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協力する魔と人

「おい、あいつ……」

「さっきの人間だ!」

「やっぱりあいつがこの騒ぎを起こしてるんだ!」

「他にもいるぞ!」

 町民たちが、俺たちに気づいた。

 そのまま捕らえようと近づいてくるが、それを阻むように爆発が走る。

「主らはしばらく黙っておれ。今大切な話をしているんじゃ」

「ギダラ様!? しかし――」

「黙っておれと言っておるんじゃ。あの魔物どもを退けるために、今話し合っているのじゃからな」

「っ……」

 町民たちが静になる。

 さすが魔王軍の大臣、言葉に有無を言わせない凄みがあった。

 俺の目の前にいるレオナとシルバーは、何かを考え込むような素振りをしている。

 空気が重い。

 そんな中、初めに口を開いたのは、レオナであった。

「――何だ、そういうことだったのかい。どおりで強いと思ったよ!」

「へ?」

 レオナは頭に手を当てて笑いだした。

 呆気にとられてそれを見ていると、シルバーも一つため息をついて、静かに笑う。

「勇者アデル、だから『アル』か。少し安直ではないか?」

「気づかなかったあたしらも馬鹿じゃないかい?」

「勇者が一端の冒険者をやっているなど、夢にも思わないだろう」

「それもそうさね!」

 どういうわけだか、二人はそこまで動揺していないように見える。

 バレていたというわけではないようだし、何がなんだか分からない。

「なに湿気た面してんだい! これから戦うってときに」

「だって……二人とも、勇者の仕事を放棄した俺を責めないのか」

「はぁ? 別に責めやしないよ。大体あんなかたっ苦しくて酷い扱いの仕事なんて、辞めちまって正解だよ。あたしなら三日も持たないね!」

 レオナはそういって、再び快活な笑いで吹き飛ばす。

「私が国の王であったならば、勇者などという仕事を一人に任せるなどしなかった。貴様は間抜けな国によって作られた、ただの犠牲者だ」

「そういうわけさ。だから、魔族と戦いもしなかったあたしらがあんたを責めることなんて、絶対にないんだよ」

「貴様は勇者だのと言う前に、私の家臣だ。素性が知れた以上、手助けをしない意味はない」

「あたしにとっては想い人みたいなもんだからね! あんたにお願いされて、断ることなんてしないさ」

 シルバーは剣を抜きながら、レオナは拳を鳴らしながら、俺にそう声をかけてくる。

 今まで悩んで隠していた俺が馬鹿みたいだ。

 こんなことなら、もっと早くいっておけばよかった。

 ――いや、違う。今だったから意味があるんだ。

 出会ったときに伝えていたら、多分こんな関係にはなっていない。

「行くよ、アデル(・・・)

「私たちをここに呼んだということは、何か作戦があるのだろうな」

「っ! ああ! 今から説明する」

 巨大生物たちが上陸するまで、まだ少し時間がある。

 上空の鷹も、二体が上陸するまでは襲ってくる様子がない。

 この間でなら、作戦を伝えられる。

 

「なるほど、ご老人の魔術を使うんだな」

「うむ。ワシが主らを転移させ、魔物どもの背中に飛ばす。その後は主ら次第じゃ」

「あいつらを落下させたり、ぶちのめせばいいんだね?」

「そういうことになるのう」

 敵は三体、俺たちはギダラを抜いて四人。

 誰がどいつを担当するかが重要になってくるだろう。

「生憎だが、私にあの化物どもを一撃で倒せるような技はない。代わりといってはなんだが、守ることに関しては絶対の自信がある」

「だったらシルバーには、町を守ってもらうか。俺たちがやつらと戦えば、その余波が来るだろうし」

「任せておけ。この町には被害一つ出さないことを約束しよう」

 シルバーは胸に手を当てて、そう言い切った。

 この男が守るといったら、絶対に守り抜いてくれるという確信がある。

「じゃああたしらでデカブツどもを落とせばいいわけだ!」

「ならば、竜を任せてもらえないでしょうか。竜の鱗というものを斬ってみたいのです」

「いいんじゃないかい? ならあたしは亀がいいね! あの甲羅を打ち砕いてみたいもんだ!」

 二人がその二体を担当してくれるのなら、俺が相手にすべき敵は絞られた。

「俺は上の鷹を斬る。これで相手は決まったな」

 そう言い切った瞬間、ギダラが再度杖を地面に突き立て、魔法陣を展開する。

 その光は俺とレオナとイレーラを包み込み、転移の準備を整えた。

「決まったなら覚悟を決めい。すぐにでも主らを飛ばすぞ」

「ああ、頼む」

「いつでもいいよ!」

「試し切りにはちょうどいいです」

「威勢のいい連中じゃ……よし、飛ばすぞい!」

 光が一層強くなる。

「転移魔術――転送(トランスファー)!」

 再び浮遊感に包まれ、俺の見ていた景色が一瞬にして変わる。

 広がっていたのは、青色だった。

 そして、感じる強烈な寒さ。

 それもそうだろう。ここは、雲よりも高い場所なのだから。

「……まるで地面に立ってるみたいだな」

 上空を飛んでいた鷹の上に、俺は立っている。

 生き物の上に立っているとは思えないほどの安定感があるが、戦いやすくて好都合だ。

「行くぞ、エクスダーク」

『やっと我の出番か。主に磨かれて絶好調の我の力を見せるときが来たのう!』

「ああ、お前が最高の相棒だってこと、証明してくれ」

『任せておけ! 我以外の剣が物足りないようにしてやるわ!』

 俺はエクスダークを抜き放ち、鷹の背中に向けて振り下ろした――。


「――ギダラといったな。貴様、大丈夫か(・・・・)?」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 三人を転移させたギダラは、苦しげに息を吐きだしていた。

 もはや杖を支えにしなければ立っていることもできず、気だるげにうなだれている。

「魔力の使いすぎのようだな……回復のポーションが必要だろう」

 シルバーは懐から青い液体の入っている容器を取り出した。

 それをギダラに差し出すが、彼はなぜか受け取ろうとしない。

「無用じゃ……ごほっ」

「っ! おい!」

 シルバーの手を払いのけると同時に、ギダラは口から大量の血液を吐き出す。

 地面に水たまりができるほどに溢れ出したそれは、シルバーの靴の先を少し汚した。

「やつらには黙っとれ……魔王様にも、まだ知られてないんじゃからな」

「――もう、長くないのか(・・・・・・)

「うむ。魔力回路がもう使い物にならなくてのう……酷使しすぎた代償じゃろうて。こうなった以上、これから何度戦えるかも分からん」

 ギダラは膝に手をつき、杖に体を預けながらも、なんとか立っている。

 そのまま強引に手の甲で血を拭い、地面の血も足で消した。

「魔力はあるんじゃ……回路が追いついてないだけでのう」

「転移魔術は恐ろしくコストがかかる。何十年と使い続ければ、そうなるのも頷けるな」

「戦い抜いた証じゃ。しかし……まだ回路が万全ならば、お主らに頼ることもなかったじゃろうな」

 そういうギダラの顔は妙に痛々しく、シルバーでさえも顔をしかめた。

 何十年、いや、何百年と魔王軍に貢献し続けた魔術師の行き着く先は、こうも残酷であるのか。

「本当に、伝えなくてよいのか」

「うむ。伝えないでくれ。変に心配され前線を追い出されるより、最後まで魔王軍の大臣として戦い続けることが、ワシの死に場所には相応しい」

「……見事。としかいうまい」

「人間に認められるとは、妙なこともあるもんじゃ。長生きするもんじゃのう」

 盛大に笑い声を上げるギダラは、はたから見れば元気な老人そのものだろう。

 体の中身が崩壊しているなんてこと、誰にも分からないのだから。

「私も、魔族とこうして話すことになるとは思わなかった。家臣のおかげだ」

「アデルか……元勇者でありながら、我々を敵視しないとは……妙な男じゃ」

「あの男には、人を集団ではなく、個で見る力が備わっている。付き合い自体は短いが、それくらいは分かる。だからこそ、私はやつを家臣だと認めているのだ」

 上空にいるであろうアデルに視線を向けながら、シルバーは淡々と語った。

「事情はまだ聞いていない――が、家臣が味方をしている限り、王もまた、貴様ら魔族に力を貸そう。貴様の生き様に免じ、後悔のない死に場所を用意してやる」

「かっかっか! 頼もしいのう。頼むぞ、騎士王よ」

 彼ら自身が、今この瞬間に人間と魔族の垣根を越えたことに気づいていない。

 名前のつけようがない絆だけが、ここにはあった。

 

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