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突撃する勇者たち

 俺たちは作戦を建てるため、路地裏に張ったギダラの結界の中にいた。

 これは空間魔術によってできたもので、外からの視線、音、雨風などを防いでくれる。

 魔術回路が限界を迎えているギダラでも、この程度の魔術ならば息をするように扱えるらしい。

 さすがは長年魔王軍を支えてきた男だ。

「作戦を考える……といっても、正直練るようなものはないのう」

「というと?」

「まず相手側の状況がよく読めない。現在魔王城に残っている兵士たちの数ならある程度分かるが、その他混じった異物たちの存在が不明すぎる」

 俺の問いに、ギダラはそう返す。

 確かにリュークがいたことから、まだいくつか異物がいる可能性は高い。

 そうなると対策しようがないというのも頷ける。

「魔王城の構造から侵入経路を考えるのはどうでしょう? 戦力が不明な以上、地形で有利を取ればある程度状況が改善できるかと」

「それはその通りじゃな。お主ら、今から城の大まかな構造を伝えるから、この場で頭に叩き込め」

 俺たちが頷くと、ギダラは空間魔術を駆使して簡単な見取り図を空中に作成する。

 一度入ったことがあるとはいえ、こうして見てみるとずいぶんとでかい。

「こう見ると高層の王の間まではずいぶんあるように見えるが、下層はほとんど兵士の居住区じゃ。ここは難なく突破できるじゃろうが、問題は――――」

「ここだろ?」

 俺は魔王城の中間層を指さす。

「お主はここに攻め入っているからのう。その通りじゃ。ここは侵入者対策として、罠とまではいかずとも守る側(・・・)に有利な造りになっておる。当然向こうもここを利用して守りに入るじゃろう」

「でも守るだけじゃあたしらを殺せないだろう? 時間稼ぎをしたところで……」

「この戦いのリミットは、大衆の前でイスベルが処刑されるまでじゃ。処刑されてしまえば、我々がいくらサドールどもが悪だと訴えても聞き入ってはもらえないじゃろう」

「……なるほどね。口をはさんで悪かったよ」

「構わんよ。これで具体的な目的がはっきりしたからのう」

「なんとか連中をのして、あの子がもう一度だけ実権を取り戻す状況を作ればいいんだね」

「そういうことじゃ。そうすれば他の部隊長が戻ってくる頃には、事態が収まっていることじゃろう」

 そういいながら、ギダラは最上階を指さす。

「今や一国の王座に手が届きそうなサドールの性格上、やつはここにいるじゃろう。問題はイスベルの場所じゃが……」

「ギダラ様、地下牢はどうでしょうか?」

「……うむ、可能性としてはもっとも高いのう。少なくとも明日までは閉じ込められている可能性が高い」

 サドールを倒しつつイスベルを奪還するには、上にも下にも行かなければならないということか。

 サドールの近くにはリュークもいるだろうし、まずは上から潰さなければならないだろう。

「ん……いや」

「どうしたのだ、勇者」

「二手に別れるのはどうだ? 上と下でさ」

「ふむ、その心は?」

「俺たちに余裕がないのは、イスベルの処刑の日が決まっているからだ。それなら彼女を先に確保できたらなら、最悪他の魔王軍が返ってくるのを待つことができる」

「なるほどのう。上へ向かう連中は救出までの時間稼ぎってところじゃな」

「そういうことになる。あとはメンツ分けだけど――」

 俺がそういいながら皆を見渡すと、イレーラが手を挙げた。

「それなら私が最適かと。レオナには劣りますが機動力には自信がありますし、城の構造にもそれなりに詳しいです」

「分かった。じゃあ救出の方はイレーラに任せる。あとのメンツは極力上階の方で騒ぎを起こそう。そうすればイレーラもかなり動きやすくなるはずだ」

 俺の言葉に、この場にいる全員が頷く。

 満場一致で間違いなさそうだ。

「最後にいっておきたいんだけど……リュークに出会ったら相手をせずに逃げろ。こんな風にいいたくはないけど、この場にいる者じゃ今のあいつには勝てない。最低でも二人以上いる状態であれば、時間稼ぎ程度はできると思う。その間に退却して、体勢を立て直そう」

 シルバーとレオナは少々不満そうだが、一応は頷いてくれた。

 ギダラとイレーラは聖剣の恐ろしさがよく分かっているためか、素直に頷いてくれる。

「よし――――じゃあ、行くぞ」


「貴様ら! 止まれ!」

 魔王城の入り口にある巨大な門。

 それを守る魔族の兵士たちが、俺たちの前に立ちはだかる。

「退きな!」

「退きなさい!」

 それを、先頭を行くレオナとイレーラがまとめて吹き飛ばす。

 もちろん加減はしているため、殺しはしない。

 あくまで彼らは逆らえないだけだ。

「くっ! だがこの門を破壊する術は――」

 兵士のまだ余裕のある声が耳を打つ。

 その声を他所に、俺はエクスダークを抜き放った。

「やるぞ!」

『任せよ!』

 俺はレオナとイレーラの前に飛び出し、大きくエクスダークを振りかぶる。

 込める魔力は決して多くない。

 しかし加減を考えていない今ならば――。

黒剣(こっけん)!」

 漆黒の剣が、いとも簡単に巨大な門の扉を切り裂く。

 周囲の石壁ごと真横に切断された扉は、轟音とともに崩れ去った。

「もはや騒ぎなど気にしておれぬ! 派手に暴れるぞい!」

「サドール様のところへは行かせるな!」

 俺たちが城の中へと飛び込むと、多くの兵士たちが待ち構えていた。

 これで手加減しつつでは上るのも難しい。

「ここは私が引き受けよう。貴様らはさっさと上階へ向かうがいい」

「シルバー……分かった。任せたぞ!」

 倒さず倒されず。

 それにもっとも適しているのは、シルバーしかいない。

 俺たちは正面にある階段まで駆け抜け、振り返らずに駆け上がる。

「追え!」

「追わせないがな」

 追ってこようとした兵士たちの足が止まる。

 これでひとまず後ろからの脅威がなくなった。

「イレーラは上手く潜り込めたかな」

 どさくさに紛れて地下へと向かったイレーラ。

 まだ気づかれていないだろうけど――少し心配だ。

「大丈夫じゃろう。それよりも、儂らは目の前のことじゃ」

「ああ、そうだな。とんでもない魔力量のやつがこの上にいることだし……」

 俺たちは道を見据え、ただ走る。

 目指すは上層、サドールたちがいるであろう場所だ。

 

 

 

 

 

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