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もう勇者じゃない

「魔王の……心臓」

 俺は手のひらに乗った魔石を見つめる。

「ええ。それが魔王となるものに与えられる力の結晶です。ギダラ様が最後に転移させたものが、この魔石なんですよ」

「ギダラが持ってたのか」

「サドールたちの目的はおそらくこれであろうことは分かっていましたからね。先にギダラ様が隠しておいたのですよ。魔王様奪還後に渡せるようにね」

 最後の最後まで仕事のできる男だ。

「それは勇者、あなたが持っていてください。あなたの手からイスベル様の渡してほしいのですよ」

「それはいいけど……」

「正直そんな大層なものを持つには私には身が重くてですねぇ。いやぁ、押し付けられてよかったよかった」

 そういって、ファントムはへらへらと笑う。

 確かに大層な物だが、俺が持つというのもどうなのだろうか。

「それでは行きましょうか。もう時間もありません」

「どういうことだ?」

「明日になれば魔王軍の隊長たちが戻ってきます。サドールが死んで新たな魔王誕生が不可能になった今、もう魔王軍を管理することはできません。全員がそろえば、さすがに手に余るはずです。ということは勝負を決めるのは今日中。イスベル様の処刑を利用し、我々をおびき出そうとするでしょうね」

「……なるほどな」

 理にかなっている。

「戦力を確認しましょう! まずイレーラはもう戦えません」

「……申し訳ありません」

 分かりやすく悔しそうな表情で、イレーラは頭を下げてくる。

 謝る必要などない。

 聖剣を持ったリュークと戦い生き残ったのだ。

 それだけで本来であれば高い評価を受けていいはずなのだから。

「あー、じゃああたしもパス」

「レオナ……」

「今日はもう何度も獣神の鼓動使ってるし、もうエンジンかからないよ。雑魚は引き受けられても、ローブの連中の相手は無理さね」

 ただでさえ連日強敵を任せっぱなしだったのだ。

 怪我とか以前にガタが来ていてもおかしくない。

「ということは……」

「私はまだ戦える。ろくに疲労もしていない」

「シルバーと俺と、ファントムか」

 まともに戦えるのはこの三人。

 敵の戦力はリュークとヴァイオレット、オレンジに――どこかにレッドがいるはずだ。

「間もなく向こうが行動を起こすはずです。そうなったときが勝負でしょうね」

「――――噂をすれば、聞こえてきたよ」

 レオナが耳を澄まし、口を開く。

 人一倍耳のいいレオナには、何かが聞こえているのだろう。

「サドールとかいうやつが演説してた広場からだ。町の人のざわめきが聞こえるね」

「……行くか」

「ええ、行きましょう」

 俺とファントムとシルバーは、レオナが聞いたという喧噪の方へと歩き出す。

「あ……アデルさん」

「ん?」

 そんな俺を呼び止めたのは、イレーラだった。

「あのリュークという男ですが――――」


「離せ! この!」

「うっとおしいな。あまり騒ぐなよ」

 イスベルを連れてきたリュークは、再び広場の檀上に上っていた。

 拘束されているイスベルの姿を見て、続々と民衆たちが集まりだしている。

 リュークはそれを見て、満足気に頷いた。

「魔族の諸君! 僕の言葉を聞け!」

 民衆はざわめく。

 人間が、魔族の王であったはずのイスベルを組み敷いて声を張り上げている。

 この状況を説明できる魔族など、この中に一人として存在しなかった。

「まどろっこしい話はもうやめだ。君たちの王はこうして僕に敗北した。これより、この国は僕の配下となる……が、正直こんな国、僕は必要としていない」

 リュークはセイヴァースを振り上げる。

 イスベルの目には、セイヴァースに内包された破壊のための魔力がはっきりと映った。

「よって、この国の物、魔族を根絶やしにしようと思う」

「ッ! よせ!」

 イスベルが叫んだところで、それを止めることはできない。

 セイヴァースをリュークが一振りすれば、光の集合体ともいえる飛剣が放たれる。

 それは民家を、人を巻き込み残さず破壊していった。

 悲鳴が響き渡り、民衆たちは逃げ惑う。

 そんな光景を、リュークたちはあざ笑うかのように眺めていた。

「さて、諸君らの最後の希望ともいえるこの女を、今から処刑する! 見ていなくていいのか? 王の最期だぞ!」

 リュークは民衆に叫ぶ。

 一部の魔族の耳には入ったのか、数名が足を止めて檀上を見上げた。

 徐々にそれは伝染し、やがてほとんどの魔族が檀上を見上げることとなる。

「さあ、言い残すことはあるかい?」

「……ッ! 許さん……! 決して貴様を許しはしないッ!」

「つまらない女だ。命乞いの方がまだ見栄えがあったよ」

 リュークはセイヴァースを振り上げる。

 まさしくそれがイスベルに振り下ろされようとした瞬間、どこからともなくその一撃が彼に襲い掛かった。

「っ!」

 とっさに、リュークはセイヴァースを防御に回す。

 何もない方向に、剣を向けたのだ。

 はたから見れば滑稽な図であったが、予想だにしていないことが起きる。

 甲高い金属音が響き渡ったのだ。

「姿を隠して襲うなんて……勇者としてあるまじき行為ではないかい?」

「……だから何度もいっているだろ。俺は――――もう勇者じゃないって」

 空気が歪む。

 そうして、そこにいなかったはずの者たちが姿を現した。

 

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