起床する勇者
大変更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
これより最終章です。
俺と魔王は、似た者同士だ。
きっと、だからこそ分かり合えたのだろう。
まるで自分の片割れのような、そんな親近感が湧き始めているんだ。
あいつと離れたくない。
脳裏にイスベルとの賑やかな日常が浮かんできては消える。
俺は、その日常を取り戻すためにイスベルを助けに来たのだ。
「――ル、アデル!」
何者かに呼ばれる声で、俺は目を覚ます。
ふと目線を向ければ、心配しているような表情で俺を見つめているレオナと目が合った。
「ん……レオナか」
「ずいぶんとうなされていたけど、大丈夫かい?」
「ああ、平気だ」
体を起こし、ベッドの近くに置いてあった水を体に流し込む。
かなり寝汗をかいたようで、強い喉の渇きを覚えていたのだ。
「……本当に大丈夫かい? 寝起きだってのにだいぶ体調が悪そうだけど」
「大丈夫だって」
のぞき込んでくるレオナから、目をそらした。
正直な話、大丈夫とは言い難い。
港での戦いから二日、俺たちは現在城下町に移動し宿を取っている。
体調を整えることと情報収集についやしたこの二日間で、俺は自分の体についていくつかのことを把握した。
まず、寝ても満足に魔力が戻らない。
どうやら全体の魔力量が減少しているようだ。
同時に、徐々にではあるが様々な感覚が鈍くなり始めている。
目や耳が前ほど鋭く機能していない。
まだまだ超人の域からは退化していないだろうけど、いずれ闘いには向かなくなっていくだろう。
そう、一言でいえば、俺の体は段階を踏んで常人へと戻りつつあるらしい。
これが自分の命を守るための自己防衛本能なのか、はたまたエクスダークや聖剣セイヴァースが何か干渉してきているのかは分からない。
どういった経緯にせよ、俺が戦える時間は残り少ないということだ。
(無茶ができるとしたら、あと一回くらいか……)
限界はある程度分かっている。
それさえ越えなければ、俺自身も無事に帰ることができるはずだ。
越えなくて済めばの話ではあるが――。
「それより、他のみんなは?」
「相変わらず魔王城の偵察。中にはまだ入れないけどね」
「そうか……」
あれからすぐにでも魔王城へと乗り込もうとした俺たちだが、それは不可能であることが分かった。
なぜなら、肝心の魔王城が閉鎖されてしまったからだ。
中で何が起こっているかは分からないが、魔王城に出入りするための手段が完全に断たれているのが現状である。
常に兵士が周りを巡回しており、門は固く閉ざされている。
少数精鋭である俺たちが騒ぎを起こすことなど厳禁中の厳禁。
無理やり突破することを控えなければならない時点で、俺たちの足は完全に止められてしまったのだ。
「もう正面から突破しちまうかい? いい加減あの子の行方も気になるし」
「イスベルか……そうだな。先に乗り込んでいるだろうし、ファントムから連絡がないのも気になる」
ぐだぐだと言葉を連ねたが、結局のところこのまま動きがあるのを待つだけでは、ただ時間を無駄にするだけということもよく分かっている。
向こうが動かないのであれば、もうこちらから動くしかないのだ。
そんな会話をしていると、突然部屋の扉が開かれる。
「おお、起きておったか」
「ギダラ……それにシルバーとイレーラも」
部屋に入ってきたのは、行動をともにしている仲間たちの姿だった。
最後に入ってきたイレーラが扉を閉めると、ギダラは俺の顔を見ながら話し出す。
「……魔王城の門が開いたぞ」
「なに⁉」
「城下町の広場にて、これより演説が行われるらしい。実際に何が行われるかは分からんが、接触のチャンスかもしれんぞ」
「行くしかないな、それは」
俺はいそいそと立ち上がり、皮のジャケットを羽織る。
まだ眠りこけているエクスダークを腰につけ、でかける準備を整えた。
「まあそう急くな。まだすべての状況が飲み込めたわけではない。まずは演説会場に紛れ込むとしよう。一度開いた門は、もう完全に閉じることはできぬ。今日を逃そうが、必ずほころびが生まれるからのう」
「……それもそうだな」
俺の中に焦りが生まれているのは事実だ。
それを何とか鎮めるようにして、俺は肩の力を抜く。
「話は決まったか? ならば行くぞ」
今まで静寂を保っていたシルバーが、ローブのフードを羽織りなおしながら口にする。
「魔族じゃないあたしらはこうして姿を隠さないとね」
同じくフードをかぶったレオナは、そのまま出入口の方へと歩き出す。
それに続く形で、ギダラとイレーラも外へと出ていった。
「待ってろよ、イスベル……」
俺自身も深々とローブをかぶり、泊まっていた宿屋を後にした。