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見つかる勇者

 飛びかかってきた魔族たちをかわしながら、エクスダークを使って押しのけたり、攻撃を受け流していく。

 ただの町民とはいえ、皆が皆魔族であることには変わらない。

 力は強いし、たまに魔術を使ってくる者も混ざっている。

「どこかにオネット本人がいるはずです! ここを抜けたら探し出しましょう!」

「ああ!」 

 声をかけあいながら、俺とイレーラは町民の包囲網を掻い潜っていく。

 イレーラの身のこなしはさすがとしか言いようがない。

 適度に避けつつ、隙を狙って剣の柄で町民を戦闘不能にさせている。

 下手すれば殺してしまいかねないやり方だが、技術面に長けるイレーラにとっては造作もないようだ。

 ちなみに、俺は加減しきれないので避けるだけである。

 それにしても、かなり店から離れたのだがいまだ抜け出すことができない。

 よく見れば、俺たちの足止めをしつつ進行方向に回り込んでいる町民がいる。

 だいぶ統率が取れていなければ、こうはならないだろう。

 しかしこれでは、どんなに抜けようとしても埒が明かない。

「たしか人形魔術って、対象のことが見えてないと操れないんだよな?」

「そう記憶してますが……っ!」

 町民たちの猛攻を避けつつ、俺は辺りを見渡す。

 よくよく考えれば、こうも人垣が高いとこれだけの人数を目視し続けるのは難しいはずだ。

 つまり、候補として残るのは――。 

「それは、上しかないよな」

 俺は町民の突進をかわすと同時に、上空を見上げる。

 少なくとも、空には浮いていない。

 ならば残すは高い建物だ。

 近くでももっとも高い建物を探してみれば、明かりを灯しておくための灯台が目に入った。

「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」

「へ?」

 イレーラの腰に手を回し、そのまま抱える。

 町民たちが飛びかかってくる前に、俺は地を蹴って飛び上がった。

 近くの民家の屋根に飛び乗り、走り出す。

「何をしているんですか!」

「これだけの人数を視界に入れ続けられるのは、この辺りでは灯台しかない! このまま屋根を伝って灯台まで行くぞ!」

「分かりましたから! 自分の足で走れますので離してください!」

「あ、そうか」

 抱えている手を離すと、イレーラも少しよろけながら走り出す。

 女性を抱えて走るっていうのはまずかったな。

 理解はしたから、そんなにジト目で見ないでほしい。

「――いました。灯台の屋根の上です」

「あれか」

 灯台の天辺に、黒いローブを羽織った男が立っていた。

 無表情で佇むその両手からは、時たま光を反射する魔力で出来た糸が伸びている。

 あれが人形魔術を使用している証拠だ。

「オネット! 今すぐ港の人たちを開放しなさい!」

「イレーラ……始末スル。他の隊長、副隊長もすべて……ここで始末スル」

「っ! なるほど……初めから私を消すつもりで待っていたんですね」

 なるほど、納得だ。

 俺の存在までバレているのかと思って疑問しかなかったが、初めからイレーラだけが狙われていたのならば理解できる。

「目撃者も……ここで始末スル」

 オネットの指が奇っ怪に動くと、民家の周りから複数の町民が現れた。

 驚異的な身体能力で屋根の上に飛び乗った町民たちは、俺たちの姿を確認すると飛びかかってくる。

「イレーラ、その剣であいつを斬れるか?」

「もちろん。どんな剣でも、振らせてもらえるのであれば斬ってみせます」

「……分かった。じゃあ、今からあんたを打ち上げてオネットのところまで飛ばす。そしたら――」

「一撃で斬り伏せればいいんですね?」

「話が早い」

 俺の頭にあるビジョンとして、レオナと巨大タコ相手に戦ったときの攻撃を思い出していた。

 あのとき、レオナが俺をタコに向かって蹴り飛ばすことで、一気に接近することができたのだ。

 さすがに身体能力の面で蹴り飛ばすことは不可能だが、ひとつだけ方法がある。

「飛べ! あとはバランスを保つことだけを考えろ!」

「っ!」

 イレーラが屋根を蹴って体を浮かせると同時に、俺はその靴の底めがけて|エクスダークを振る。

 俺が思いついた方法とは、エクスダークを使ってイレーラを打ち上げることだった。

 これなら上手いこと力が込められる。

 確かな手応えとともに、俺はイレーラをオネットへ向けて飛ばすことに成功した。

『主……さすがにそろそろ傷つくぞ』

「こればっかりは本当に悪い。あとで丁寧に磨かせてくれ」

『ならば許そう!』

「ありがとうな!」

 イレーラを打ち上げたあとは、自分の方だ。

 すぐそこまで迫ってきている町民たちを何とかしなければならない。

 エクスダークを逆手に持ち替えると、そのまま屋根に突き立てる。

 するとそのまま屋根が壊れ、埃をとともに俺の体は下へと落ちていった。

 埃が目くらましにもなり、町民たちは俺を見失って攻撃ができない。

 魔力感知の制度を上げて、この下に誰もいないことは確認済みである。

「行け!」

「魔流剣術・居合の段――」

 一瞬のうちにオネットに肉薄したイレーラは、脇に剣を構えていた。

 それを、抜くと同時にただ振り抜く。

 イレーラが行ったことはそれだけであったが、彼女がそれをすることで、それだけ(・・・・)のことが神業へと昇華した。

「――竜尾」

 剣を納めると同時に、ゆっくりとオネットが崩れ落ちるのが見えた。


「どういうわけだ……これ」

「分かりません。いつからこうだったのか、それとも――」

「初めからこうだったのか、だな」

 灯台の屋根の上。

 港を一望できるこの場所には、オネットの死体が倒れていた。

 いや、死体といっていいのかも謎である。

 なにせ、中身がないのだから(・・・・・・・・・)

「まるで陶器で出来た人形だな……まさか、マリ『オネット』なんてオチじゃないだろな」

「ありえそうだからやめてください……副隊長であるオネットは、どこの生まれかも、副隊長になる前のことも一切不明な男でした。副隊長になった理由は、サドールが連れてきたからです。もしも初めから人形であったならば……」

「一つ聞きたいんだけど、そのサドールってどんな技とか魔術を使うんだ?」

「……分かりません。魔術師であるとは聞いているんですが」

 ならば、そのサドール自身が人形魔術の使い手である可能性が高い。

 いかにも周りを信用しなさそうな狡猾で残忍な男なのだから、裏切るかもしれない者を副隊長には置かないだろう。

 それこそ、絶対に逆らわない『人形』などでないと――。

「サドールは、一切信用されないまま実力だけで隊長になった男です。もし、本当に魔王軍を乗っ取るために今動いているとしたら、初めからそのつもりで隊長を目指していたのかもしれませんね」

「得体の知れないやつだな……本当に」

 俺とイレーラは、人形に背を向け、灯台を下りる。

 下では突然崩壊した家や、操られていた者たちが正気に戻ったことで騒ぎが起こっており、混乱を極めているようだった。

 俺は、この混乱に乗じてすぐさま退散しておくべきだったと、次の瞬間には後悔することになる。

「おい! 人間がいるぞ!」

 一人の男が俺を指差し、言った。

 俺は恐る恐る自分の格好を確認すると、思わず声をもらした。

「「――あ」」

 気づいたのは、イレーラも同じタイミングだったらしい。

 俺が深くかぶっていたはずのフードが、取れていた。

 逃げている最中か、それとも屋根から落ちたときか、それは分からない。

 重要なことは、今の俺は人間である自分の容姿を、大衆の前に晒してしまったということである。

「きっとあいつが犯人だ! 捕らえろ!」

 一人がそういえば、周りの魔族もそれに同調して動き出す。

 これでは、あまり状況が変わっていないな……。

「逃げますよ!」

「ああ!」

 俺たちは、迷うことなく駆け出した。

 まずは鍛冶屋に行って武器を回収し、そのまま町を出るために。


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