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衝撃を受ける勇者

「お久しぶりです、ブレイルさん」

「副隊長の嬢ちゃんか……なんだ、この前の剣に飽きたとかいうんじゃねぇだろうな」

 首を鳴らしながら、身長二メートル以上はあるであろう魔族の男が問いかけてくる。

 ずいぶんな威圧感だ。

「飽きさせないために、私に馴染むよう作ってくれたのはあなたでしょう。できることならば、私はまだこの子を使ってあげたかった……」

 そういいながら、イレーラは自分の剣を鞘ごと店主に渡す。

 訝しげな表情でそれを受け取った店主は、鞘から抜いてその惨状を見た。

「何だこりゃ……完全に砕かれてんじゃねぇか」

「申し訳ありません。自分が未熟さ故の失態です」

「未熟とか、そんなもん以前の問題だ。誰に――いや、何にやられた? 切断されるならともかくとして、俺の剣が砕かれるなんてありえねぇ(・・・・・)

 ブレイルと呼ばれた男は悔しげに砕かれた刀身を見つめている。

 それほどまでに、自分の腕に自身があったのだろう。

「こいつは限りなく五ツ星に近い四ツ星だった。三ツ星以上の剣には、魔力伝導率を上げるために魔力回路という名の神経を這わせる……それがあるから、刀身が砕けねぇんだ。砕けるはずがねぇんだよ」

「……どういうことです」

「高密度の魔力の刃でなら、魔力回路自体を焼き切れるから切断できる。だが、こいつは魔力回路もすべて無視して完全に砕かれてやがるんだ。こんなの、五ツ星の武器でも不可能だ」

 ブレイルは悔しげに、近くのタルを蹴り飛ばす。

 もしや俺とエクスダークは、相当申し訳ないことをしてしまったのではないだろうか。

「分かるか? 完全に武器の性能で負けてねぇと、こうはならねぇんだよ。圧倒的に……それこそ星が二つ以上違わねぇと不可能だ。――もう一度聞く。何にやられた」

「……」

 もう一度聞かれたイレーラは、少し視線を泳がせた後、俺――いや、エクスダークを指差した。

「てめぇか……その剣、見せてくれねぇか」

「え、あ、ああ……分かった」

 俺はエクスダークを鞘ごと取り外し、ブレイルに渡す。

 受け取ったブレイルがエクスダークを抜くと、まじまじとその刀身を見つめ始めた。

『主……こうして見つめられているのも、また不思議な快感があるのう』

 うるさい、黙ってろ。

「こいつは……どおりで砕かれるわけだ」

 ブレイルは鞘にエクスダークを戻し、俺へと返す。

 その際、どこか諦めたような、負けを認めたような表情を浮かべていた。

「この剣は……何なのですか?」

「具体的には俺にすら分からねぇ。だが、その剣は六ツ星以上の代物だ。五ツ星ですら、文字通り刃が立たねぇだろうよ」

「六ツ星以上!?」

 五ツ星までしかなかったんじゃないだろうか。

 よく分からないが、褒められていることには違いない。

 それが自分のことのように嬉しく思えたため、エクスダークの柄を撫でてみた。

 変な声が漏れ出したので、止めた。

「六ツ星以上の剣は、今の所『人の手では作れない』とされている。例えば、勇者が持つ聖剣とかな……その剣はそれに匹敵するレベルの品質を持っているってことだ」

『聖剣などと一緒にされたくないのう……「あやつ」は別の意味で我よりも気持ち悪いし』

 やっぱり、エクスダークなら聖剣についても知っているよな……。

 エクスダークが聖剣を気持ち悪いという理由は少し分かる。

 他人から、それこそ他の剣から見れば、アレの存在は『理解ができない』。

 長い間連れ添った俺だからこそ、多少は分かる部分が出来たんだ。

 それ故に、俺は売り払った。

 どこにあるのかも分からず、俺が二度と手にできないように。

「……この剣は、ダンジョンで見つけたものだ。誰の銘も入ってないよ」

「そりゃどうしようもねぇな……そいつに砕かれたなら仕方ねぇ。今回のことは俺の実力不足でもある。待ってな、すぐに上等な物を打ってやる」

 ブレイルはイレーラの砕けた剣を鞘から抜くと、それを持ったまま店の奥へと戻っていく。

「助かります」

「こちらこそ、こいつを最後まで使ってくれてありがとうな。贔屓しすぎるのはポリシーに反するが、礼もかねて五ツ星の剣をこいつと同じ値段でどうだ?」

「そこまでしていただけるのですか……」

「もちろん、柄とか土台自体はこのまま使わせてもらうけどな」

 ブレイルは手の中の剣の柄を指していう。

「そういうことでしたら、ぜひ。その持ち手は、もう私にとっても手放したくないものなので」

「分かった。命を込めて打たせてもらうぜ。二時間ほど待ってくれ、ちょうど作りかけのものがあったんだ」

 そういって、今度こそブレイルは店の奥へと消えていった。

「よかったな。とりあえずなんとかなりそうで」

「ええ。本来五ツ星の剣なんて私の給料では手も出ませんでしたが……この前と同じ値段にしてもらえるなら購入できます」

「……魔王軍って、給料制だったのか?」

「そうですよ。一般兵と副隊長、隊長でかなり差がありますけれど」

 ここに来て、俺個人に対してものすごい衝撃が走った。

 今まで俺が戦ってきた魔族たちは、みんな給料で戦っていたのか。

 ――だいぶ割に合わない気がするな。

「それよりも、二時間の間どうしましょうか。出発前に腹ごしらえでもしておくのが無難かと思うのですが」

「腹ごしらえか……そうだな、しておくか。何だかんだ昨日から何も食べていないし」

「ならば魚料理の有名な店が近くにあります。そこへ行きましょう」 

 イレーラは、店に剣を預けた人間用の貸出剣を一本手に取ると、そのまま店の外へ出ていく。

 やはり優秀な店だ。

 基本的に、武器屋はどこも貸出用の剣を置いてはいるのだが、どれも粗悪品ばかり。

 鍛冶屋の言葉でいうなら、一ツ星のものばかりといっていいだろう。

 しかし、ここの物は貸出用の剣ですら三ツ星以上の性能があるようだ。

「この店、何で流行らないんだろうな」

「目立たない場所にあるからというのもありますが、まず店主であるブレイルさんの御眼鏡に適う者でないと、剣を見せてもらうことすらできません。初めは私も購入させてもらえませんでした」

「そうだったのか」

「ここにある上物の剣を振るってみたくて、修練を続けたなんてこともありました。ここは、私が強くなれた理由でもあるのです」

 魔王軍の副隊長を作り上げた店――か。

 ここの店主の営業の仕方には、感謝しなければならない。

 この技術を戦争のときに容赦なく使われていたら、間違いなく戦況は俺たちに良くない方へ動いていただろう。

 わずかに垂れてきた冷や汗を拭って、俺はイレーラのとなりを歩くのだった。

 

 

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