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オレンジと騎士王

「はっ……確かにあのときの僕は君には敵わなかった。だが、今は違うんだよ!」

「っ!」

 リュークが邪悪な笑みを浮かべると、どこからともなく炎の塊が飛来する。

 赤きその炎の持ち主に、俺は見覚えがあった。

「アデル、やつの相手を頼む。リュークには私からまず借りを返させてくれ」

「……分かった」

 俺はエクスダークで、炎の塊を受け止める。

 そして、炎の隙間から因縁の相手の顔が覗いた。

「よぉ、勇者アデル」

「レッド……っ! やはりお前も出てきたか」

「俺たちは俺たちで遊ぼうぜ。せっかくだしな!」

 レッドが俺の首を掴む。

 その腕を、今度は俺が掴んだ。

 俺とレッドは勢いをそのままに転がるようにして、イスベルとリュークの下から離脱する。


「私の相手は貴様か……」

「うへー! 銀色だー!」

 シルバーの前に立っているのは、オレンジと呼ばれていた少年。 

 その顔にはまだあどけなさが残っているが、同時に冷や汗をかくほどの狂気を孕んでいる。

「あまりにも王たる私にふさわしくない相手だが……仕方あるまい。()の手助けをするためだ」

「銀色は殺したことないなー。まあ殺せるならなんでもいいか!」

「野蛮な子供め。少しは会話しようとは思わんのか」

「死んじゃう人と会話しても無駄でしょ?」

「……」

 突然オレンジの姿が消え、シルバーの真後ろに現れる。

 ローブの下に隠されたその腕には、不釣り合いな鋼鉄製のかぎ爪が装着されていた。

 シルバーの背中に、かぎ爪が迫る。

「無駄だ」

 しかし、そのかぎ爪がシルバーに突き立つことはない。

「あれ?」

 むしろ破壊されたのはオレンジのかぎ爪の方であった。

 どんな攻撃でも無効化するシルバーの固有魔術、「絶対防御」。

 これが破られたことは一度たりともなく、彼が王と名乗ることに大きな説得力を生み出している。

「ふッ!」

「うわぁ⁉」

 動揺するオレンジに、シルバーの剣が振り下ろされる。

 オレンジがとっさに後ろへ飛んだことでかわされてしまうが、彼のローブと薄皮に剣先が届いた。

「この程度で終わると思うな」

 シルバーが地面を蹴る。

 瞬時に間合いを詰めたシルバーは、オレンジに向け剣先を向けた。

「銀剣牙突――」

 剣にはすでに魔力がまとわせてあり、それが驚異的な貫通力と破壊力を生み出していた。

「――シルバー・ホーン!」 

 オレンジはとっさにかぎ爪を防御に回す。

 自分の魔術に頼り切らず、しっかりと鍛錬を続けていたシルバーの一撃。

 この技がそんな鋼鉄製のかぎ爪で防げるほど軟なものではないことくらい、オレンジ自身でも分かっていた。

 それでも、生き残る可能性を上げるためにはそうするしかなかったのだ。

 剣先がかぎ爪を砕く。

 銀の一閃は止まることなく、オレンジの肉を貫いた。

「終わりだ」

「お、終わり……? 何言ってるの? 僕はまだやれるよ?」

「むっ?」

 オレンジは、もう片方の腕を振り上げる。

 その腕にもかぎ爪がついており、オレンジは至近距離にいるシルバーの顔に向け腕を振り下ろした。

 本来であれば、こんな攻撃避けるまでもない。

 シルバーはどんな攻撃も受け付けない、無敵というべき状態なのだから。

 だというのに、シルバーの背筋に悪寒が走った。

 久しく感じていなかった、嫌な予感というものである。

 このときのシルバーは賢明であった。

 秒に満たない時間の中、直感に従い後ろへと跳んだのである。

 同時にオレンジから剣が引き抜かれたのだが、彼はまったく気にしている様子がない。

 当然かぎ爪の攻撃が止まるということもなく、まっすぐ振り下ろされた。

 寸前でかわされてしまったため、その攻撃はシルバーの頬にかすり傷(・・・・)をつけるだけに留まる。

 そう、かすり傷(・・・・)を負わせたのだ。

「へへへ、ちょっと当たった! 当たったね!」

「貴様……」

 オレンジは口元から血を吐きながらも、へらへらと笑う。

 傷口からも多量の血液が流れだしており、すでに生命活動を脅かすほどに出血していることは明らかだ。

 それでも、彼は笑う。

 楽しそうに、愉快そうに。

「僕の体に石を埋め込まれたんだけど、これってみんなの魔術とかを|使えなくしちゃうんだって《・・・・・・・・・・・・》。君の魔術が何かは分からないけど、これで攻撃が当たるみたいだね!」

「チッ……厄介な」

 オレンジの傷口の傍に、光り輝く何かがある。

 おそらくそれがその石であることはシルバーも理解できた。

「君の攻撃、すっごく痛かったよ! 今度はこっちの番だね!」

 血を巻き散らしながら、オレンジがシルバーに飛び掛かる。

 シルバーは驚く。

 出血により長くは持たないはずの体で、オレンジはまったく変わらない動きを見せたのだ。

 故にシルバーの反応が遅れ、勢いに押される。

「それそれ!」

「くっ……」

「どうしたの? 死んじゃうよ!」

 かぎ爪を、かろうじて剣でさばく。

 オレンジは常に全力でシルバーに爪を叩きつけていた。

 それによって自分の腕にかかってしまう負担すら無視して、まるで遊んでいるかのようにシルバーに襲い掛かる。

 この少年には、恐れがない。

 自分が死ぬことすら恐れない精神は、技術、肉体面以外の部分で相手を凌駕する。

 この状況に当てはめていうのであれば、現在シルバーは押され気味だということだ。

「ほら! すきあり!」

「何⁉」

 オレンジはかぎ爪が壊れている方の手で、シルバーの剣を鷲掴む。

 手が切れて血が落ちても、オレンジはその手を離さない。

 オレンジは剣を自分の方へ引き寄せるようにして、シルバーの決定的な隙を作る。

「おわり!」

 そうしてがら空きになった胴に、かぎ爪が迫る。

 鎧の砕ける音が、辺りに響いた――――。

 

 

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