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思惑渦巻く魔王城

「はぁ……はぁ……」

 魔王の玉座がある部屋に、イスベルとファントムはいた。

 両者とも全身に怪我を負っており、息も絶え絶えな様子である。

「おやおや、やはりイスベル様といえど、魔王の心臓がなければこの程度ですか」

「っ! サドール!」

 イスベルが氷の塊をサドールに向けて放つ。

 しかし、その塊はサドールに届く前に両断され、床に落ちて消えた。

「――感心しないな。この僕を無視するなんて」

「どうして! どうして貴様がサドールと手を組んでいるのだ! 答えろ、騎士リューク(・・・・・・)!」

 イスベルとファントムの目の前に立っているのは、サドールと、もうひとりの騎士だった。

 その騎士の名は、リューク。

 つい先日まで、勇者アデルとともに魔王イスベルを討伐するために動いていた男だ。

「久しぶりだね、魔王。まさかこれほどまでに可憐な少女だとは思わなかったよ」

「っ! やかましい! なぜサドールと組んでいるのか答えろといっているんだ!」

「……自分の立場をわきまえろよ。僕らに見逃された哀れな負け犬のくせに」

 リュークの持つ剣に、魔力が注ぎ込まれる。

 すると白いオーラが剣から漂い始め、彼の魔力を増大させた。

「飛剣――」

 リュークが剣を振ると、そこから白い飛剣が放たれた。

「イスベル様!」

 ファントムがイスベルを抱えて跳ぶと、その横を飛剣が通過し、奥の壁を破壊した。

 何とか直撃を避けることができた二人だが、飛剣の余波で大きく吹き飛ぶことになる。

「大丈夫ですか、魔王様」

「ぐっ、すまない……ファントム」

 立ち上がろうとする二人だったが、蓄積した披露とダメージが原因で膝をついてしまう。

 そんな様子を見て、サドールとリュークはあざ笑うのだ。

「くっくっく……無様ですねぇ、本当に。どうです? 体を差し出し、我らの愛玩具となるのであれば、イスベル様は見逃してあげてもいいですけど」

「ふざけるな! 死んでもそんなものにはならん!」

「はぁ、まだ強気に発言できるだけの元気があるんですか」

 サドールの周りに、何体ものオネットが現れる。

 それらはすべてサドールの呼び先から出た青白い糸に繋がれており、サドールが指を動かすのに連動して、オネットが動く仕組みだ。

「とはいっても、もう立てはしないようですね」

「くっ……」

「あなたはここで拘束させてもらいます。しばらくは、牢屋の中で怯えて過ごしてくださいね」

 オネットたちがイスベルを取り囲むと、そのまま体を拘束する。

 イスベルは藻掻こうとするが、満足に力を出せない今の状態では、払い除けることすら不可能だった。

「離せ!」

「離しません。あなたはこれから、この国を転覆させようとした犯人として民衆の前に出てもらわなければならないのですから」

「何!?」

「そうして王の凶行を止めた私が、真なる王として認められるのです。あなたは、私の犯した罪をすべて背負って処刑されてもらいます」

 驚愕するイスベルとファントムの前で、高笑いするサドール。

 ひとしきり笑ったあと、イスベルを引きずる形でリュークの下へと戻った。

「僕は次期王となるサドールと、良好な関係を築くためにここにいる。彼が魔王軍を率いた方が、何かと都合がいいからね。そのための手伝いもしてるのさ」

「都合がいい……?」

「こっちの話さ。さて、そこにいる魔族はいらないし、こっちは僕が処理しよう。イスベルは君がしっかりと拘束しておくんだよ」

「任せてください」

 サドールは、イスベルを抱えてこの場を去っていく。

 残されたリュークは、同じく残されたファントムの前まで歩み寄った。

「こうも簡単に戦いに乗ってくれるなんて、君たちは本当に間抜けだね。間抜けだから、死ぬことになるんだ」

「そうですねぇ。いきなり勝負を挑むのは、本当に間抜けだったと思います」

「理解があるなら結構だ。このまま死ぬといい。この、聖剣セイヴァース(・・・・・・・・)の力で葬ってやる」

 彼の手にあるのは、正真正銘の聖剣。

 莫大な魔力を注ぎ込めば、それを何十倍のエネルギーに変換する力がある。

 リュークが注ぎ込んだ魔力が一気に膨れ上がり、白いオーラとして彼の周りを漂い始めた。

「何とか闇オークションで手に入れたんだ。どうせなら、試し切りの相手になってくれ」

「……お手柔らかに」

 リュークが聖剣を振る。

 その一撃はファントムの体を切り裂き、胸元から血液を吹き出させた。

 よろめくファントムに追撃の蹴りをくらわせると、彼は大きく吹き飛んで、先程の飛剣でできた穴から外へ落ちていく。

 ファントムがいなくなるまでそうして見送ったリュークは、今一度あざ笑い、聖剣をしまった。

「アデルよりもいい技だろう」

『……』

「剣のくせに、いっちょ前に反抗か? ……まあいい。いずれ完璧に使いこなしてあげるよ。そのときになったら、僕が真の勇者だ」

「――ロイ様」

「……ここではリュークと呼べと言っているだろう」

 そんな彼に、話しかける者がいた。

 今まで誰もいなかったはずの部屋に、いつの間にか橙色のローブを着た男と、紫色のローブを着た女が立っている。

 二人はリュークに忠誠を誓う形で膝をつき、頭を垂れた。

「申し訳ありません、リューク様。このヴァイオレット、準備が整いましたわ」

「同じくオレンジ、準備かんりょー」

「こら! オレンジ! ちゃんとリューク様に敬語を使いなさい!」

「えー、難しいよぉ」

 二人の間の抜けたやり取りに、リュークは一度ため息をつく。

「くだらないやり取りはそこまでだ。その準備とは、魔石を体内に取り込めたということでいいのかな?」

「ええ。我ら二人とも、それぞれ与えてくださった魔石との適合に成功しております」

「それは何よりだ。もうすぐ魔族の団体客が来る。どうやら人間の冒険者もおまけでいるようだが――まあいい。お前たちにはそれを迎え撃ってもらうぞ」

「かしこまりました。このヴァイオレット、ロイ様の前に敵の首を晒してみせましょう」

「首なんて怖いよぉ」

「うるさいですわ! 例えですのよ! ――それではリューク様、行って参ります」

 ヴァイオレットとオレンジは、今一度頭を下げるとその姿を消す。

 再び一人になったリュークは、自分で空けた壁の穴の前で、目前に広がる城下町を見下ろした。

「もうじき、ここもすべて私のものとなる……」

 リュークの高笑いが、部屋に響いた。

 彼は心底愉快そうに笑う。

 城の下、重症を負ったはずのファントムの姿が消えていることに、気づかないまま――。

 

 

新作「魔王、買いました。」を投稿しました!

こちらもぜひよろしくお願い致します!



魔王、買いました。

(https://ncode.syosetu.com/n1431fb/)

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