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貫かれる勇者

 パレットと呼ばれた男とキャンパスと呼ばれた女が、俺たちに向かって飛びかかってくる。

 それに応じたのは、俺とシルバーだった。

 真っ先に飛び出し、二人の剣を受け止める。

(前までなら簡単に受け止められたはずなんだけどな……っ!)

 キャンパスの一撃を受け止めたはいいものの、俺の体は少しずつ後ろへと押されていた。

 彼女自身の力が強いという部分もあるが、やはり力が思うように込められない。

 エクスダークの力を使えば魔力のコストを減らして大きな恩恵を得られるが、今の俺にはリスクが高く使いにくいのだ。

「アデル! 伏せな!」

「っ!」

 剣を押さえつけながら頭を下げると、頭上をレオナの回し蹴りが通過する。

 キャンパスは真横からそれを受け、大きく吹き飛んだ。

「こっちも固定したぞい!」

 パレットの方は、シルバーが押さえ込んでいる間にギダラが空間魔術で縛りつけたようだ。

 これでサドールまでの道が通りやすくなった。

 手ごわい相手に馬鹿正直に戦うほど、俺たちは暇じゃない。

「切り開きます」

 残った兵士の壁を、イレーラが吹き飛ばしたことで突破。

 俺たちは真っ直ぐサドールの下へと駆け出す。

「イスベルを返せ!」

「チッ……役立たずが」

 サドールの悪態が聞こえる距離まで接近し、俺はエクスダークを振りかぶった。

 しかし、俺の一撃は突如割り込んできた男の刃によって受け止められる。

「……おかしいな。どうしてお前がここにいるんだ?」

「やあ、久しぶり。君こそ、まさかここに来ているのが君だなんて思いもしなかったよ」

 エクスダークを受け止めたのは、長い間俺と魔王討伐の旅を共にした騎士リュークだった。

 そしてリュークが持っている剣は、俺がよく知っている物。

 聖剣セイヴァース。

 かつて俺の相棒だった剣だ。

「お前が持ってたのか」

「ああ、この子はとても使いやすいよ。そして、とても強い」

 一瞬閃光が駆け抜けたかと思えば、俺の体は後方へと吹き飛ばされていた。

「アデル!」

 寸前で反応したレオナが俺を受け止める。

「悪い……」

「知り合いかい?」

「ああ。昔仲間だったやつだ」

 レオナに支えられながら立ち上がると、ちょうど俺をあざ笑っていたリュークと目が合った。

 やつの手にあるセイヴァースは神々しい光を放っている。

 セイヴァースはエクスダークと対をなす剣であるらしい。

 能力も近く、注がれた魔力を何倍ものエネルギーへと変換する力がある。

「女に支えられて恥ずかしくないのかい? 勇者ともあろう男がさ」

「何言ってるんだ。旅してたときから俺たちは女に支えられっぱなしだったろ」

「違うね。支えていたのは僕だ。君たちが役に立たなかったからね。この剣も最初から僕が持っていれば、もっと早く被害も出さずに戦いを終わらせていただろうに」

「……そうかよ」

 ――冷静に対応しているが、内心大きな衝撃を受けている。

 単純な話、リュークがここにいることがあまりにも予想外だったのだ。

 俺がいなくなっても仲間であったリューク含めた三人がいれば、人間の国は安泰だと思っていた。

 それがこの現状。

 かなり長くリュークとは旅をしたはずだが、俺は何も分かっていなかったらしい。

「私たちを忘れてはいませんか?」

「相手が人間であれば、ますます遠慮する必要がないのう」

 共に舞台へと接近していたギダラとイレーラ、そしてシルバーが攻撃を仕掛ける。

 しかしその中心にいるはずのリュークは、剣をただ掲げるだけだ。

「君たちに用はないよ」

 聖剣の光が、リュークを中心に爆ぜる。

 それに巻き込まれた三人は吹き飛び、地面に叩きつけられた。

「チッ、厄介な力だ」

「ぐおぉ……腰に響くわい」

 三人は吹き飛ばされただけで、大したダメージは入っていない。

 それに安心していれば、気づけばリュークが舞台から下りてきていた。

「僕と戦えるのは、アデルだけだ。まあ、君でも僕に勝てるわけではないけど」

「……」

 俺は無言でエクスダークを構えなおす。

 確かに、聖剣セイヴァースに立ち向かえるのは魔剣エクスダークだけだろう。

 俺がやるしかない。

「アデル、あんた自分の体が限界なのを忘れちゃいけないよ」

「分かってるよ。ここで無茶はしない」

 本番はイスベルを確実に奪還できるとき。

 今イスベルの近くにはサドールがいる。

 リュークもいるこの状況では、犠牲なしでの奪還は難しい。

 ここは撤退か敵を退けるかして乗り切らなければならない。

 俺は片手を背中に回し、ハンドサインでレオナに三人の回収を頼む。

 いざとなったときに、すぐさま逃げられる状況を作っておきたい。

「……っ」

 了承してくれた気配を感じ、俺は意識をリュークへと戻した。

 魔力の量自体はあまり前と変わっていない。

 ただ聖剣を手に入れたことで、戦闘中の魔力効率が跳ね上がっているのだ。

「エクスダーク、ちょっと力使うぞ」

『……仕方があるまい。相手が相手だから』

「無茶ができないよう、出力調整頼んだぞ」

『任された!』

 エクスダークに魔力を注ぎ込む。

 黒いオーラが吹き出し、俺に力を与えてくれる。

 それと同時に、体の節々に鈍い痛みが走った。

 ここまでガタが来てるのか……。

「ずいぶんと余裕がなさそうだね」

「そう見えるなら気のせいだ」

「まあ、試せば分かるよ」

 俺はエクスダークにさらに魔力を流し込み、大きく振りかぶった。

 リュークもセイヴァースを振りかぶる。

 どうやら考えていることは同じらしい。

「「飛剣!」」

 黒い飛剣と、白い飛剣がぶつかり合う。

 空を割るほどの衝撃が駆け抜け、周りに待機していた兵士たちが吹き飛んだ。

「鈍っているんじゃないか? この程度じゃ僕は倒せない!」

「っ!」

 リュークはもう一度剣を振り、二つ目の飛剣を重ね合わせてくる。

 その瞬間俺の飛剣はかき消され、斬撃が俺へと向かってきた。

「くっ……!」

 かろうじてエクスダークで受け止めたが、抑えきれない。

 このまま勢いを殺すことはできないため、仕方なく空へと受け流して防ぐ。

 その隙を突くようにして、リュークが目の前まで迫っていた。

「残念だよ、アデル」

 リュークが放ったのは、神速の突きだった。

 彼のもっとも得意とする技で、全盛期の俺ですらこれを止めるのは至難の業であったことを覚えている。

 今の俺などでは以ての外。

 俺が認識できたのは、冷たい刃が体を貫いてからであった。

  

 

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