冒険者ギルドに行く勇者
日間ランキング5位に入ることができました!
これも読んでくださった皆様のおかげです!
今後もよろしくお願いします!
「おぉ! ここが冒険者ギルドか!」
「あまりはしゃぐなよ」
「は、はしゃいでなどいない!
目をキラキラさせて言われても、あまり説得力はない。
俺たちが今いるのは、村からずいぶん離れた大きな町だ。
近くにお宝が眠るダンジョンがあり、様々な土地へ行くための中間点でもあるためか、大変賑わっている。
ここまで来るのにちょうど一日。
俺や魔王からすれば大した距離じゃない。
「とりあえず、入って冒険者登録だ」
「うむ!」
意気揚々と冒険者ギルドへと入っていくイスベル。
冒険者ギルドは木造二階建てで、下が依頼を受け付けているカウンター、下の一部と上全域が酒場の役目を果たしているようだ。
なるほど、人によってはここで情報収取や仲間集めをしているんだな。
「カウンターとはあれでよいのか?」
「ん? ああ、あそこだ」
俺とイスベルは受付嬢の立つカウンターへと向かう。
途中、昼間から飲んでいる冒険者たちから視線を向けられていることに気づいたが、特に理由も思いつかないから無視する。
田舎臭い恰好だからか?
確かに畑仕事でも使えるような動きやすい恰好ではあるが……。
「こんにちは! 今日はどうされました?」
「う、うむ! 冒険者になりたくてだな……」
「新規の方ですね? ではお手続きの準備をしますので、少々お待ちください」
笑顔で対応してくれたのは、20代前半の受付嬢だ。
しっかりとした営業態度、これならギルド側は信用できそうだな。
「そちらの方もですか?」
「俺はただの付き添いで、もう冒険者登録は済ませてあるんだ。あと、こいつの手続きなんだが――」
俺は懐から一通の手紙を取り出し、受付嬢に渡す。
「これをギルドマスターに渡してくれ」
「かしこまりました」
受付嬢は余計なことを何も言わず、そのままカウンターの奥へと引っ込んでいった。
しばらくして戻ってきた受付嬢の手には、一枚のカードが握られている。
「お手続きが完了しました。これがあなたのギルドカードになります」
受付嬢はあなたという部分を強調しながら、冒険者の証であるギルドカードを渡してくる。
「うむ!」
カードを受け取ったイスベルは、嬉しそうにそのカードを眺めている。
内容を覗き見る感じ、上手いこと違和感がないように書かれていた。
イスベルは魔族だが、その部分はしっかりと人間に。
さらに今は姿を変える魔術で、見た目だけは人間だ。
それに加えてこれも見せれば、間違いなく疑われることはないだろう。
「難易度が高すぎる依頼は受理できませんが、そちらの事情は把握させてもらっているので融通が利くようにしてあります。これからよろしくお願いしますね」
「うむ! たくさん依頼をこなすぞ!」
「頼もしいです! 依頼はそちらにあるクエストボードに貼られてますので、希望の依頼をここへ持ってきてください。あそこにはAランクまでの依頼が貼られてますので、できればBランク以下の依頼でお願いしますね」
「分かった。行くぞ、ベル」
「え? う、うん」
俺はイスベルを連れてクエストボードへと向かう。
そこには、下からE~Aランクと難易度順に分けられた依頼がいくつも貼られていた。
基本的に、駆け出し冒険者はEランク冒険者とも呼ばれ、Eランク以外の依頼は受けられない。
俺たちに関して言えば、ランク制度を免除されているようだから、やろうと思えばどんな依頼でも受けられる。
けどそこまで焦るつもりはない。
とりあえず今はここから自分たちの初仕事に合った依頼を見繕わないといけないのだが、その前に――。
「どうした? ぼーっとして」
「へ? あ、いや……ベルとは何だと思って……」
「何だ。呼び方の話か」
「何だとは何だ! そんな呼び方されたことがないのだぞ!」
イスベルの顔が少し赤い。
もしかして、照れてるのだろうか?
「こんなところで堂々と本名を呼ぶつもりか? お前の名前は有名人なんだぞ? さすがに本人とはバレないだろうけど、いい顔はされないだろうし隠した方がいいだろ」
「そ、それはそうだが……前もって言ってほしかった。いきなりはその……びっくりしたから」
「っ……」
そんな年頃の女子みたいに顔を伏せられても、俺は騙されないぞ!
ときめいたりなどしていない! 断じて!
俺は首を振って雑念を振り払った。
「わ、分かった。これからは何かするときは事前に確認するようにする」
「た、頼む」
そういって、イスベルは少し笑う。
まだ多少ぎこちない笑顔ではあるが、俺たちはお互いに笑顔を向けあえるくらいにはなった。
これはきっといいことなんだ。
「あと、俺のことも一応偽名で呼んでくれ。ほんとに一応だけど」
「分かった。何と呼ぶ?」
「アデルだから……アルでいい」
「アルか……うむ、了承した!」
小声でアル、アルと何度も定着させるようにつぶやくイスベル。
その姿に不本意ながら愛おしさを覚えてしまって、俺は無意識のうちに彼女の頭に手を伸ばそうとしていた。
いや、危ない。俺は何とかこらえ、平静を装う。
「……」
「……何だよ」
「いや、撫でたそうにしてたから」
「……」
図星である
「だがな、そう簡単に私の頭は触らせないぞ! 魔族にとって頭を撫でられることは特別なことだからな! 貴様にはまだ早い!」
「お、おう」
イスベルはしたり顔で俺を見ていた。
ちょっとだけ残念と思ってしまった自分が悔しい。
てか体は洗わせておいて頭は触らせないのか。
魔族とはかくも不思議な生物だ。
てかそれなりに大きな声で魔族とか言うんじゃない。
「頭を撫でるというのはもっと段階を踏んでだな――」
「おい、てめぇら」
「何だ! 今話している途中であろう!」
イスベルの意味深な話をぶった切ったのは、ガラの悪いチンピラ三人組だった。
三人とも顔にはトラの入れ墨が入っている。
流行りなのだろうか?