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騎士と魔剣士

「っ!」

 扉をぶち破り魔王の間へと転がり込んだ俺は、体勢を立て直しエクスダークを構えた。

 後ろではひとりでに扉が閉まり、廊下の様子はもう見えない。

「よくぞ参りました、あわれな侵入者さん」

「……サドール、だったな」

「そういうあなたは、勇者アデルですね」

 玉座に我が物顔で座っていたサドールは、薄気味悪い笑みを浮かべたままゆっくりと立ち上がる。

「仲間たちを犠牲にしてたどり着いたところ申し訳ありませんが、ここにリュークはいませんよ」

「……」

 いわれてみれば、確かにこの部屋にリュークの姿はない。

 セイヴァースの気配すら存在しないことから、サドールのいっていることは正しいようだ。

「だったら……あいつはどこいった」

「今頃、地下(・・)へ向かったお仲間の相手をしているんじゃないでしょうか。あなたたちが地下へ向かうことは想定内ですからね。我々としても牢屋前を手薄にしないため、リューク殿直々に看守として動いてもらっているんですよ」

「っ!」

 サドールは相変わらずのにやけ面でそう言い放つ。

「いやぁ、どなたが地下へ回ったかまでは分かりませんが、気の毒なことです。聖剣を持った彼には、もはや誰であろうと勝ち目はない」

「くそッ!」

 俺は自分の背筋に走る嫌な予感に動かされ、踵を返す。

 しかし、ぶち破ったはずの扉はいつの間にか元に戻っており、俺の行く手を阻んでいた。

「無駄ですよ。ここには敵の侵入を許した際、万が一にも取り逃さないためのシステムがあります。あなたであれば破ることはできるでしょうが……それは何も障害がなければ、の話です」

「ッ⁉」

 視界の端に、何かのきらめきをとらえた。

 俺がとっさに頭を下げると、その頭上を何かが通過する。

 直後、俺の真後ろの壁に亀裂が入った。

「残念ながら、私があなたの相手をしましょう。お仲間が蹂躙されるまで、私と遊びましょうか」

「ふざけるな……ッ!」

 俺はエクスダークを構え、サドールへと飛びかかる。

 何としても、目の前のこいつを今すぐに倒さねばならない。

(イレーラ……! 頼むから無事でいてくれ!)


 時は少し遡る――。

「……私たちは完全に掌の上ということですか」

「さて、どうだろうね。今回はたまたま予想が当たっただけという可能性もあるよ」

 イレーラが向かった先は、地下の牢屋。

 その牢屋へと続く廊下の真ん中に、その男、リュークは立っていた。

「逃げる? 今なら一瞬目をつむってあげてもいいけど」

「冗談はやめてください」

 イレーラは即座に剣を抜き、リュークへ突きつける。

「ここであなたを倒してしまえば、アデルさんの負担が軽くなります。私は逃げません」

「……強い女性は嫌いではないけど、僕はそういう女性を屈服させる方がもっと好きなんだ」

 リュークも聖剣セイヴァースを抜き、自然体で構えた。

 廊下はリューク側とイレーラ側に伸びている以外に横道はなく、他に部屋もない。

 逃走経路はイレーラの後ろにあるが、ひとたび飛剣でも放たれようものなら受け止める以外に防ぎようがないということだ。

(勝ち目が薄いことは分かっていますが……ここで逃げてみすみす殺されるよりは、わずかな希望にかけて時間を稼いだ方がいい)

 一時深く息を吸い、その後は浅い小さな呼吸へと切り替える。

 こうしておくことで、息を吸う際の隙を減らすことができるのだ。

 些細な変化ではあるものの、これほどまでに神経を尖らせていなければ一瞬で殺される。

 それほどの脅威が、目の前の男にはあるのだ。

「来ないのかい? なら、仕掛けさせてもらおう!」

「……!」

 リュークが地を蹴り、イレーラに肉薄する。

 その速度はまさしく神速。

 力技で押せない分技を磨いたイレーラは、敵の攻撃に瞬時に反応するための反射神経を持っている。

 しかし、それだけの反射神経を持ってしても、彼の一撃を止めたのは奇跡に等しかった。

「へぇ、よく止めたね」

「くっ……」

 廊下に金属音が響き渡る。

 かろうじて、イレーラはリュークの一撃を防いでいた。

 あと一瞬判断が遅れていれば、彼女は周囲に臓物をまき散らしていたことだろう。

「じゃあ、もう少し遊ぼうか!」

「っ! 舐めるな!」

 イレーラは捻り上げるようにして剣を返すと、そのままリュークへと刃を走らせる。

「おっと」

 それも易々と受け止められ、イレーラは小さく息を漏らした。

 技のキレでは、彼女は一切負けていない。

 圧倒的な差を生み出しているのは、やはり聖剣セイヴァースの存在。

 この剣がリュークの身体能力を底上げし、素の実力を跳ね上げているのだ。

 元々実力者である彼がこの剣を持っている時点で、もはやほとんどの者に勝ち目はない。

(それがどうしたっていうんですか……!)

 勝ち目がないからといって、今のイレーラに残された選択肢に逃走はない。

 彼を倒さない限り、彼女に生はないのだ。

「魔流剣術・斬の段! 竜爪!」

 イレーラの剣がぶれる。

 その攻撃は、フェイントを含めた連なる四度の斬撃。

 体ごと翻して仕掛けたため、ガードとは完全に反対側に斬撃が吸い込まれる。

「むっ」

 確実に隙をついたはずの攻撃。

 それでも反応するのが、このリュークという男。

 手首を返して、イレーラの斬撃を受け止める。

 ただ、彼女の斬撃は速いだけではなかった。

「はぁぁぁぁ!」

 リュークがまず抱いた感情は驚きだった。

 竜爪は、そのままの意味で竜の一撃に等しい威力を持つ。

 正面から受け止めたのであればともかく、とっさに受け止めた程度ではどうなるか――――。

「かっ……!」

 まるで巨大な鉄球にぶつかったかのように、リュークの体は真横から壁に叩きつけられた。

 壁にヒビが入るほどの衝撃に、リュークは肺の中の空気をすべて吐き出す。

(仕留めるなら今!)

 ガードの上からでもこれほどの威力を発揮する攻撃。

 多少なりとも、そのデメリットとしてイレーラの腕には負担がかかっていた。

 筋肉の痛みと、わずかな痺れ。

 それを無視して、イレーラは追撃を仕掛ける。

 剣先がリュークへと向かい、そのまま喉を切り裂く――かと思われたそのとき。

 イレーラの視界を、一杯の閃光が埋め尽くした。

 

 

 

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