすんだ?」
「愚問だな。学校終わるまで寝てっから起こしてくれ〜。」
ニヤケながら昼寝の体制に入るアキト。
「お前俺を小間使いかなんかだと思ってんじゃねえだろうな?!」
マコトの叱咤を他所に、ヒラヒラと手を振り寝てしまうアキト。
今までに幾度となく繰り返してきたこのやり取りが、最後になる事も知らずに。
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目が覚める。
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真っ白な世界だ。
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俺は水面に浮かぶただひとつの木の葉のように、白い世界を揺蕩う。
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意識がハッキリしてくる。
…ん?
なんだここ。どこだ?
たしか昼寝してたような。。…夢か?
なんだろう。全身が痛い。
…痛い??!?!
夢じゃ、ないのか?!
ーーーー
「なんだ・・・ここ。。」
全身に寒気が走る。
起き上がろうにも。体が動かない。いや、動いているのかわからない。
ふと、自分の体を見る。
そこには、
何かに貪られたように、自らの両手両足が不揃いに千切れ、腹に風穴が空いていた。
体中から、思い出したかのように激痛が走る。
「うぐァッッ!!!?!!?!」
痛い。痛い。痛い。痛い。熱い。痛い。熱い。暑い。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
そんな。そんな馬鹿な。
体中が沸騰するような熱を感じる。ああ、これはヤバい。
両手足が欠損している為動けない。ドクドクと血液が鼓動を打ち、勢いよく流れていく。
もうダメだ。ここで終わりだ。
ドラマの殺人シーンのように、自らの周りが血塗れになっていくのを感じる。
耐え難い激痛が際限無く続く。
「「肉体はもうダメですね・・・。」」
どこからともなく声が響く。
この虚無の世界に唐突に現れた声。
女性の声だ。
朦朧とする意識の中、彼女の声に耳を澄ませる。
「「C世界の亀裂を修復。被害個体をC世界の異常とし、隔離。肉体とのリンクを切ります。」」
理解できない。
アキトはなんとか意識を持ち直す。
「ナニがおこッで・・・だ・・・。ゴブッ!・・がハァ!!」
血を吐き出しながら、彼女に問う。
「「魂を引き抜くのに手間取っています。もう少し耐えてください。」」
「タマシ・・イ・・?ナニ言ってんダ・・・・・。」
声の主は見えない。
「「・・・・・そろそろ、もう何も感じないはずですが。」」
「んぁ・・あ・・・あれ?」
先程まで欠損していた両手両足も、胸の風穴も元に戻っている。
「な、治ってる。。なんなんだよこれ!!」
虚無の空間に向かって叫ぶ。やはり声の主は見えない。
「「治ったわけではありません。今、完全に肉体とのリンクが切断されたのです。あなたの肉体は既に先程の状態です。」」
「え、えー。え??」
あまりの展開に脳がついて行かない。
「「初めまして。楠川アキトさん。簡潔に申し上げますと、あなたは死んでしまいました。」」
「は・・?死・・?」
「「世界の理を超える力が暴走したのです。と、言っても理解できないでしょうが、その力が干渉してしまい、様々な世界に亀裂が入りました。」」
「おぉ。異世界ってやつだな。てかそれでなんで俺死んだんだ?で、あんた誰なんだ?」
「「あなたの真上に亀裂が入り、そこから魔獣が1匹漏れ出てしまいました。亀裂と漏れ出た魔獣は直ぐ様排除されましたが、その数秒の間にあなたは食い殺されてしまったのです。私に名前はありません。」」
「じゃナナシさんで。運悪りぃな〜。それで、俺はどうなるんだ?」
「「本来であれば元に戻してあげたい所なのですが、肉体は復旧不可能なレベルの損壊を受けてしまいました。このまま魂はあるべきところに回帰し、世界を構成するエネルギーになって貰うのが本来のルールですが、あなたの死亡は魂のルール外に起こった事。元の世界に戻す事はできませんが、魂を他の世界に転生させる事は可能です。」」
「おお!!テンプレ乙!!異世界転生か〜〜。俺の人生的にもそろそろかと思ってたぜ!で、で!?俺は勇者か?!賢者か?!どんなチートがもらえるんだ?!」
「「やけに前向きですね。。あなたが、何に転生するかはわかりません。今までの記憶は消えませんから。どうなってもそこまで困らないでしょう。私からはいくつか、祝福を授けます。すぐに死んでは意味がありませんから。貴方がこれから生まれてくる世界は分かり易く言うとファンタジー世界。祝福は「スキル」と呼べば分かりやすいでしょうか。」」
「おー。それは楽しみだな!ありがとう。んじゃ早速異世界飛ばしてくれ。」
「「・・・この世界に未練は無いのですか?」」
「んー。まぁそりゃ無い訳では無いけど。神様?のナナシさんでも無理なら無理だろうし、しゃーないでしょ。夢にまで見た異世界転生だ。へへっ!これからのワクワクの方が大きいぜ!逆にナナシさんに感謝したいぐらいさ。」
「「私は神ではありませんよ。少し貴方達と違う存在と言うだけです。転生後は私は一切関与致しませんので、新しい人生をお楽しみ下さい。」」
「あ、そうなんだ。ナナシさんとはもうお話できないのね。ま、了解。それじゃ、生まれ変わって世界救っちゃいますか!じゃあね!ナナシさん!」
「「ええ。さようなら。」」
ふっと視界が暗くなる。まるで世界が停電した様に。そして意識が遠くなる。
(あ、マコトどうしてるかな。30円返しそびれた…まぁ…来世でいい…か。。)
眠る様に意識から手を放す。
《管理システム作動。C世界の異物をV世界に転送・・・・・5%.15%.30%.50%...100%正常に転送されました。》
暗闇と浮遊感の中。声が響く。
《V世界必須スキル『数値化』を取得しました。》
《祝福スキル『鑑定』『超回復』『記録表示』を取得しました。》
《固有スキル『変質』を取得した。》
ここで、楠川アキトとしての人生は幕を閉じた。
「「・・・・・ごめんなさい。楠川君。」」
その呟きがアキトに届く事は無かった。
小説ナメてました。色々試行錯誤が必要そうです。