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アデルとイスベル

最終話です。

 一年と数カ月のときが過ぎた。

 俺は相も変わらずこの村に住み、毎日畑の手入れをしたり、薪を割ったりして生活している。

『慣れてしまった妾が狂っているのでしょうが、やはり妾の使い方が間違っていますよ』

「まあまあ」

 薪割に使っているのは、かつての相棒こと聖剣セイヴァースだ。

 さすがは聖剣。

 薪ですら抵抗なく斬れてしまう。

 余計な力が必要なく、とても重宝しているのだ。

『こんな使い方をされるとは思っておりませんでした……』

「嫌か? どうしても嫌ならやめるけど」

『……いえ、任された以上まっとうします。せっかくアデル様に使ってもらえるのですから』

「ふっ、そうか。ありがとうな」

 俺は作業を続ける。

 最近、よく笑うようになったといわれるようになった。

 自分では自覚がないのだが、今のような一瞬など、ふとしたときにその言葉が真実であることを理解する。

 俺の中で何かが劇的に変わったわけじゃない。

 だけど、少しずつ何かが溶けるように変わっていることも、また事実なのだ。

『やーだー! せめて主がいい!』

「私では不満だというのか! 魔剣のくせに」

 作業を再開すれば、騒々しいのがやってきた。

 エクスダークを振り回しながら、イスベルは畑の方へ向かっていく。

「イスベル、もう俺がやるっていってのに……」

「たまには体を動かさねば、元魔王といえど健康に悪いだろう。貴様はどうだ、順調か?」

「はぁ……聖剣様々ってところかな」

「そう聖剣を誉めれば、魔剣が拗ねるぞ?」

「何をいったって拗ねるんだ。仕方ないさ。俺がどちらかを上だと考えていないってことは、本当はどちらもよく分かってくれてるんだ」

 エクスダークとセイヴァースは何もいわないが、沈黙は肯定と受け取ろう。

 都合のいい解釈だろうが、声を出せるのに出さないのが悪いのだ。

「そういえば、村長が今日とっておきの肉を分けてくれるといっていたぞ?」

「ああ、そんなこといってたな。じゃあ今日はステーキでもするか」

「おおー! ならばあのときの味付けがいい!」

「最初にお前に飯を食わせたときのやつか……」

 もう二年前のことになる。

 イスベルがこの村に来て、住居がなくて。

 仕方なく俺の家に泊めて、飯をごちそうしたんだ。

「懐かしいな……あれから二年ってずいぶん早く感じる」

「色々あったし、仕方があるまい」

 本当に……色々あったな。

 

 リュークとの戦いの後、魔族の国はすさまじい復興を遂げた。

 期間限定という形ではあるがイスベルが魔王の座に戻ったことで、テキパキと町の形が元に戻っていったんだそうだ。

 それどころかこれを機に町並みにアレンジを加え、さらに発展しているとの話もある。

 まだ国同士のいざこざが解消しきらず訪問はできていないのだが、それも時間の問題だろう。


あいつ(・・・)はしっかりやってるかな」

「心配あるまい。ああ見えて根は真面目な男だ。しっかりと魔王の仕事をこなしているはずだぞ」

 

 信じてもらえないかもしれないが、イスベルが指名し次の魔王となったのは、何を隠そうあのファントム・ロードだった。

 実力、功績ともに申し分ないが、いかんせんあの態度で損している。

 何といっても、胡散臭いのだ。

 ほかの隊長たちは不安だといっていたらしいが、その決定自体に文句はいわなかったそうだ。

 それはやはり彼が信頼されている証拠だろう。

 ちなみに、イレーラはそのまま魔王補佐の立場についた。 

 元はギダラがついていた役職である。

 イレーラがそこにいるのであれば、ファントムもふざけさせてはもらえないはずだ。

 

「ファントム曰く、かなり人間との関係は良好になってきているそうだ。もう少しすれば、私たちも魔族大陸へと渡れるな」

「お前の里帰りか……俺のファントムたちには挨拶しないとな」

「っ! この子の紹介もあるし!」

 イスベルはそういって、自分のお腹を撫でる。

 ――実はそうなのだ。

 イスベルの中には、俺と彼女の子供がいる。

 俺たちは半年前に夫婦になったんだ。

 もう別の家に住む必要はないし、毎日同じテーブルで飯を食べている。

 ……だから畑作業をしてほしくなかったのだが、まだ動くうちはとイスベルは作業を手伝ってくれるのだ。

 旦那の心配は尽きない。

「じゃあ、やっぱり名前を決めておかないとな」

「うむ……男の子なら、私とアデルの名前から『アスベル』とかどうだ⁉」

「悪くないな。女の子なら『イデアル』とか……うーん、どっちも少し男の子っぽいか?」

「そんなこともあるまい! 良い名前だと思うぞ!」

 そう話していれば、我らの愛剣たちもここぞとばかりに会話に入ってくる。

『それなら我の名前も入れてくれ!』

『妾も仲間外れはいやです』

「分かった分かった……ん、考えておく」

 これだからいつまでたっても名前が決まらないのだ。

 それでも、この時間はたまらなく楽しい。

 自分が欲しかった平穏な時間とは、まさにこういった日々を指す。

 ――いつかまた、巻き込まれる形で戦わなければならないときが来るかもしれない。

 そうなったとき、俺は迷わずこの幸せという名の家族を命がけで守ることができるだろう。

 今度は勇者としてでなく、夫として、父として。

「それじゃ――――帰れっていっても帰らないだろ?」

「分かってるではないか。さすが私の旦那だ」

「照れるからやめろ。はぁ……じゃ、一緒にいくか」

「うむ!」

 イスベルと自然に手をつなぐ。

 つないだイスベルの左手の薬指と、自由になっている俺の左手の薬指には、光を反射して輝く結婚指輪がはめられていた。

 勇者と魔王が結ばれるなどと、この世界の誰が思っただろう。

 きっと話に聞いただけでは、耳を疑うに決まっている。

 それでも、この話は真実なのだ。



約一年に渡り読んでくださった皆様、本当にありがとうございました! 読者の皆様がいなければ、ここまで書き続けることもできなかったと思います。


完結すると同時に、新作の連載を始めました!

こちらの方もよろしくお願いします!



・僕はSランク冒険者と旅をする。(新作!)

(https://ncode.syosetu.com/n0475fk/)




・魔王、買いました。〜夢だった奴隷が言うことを聞いてくれない件について〜

(https://ncode.syosetu.com/n1431fb/)



・異世界召喚は二度目です

(https://ncode.syosetu.com/n6649co/)


・白き呪殺士は魔王と嗤う~忌み子から成り上がる革命劇~

(https://ncode.syosetu.com/n7416dm/)

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[良い点] 読みやすい 短い [気になる点] あっけないエンディング すごい剣の機能 元の強さ 途中の弱さ
[良い点] 世界観 大まかなストーリー 大まかなキャラ設定 [気になる点] 69話辺りからご都合展開が目立ってきた。 早く話を終わらさせる為に必要な説明等省かれたせいだと思う。 元仲間の魔道士や聖女は…
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