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怒る不死鳥

「おらよッ!」

 レッドは俺に向け、炎をまとった蹴りを放ってくる。

 俺は片腕でそれを受け止めるが、炎により勢いが増しており吹き飛ばされてしまった。

 地面を転がりながら体勢を正せば、レッドがもう目の前まで間合いを詰めている。

「弱くなってんじゃねぇのか! てめぇ!」

「っ! やかましい!」

 踏み込まず、ただ腕の力だけでエクスダークを振るう。

 これに魔力をまとわせれば、腰は入っていなくても威力が跳ね上がるのだ。

 エクスダークの剣先は無防備に突っ込んできたレッドの腹部を深々と切り裂く。

「ッ! 関係ねぇ!」

 本来であれば致命傷。 

 しかしレッドの能力の前では、この程度がかすり傷となる。

 傷を炎が包み込むと、瞬く間にそれを再生させてしまった。

 ほんの刹那の間だけ怯んだものの、即座に拳に炎をまとわせ叩きつけてくる。

「ほんとに厄介なやつ!」

「誉め言葉だ!」

 炎の勢いに負けぬよう、今度はエクスダークで受け止める。

 即座に切り返すが、その前にレッドは拳でエクスダークを押し返して距離を取った。

「まさかこんな風にてめぇと決着をつけられるとはな」

「確かにお前とは変な縁がある。いらない縁だけど」

「そういうなや。俺はてめぇを認めてんだぜ? 俺が本気を出すのに相応しい相手だってな!」

 レッドの背中から、炎が噴き出す。

 炎は徐々に翼を形どり、まるで不死鳥という言葉を体現するかのような姿となった。

「こっからの俺の体は、常に最善を維持する。どんなに斬られようが、体力が尽きようが、絶対に動きが衰えないってわけだ。どこまでお前がついてこれるか……見物だぜ!」

 炎の翼をはためかせ、レッドが俺に向けて突進を仕掛けてくる。

「エクスダーク……」

『分かっておる……もう止めん』

「ありがとう」

 エクスダークから悍ましいほどの闇のオーラが噴き出す。

 俺が大量に魔力を注ぎ込んでいる証拠だ。

 全身が変に軋み、針に刺されているかのような激痛が襲ってくる。

 それでも動けないほどではない。

 俺はエクスダークを振り上げ、突進してきたレッドに叩きつける。

「らぁ!」

「オラァ!」

 レッドの腕には炎でできた刃があり、それとエクスダークがぶつかり合う。

 衝撃が周囲に拡散し、地面がめくり上がった。

「まだまだァ!」

「っ!」

 体を反転させたレッドは、回し蹴りを放ってくる。

 それをエクスダークの腹で受け止め、いなすと同時にレッドの腹部に拳を叩き込んだ。

「がっ――」

 肉に拳がめり込む感触が伝わってくる。

 ただ、レッドの肉体は仰け反ってしまいそうなほどに熱い。

 下手に殴り続ければ、俺の拳が先に壊れてしまいそうだ。

「へっ、いてぇが……捕まえたぜ!」

「なっ!」

 そんな俺の腕を、レッドが掴む。

 強く握りこまれた腕は煙を上げ、熱とともに激痛が俺を襲った。

「おら! 炎熱地獄!」

 瞬間、レッドの体が燃え上がる。

 当然近くにいる俺は巻き込まれ、全身を炎に包まれた。

 体中の水分が一瞬で蒸発してしまったかと思うほどの温度。

 そして呼吸をすれば、内臓すべてが悲鳴を上げた。

「ぐぁぁぁぁx! ――ッ! エクスダーク!」

『うむ!』

 俺は声を漏らしながらも、魔力をエクスダークに注ぎ込む。

 するとエクスダークから黒いオーラがさらに吹き出し、俺の周りにあった炎を吹き飛ばした。

「何ッ!」

「せやぁぁぁ!」

 レッドの体を、下から上へと斬り上げる。 

 血飛沫が視界一杯に広がり、その向こう側でレッドがよろけていた。

 追撃の好機――と足を踏み出すが、同時に襲い来る激痛に思わず立ち止まる。

 一気に魔力を使いすぎた。

 それに火傷のダメージも加わり、すぐさま攻撃に移ることができない。

「はっ……かなりガタが来てんじゃねぇか?」

「そういうお前は、どうやったら死ぬんだよ……」

「……さあな。俺ですらどうすれば死ねるのか分からねぇからな」

 レッドは自嘲気味に笑うと、顔を伏せ肩を竦めた。

「――てめぇの回復を待つ間、ちょっと昔話をしてやるよ」

「は? どうしてお前が俺の回復を待つんだよ」

「全力のてめぇと戦わねぇと、因縁がいつまでも消えねぇんだよ。手負いのてめぇを倒したところで、俺が納得できねぇ」

 ……敵にしては、つくづく分からない男だ。

 見ている限り、今のレッドから敵意は感じない。

 いや、初めからそんなものはなかったのだ。

 こいつは、ただ俺との戦いを楽しみたいだけ。

 ならば遠慮する必要はない。

 この状況を利用して、体力とダメージを回復させてもらおう。

「俺は昔捨て子でなぁ。死なねぇ体を持つ息子なんて気味が悪くて仕方なかったんだと」


 仕方ねぇから、一人で生きた。

 飯も自分で確保しねぇといけねぇから、魔物を殺して食った。

 一人で殺して、一人で奪って、一人で食って、一人で寝た。

 その繰り返しだ。

 いつの日か周りに魔物がいなくなって、食うのに困っちまった。

 俺は森を歩いているところを盗賊どもに拾われて、一緒に人間を襲った。

 飯は食えるようになったよ。

 ただ、面白おかしく人間を殺す盗賊どもと仲が悪くなっちまった。

 気に入らなかったんだよなぁ。何でか分からねぇけど。

 イラついたから盗賊どもを皆殺しにしたら、今度は国に捕まっちまった。

 盗賊の仲間だからだってよ。もう弁明する気も起きなくて、大人しく捕まってやったよ。

 飯も出たしな。

 そんなこんなで過ごしてたらよぉ、俺に会いに来るもの好きがいたんだわ。


「それが、お前もよく知ってるリューク・ロイだった」

「……」

「リュークはいった。俺の力が必要だとな。暇だしついていってみりゃ、そこには俺みたいなはみ出し者どもが何人もいてなぁ……でかいことをやるっていうから、興味惹かれて仲間入りよ」

 うすら笑いを浮かべて話していたレッドの表情が、突然がらりと変わる。

 それは怒りの形相ともいえるもので、レッドは拳を高く振り上げるとそのまま地面を殴りつけた。

 火の粉が巻き上がり、地面が赤くなるほどに発熱する。

「あの野郎ども……国を潰すとかいいながら、やってることは人質とって敵が来るのを待ってるだけ……魔王軍の隊長どもと全面戦争ができるかと思いきや、それも避けるとかぬかしやがる」

 もう我慢ならねぇ――。

 そうレッドはいった。

「なら、一緒にリュークと戦えば……」

「それじゃ面白くねぇんだなぁ、これが。てめぇらは強い。だから、どっちとも戦った方が面白れぇ」

「――――そうかよ」

 俺はエクスダークを構える。

 もう休憩は十分だ。

「お、やれんのか?」

「ああ。お前の話を聞いて、俺の考えが変わらなくて本当によかったよ」

「あん?」

「俺も、お前と決着をつけたいと思っていた」

「へっ、そうこなくっちゃなァ!」

 レッドから炎が噴き出す。

 今までで一番の火力だ。

 ……レッドの倒し方など、まだ思いつかない。

 それでも、倒さなければならないのだ。

 じゃないと、俺の気が収まらない(・・・・・・・・・)

『やるんじゃな、主』

「ああ」

『我から一つ提案がある。成功すれば、やつを倒せるかもしれん』

「……本当か?」

『うむ。主の寿命、少しもらうがな』

 エクスダークは申し訳なさそうにいう。

 ――俺の回答は、決まっていた。



 

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