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勇者と勇者

「来たね、アデル」

「望み通り一人で来たぞ、リューク」

 魔王城の最上階。

 その魔王の間に、リュークはいた。

 彼の後ろには二つの巨大な魔石。

 中にはそれぞれ一人ずつ人間が入っている。

 これがイレーラとファントムのいっていた、歴史から抹消された勇者というやつか。

「――僕と彼らは、友人だった。魔王を倒すため訓練をし、苦楽を共にしていたんだ。その結末がこれだ。だから僕は誓ったんだよ。彼らを蘇らせ、三人でこの世界を統べてやろうって」

「……」

「僕は身を隠し、仲間を集めて機をうかがった。そしてようやく計画を行動に移したわけだよ――ところでアデル、勇者とは何だと思う?」

 魔石をそっと撫でながら、リュークは続ける。

「僕は、勇者とは王となる者のことだと思っている。人々を絶望から救い出した救世主が、その後の世界を率いていくんだ。勇者とは、すべての存在の上に立つ者なんだよ」

「……それがお前の考えか」

「ああ、そうだよ。僕らは勇者だった。だから、僕は王となるべきなんだよッ!」

 何を思ったか、リュークは背後の二つの魔石に魔力を流し込む。

 人の入った二つの魔石は光を放ち、部屋中を照らし出した。

「残念だけど、僕に死ぬつもりはない! このまま逃げおおせて、再びこの世界を見下ろせる日が来るまで身を隠す。その前に……アデル、お前だけはここで始末する」

 思った通り、そう来たか。

 魔石は一層強い光を放ったかと思えば、その形を徐々に変化させていく。

 同時に魔力の粒子が溢れ出し、リュークの中に吸い込まれていった。

「これだけは使いたくなかった……が、この際仕方がない。僕一人でも野望を成し遂げよう」

 魔石は、中の人間ごと形を変え、二振りの剣となる。

 極彩色に輝く刀身は、名状しがたい不気味さを放っていた。

「虹彩剣ジー、虹彩剣ビヴとでも名付けようか」

 あの二振りの剣。

 どちらも桁違いの力を持っている。

 それにリューク自身の力も、先ほどまでとは比べ物にならない。

 純粋に保有魔力量が跳ね上がっているせいで、わずかに魔力が漏れ出してしまっている。

「勇者三人分の力だ。蹂躙させてもらうよ、アデル」

「――――その前に、俺も一言いわせてもらおう」

「何?」

「勇者とは何か。俺は……誰かの幸せを願える者のことだと思う」

 エクスダークとセイヴァースを抜き、構えた。

 今までの傷はレッドが、これからの傷はセイヴァースが治してくれる。

 もう遠慮する必要はないんだ。

 初めから全力で二つに魔力を注ぎ込む。

 溢れ出すのは白いオーラと黒いオーラ。

 目の前で揺らめくそれを、俺は少し気に入った。

「ここに来て綺麗ごとか……つくづく気に入らない男だ! アデルッ!」

 リュークが剣を振りかぶる。

「行くぞ、お前たち」

『足を引っ張らないでくださいませ、魔剣』

『貴様にいわれるまでもないわ! 聖剣!』

 俺は真っ直ぐリュークへと駆けていく。

 剣の届く距離まで接近すると、まずリュークの振り下ろしてきた剣をエクスダークで受け止めた。

 衝撃が駆け抜け、部屋全体が揺れる。

「ついでだ……! お前を倒した後、その聖剣と魔剣もいただこう……!」

「そいつは無理だ」

 セイヴァースを横薙ぎに振るう。

 それはリュークのもう一つの剣に防がれるが、その隙にエクスダークを強く押し返し、一拍分の距離を稼いだ。

「ふっ!」

 エクスダークを引き戻し、突きを放つ。

 首元へ向かっていく剣先を、リュークは真後ろに跳んでかわした。

「お前に二刀流の心得はなかった気がしたんだけどね」

「武器がこの二振りでなければ。ここまで動けないさ」

「なるほど、結局は他人頼りということか!」

 リュークが猛攻を仕掛けてくる。

 俺はそれを冷静にさばいていった。

「お前に使われる剣たちがかわいそうだよ!」

「……他人頼りでも何でもいいさ。一人になるのは、お前だけで十分だ」

「何――――」

 リュークの剣たちを、腕ごと強引に跳ね上げる。

 そしてがら空きになった胴に、エクスダークとセイヴァースを連続で叩き込んだ。

「がっ……」

 リュークが膝をつく。

 傷口からは血が溢れ出し、瞬く間に周囲に血だまりを作り上げた。

 しかし、その傷が存在したのもほんの数秒。

 すぐさま傷が塞がり、リュークは再び立ち上がって構える。

「効かないよ……今の僕は勇者三人分の生命力、そして魔力を保有しているのだから。お前がどれだけ僕を攻撃しても、その攻撃は何の足しにもならないのさ!」

 リュークの剣の周りに、魔力が揺らめく。

 これはきっといつものあの技だ。

「双飛剣!」

 巨大な飛剣が二つ向かってくる。

 俺はそれをエクスダークとセイヴァースを重ねることで受け止めた。

 刃と刃がこすれる音が周囲に響く。

 受け止めたはいいものの、二つの飛剣の重量に俺の体は後ろへと徐々に押され始めてしまった。

「無駄だ! お前では今の僕の攻撃を防ぎきることなんてできない!」

「リューク、お前は俺を甘く見すぎだ」

 確かに、リュークの一撃は重いと感じる。

 重いのだが……それが驚異となるほどではない。

 俺はエクスダークとセイヴァースで、リュークの飛剣を斬り払う。

 空中で破壊された飛剣は、そのまま粒子となり霧散した。

「なっ……」

「先にいっておくぞ、リューク」

 俺はエクスダークとセイヴァースを左右に払い、真っ直ぐリュークを見据える。

「お前は、今の俺に傷一つつけることはできない」

  

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