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訪ねる副隊長

「この時間から動けば、いくら魔族大陸の魔物でもそこまで活発じゃありません。行きましょうか」

「ああ。服も――よし、ちゃんと乾いてる」

 起床した俺は、火の近くに置いておいた服を拾って身につける。

 多少のゴワつきはあるが、着れれば問題ない。

「このまま港を目指すんだっけ?」

「はい。まずは港へ行き、そこから魔王城へ向かいます。多少は遠回りになりますが、すべてはイスベル様とファントム様の指示ですので、ご容赦を」

「……分かった」

 ただの商人などならともかく、俺たちならばこのまま魔王城へと突っ切って行ってしまった方が早いのは明らかだ。

 しかしそれをさせないルートを選択しているということは、何らかの事情があるのだろう。

 特に、今回は魔族の問題だ。

 俺はあくまで協力者、今は魔族側に従っている方が無難だろう。

「あと、人前に人間であるあなたが出ていくのはまずいので、基本的にはこれを纏っていてください」

 イレーラは少し大きめのローブを取り出すと、俺に手渡す。

 フードつきで、深くかぶれば人相なども分かりにくくなりそうだ。

「魔王城まで行くことができれば、ファントム様が魔族に見える幻惑魔術をかけてくれると思いますが……それまでは我慢してください」

「助かる。イスベルは人化の魔術を使えたけど、俺は覚えていないからな」

 人と魔族の違いなど、見た目に限ったことであれば角があるかないかしかない。

 だから魔族であれば角が隠せれば人間に見えるし、人間であれば角を生やすだけで魔族に見える。

 ただ、それが思いの外難しい。

 特に人間が魔族に化ける際に顕著に現れる。

 人間が頭に角を象った物をつけても、魔族にはすぐ偽物だと分かるそうだ。

 曰く、角からもその魔族の気配を感じるらしい。

 完全に魔族になりすましたいのであれば、人体の構造を変えて角を生やすしかないのだ。

 ファントムであれば、その気配さえも誤魔化せるというだけである。

「行きましょう。港はこちらです」

 

 港へは、歩いて三時間ほどで到着した。

 人間の大陸と同じように、魔族の港もそれなりに賑わっている。

 人通りは激しく、ここでフードが脱げれば大変なことになるだろうな――。

「ここで少々私の買い物に付き合っていただけないでしょうか?」

「買い物?」

「ええ。どなたかが、私の剣を砕いてしまったので」

 そういって、イレーラは鞘から剣を少し抜いて、根元から先がない剣を見せてきた。

 その剣を見て、思わず言葉に詰まる。

 何といっても、これは村の近くでイレーラと戦ったときに、俺が砕いた剣だ。

「……悪い」

「いえ、私の未熟さが招いたことです。責めるつもりはありません。ええ」

「間違いなく責めてるだろ、それ」

「ともかく、私にはすぐにでも新しい剣が必要なのです。付き合っていただけますよね」

「……分かった」

 この図々しく有無を言わせない感じ……何故か逆らえないな。

 魔王であるはずのイスベルよりも、よっぽど横暴だ。

「近くに私のよく利用している鍛冶屋があります。そこへ行きましょう」

「え、魔王軍のお抱え鍛冶屋とかなにのか?」

「あります。ただ、私自身が気に入って利用してるだけです。剣にはそれなりにこだわりたいので」

「そういうことか」 

 優れた剣士は、自分の相棒にも妥協しない。

 旅の途中で出会った名高い剣豪たちは、そういっていた。

 イレーラもまた、『剣士』としてであれば俺の上に存在する。

 その分妥協することなど考えてもいないんだろう。

「あなたは何か入り用はありますか?」

「うーん……別にないかな。俺にはこいつがあるし」

 エクスダークの柄をコツコツと叩く。

 すると、『ふふん!』というエクスダークの上機嫌な声が聞こえた。

 昨日手入れをしてやったら、かなり機嫌を取り戻してくれたのだ。

「――気になっていたのですが、その剣はかなり上物ですよね。いったいどういった経路で入手したのですか?」

「あ、知らないのか、この剣のこと」

 魔族は皆エクスダークのことを知っているものだと思っていたが、そうではないらしい。

 ――あ、いや。イスベルも名を聞くまでは気づいてなかったな。

 どうするか、説明がかなり難しい。

「……高難易度のダンジョンで見つけたんだ。そこでの拾い物なんだけど、こいつより上物の剣にまだ出会ってなくて」

『おい、主。我の説明を放棄したな? あ! 待て、そんな強く握るでない! 分かった! 黙るから!』

 エクスダークが茶々を入れてきたため、柄を握りしめて黙らせる。

 今すぐエクスダークであることを伝える必要もないわけだし、いずれ向こうが気づいたときに説明しよう。

『そんなこといって! 面倒臭くなっただけじゃろ!』

 おいおい、あまり主を怒らせるでない。

 愛剣のことで面倒臭がるなど、あるはずがないのだ。

「? ともかく、事情は分かりました。では、ひとまずのところは私の買い物にお付き合いください。途中で何か必要な物が思いつけば、そのつど寄っていきましょう」

「ああ、分かった」

 イレーラに連れられる形で、港町を歩いていく。

 見た所、飲食店から冒険者用のアイテム店、防具屋に武器屋、本などの娯楽物から、宝石の店なども揃っていた。

 確かにこれなら、基本的なものはすべて集めることができるだろう。

「つきました。ここがいつも私が利用している鍛冶屋です」

「……へぇ」

 そうしてたどり着いた鍛冶屋は、一階建ての石造りの店だった。

 中からは絶えず金属音が響いてきて、鉄を打ちまさに武器を作っていることが分かる。

「店主は気難しい方ですが、腕は確かなんです」

「まあ……そういう人ほどこだわりが強かったりするしな」 

 他の物に気を取られず、ひたすら自分の目指すべき道を進む。

 その結果、周りからとっつきにくい人だと思われてしまうのは、仕方のない話だ。

「今回も私に合う剣があればいいんですが――」

 イレーラが店の扉を開けて中に入る。

 俺もそれに続く形で中に入ってみると、独特の鉄臭さと熱気を感じ取った。

 店内にはところ狭しと武器が並べられており、少々手狭な印象を受ける。

 剣などが適当にタルに突っ込まれていたり、打撃用のメイスが壁に立てかけられているのを見る限りでは、内装にはあまり拘っていないようだ。

 ただ、それでも――。

「……驚いた。こんだけ乱雑に置かれているのに、全部上物だな」

「分かりますか。ええ、私も初めて訪れた際は驚きました。ここにあるものすべてが、『三ツ星』以上の武器たちです」

「三ツ星……?」

「それは知らないのですか? 鍛冶屋たちが定めた、剣の品質のことですよ。一ツ星から五ツ星と星の数が増えるごとに、品質が大きく上がっていきます。基本的には、一、二ツ星が低級、三、四ツ星が上級、五ツ星が最上級といった扱いですね」

「つまり、ここにあるものは全部上級ってことか……」

「はい。少なくとも、金貨五十枚以上でなければ購入できないでしょうね」

 とんでもない店だな。

 金貨五十枚など、ランクの低い冒険者では到底払えない。

 この時点で、半端な客はお断りといったところか。

「店主、武器を購入したいのですが」

 イレーラが、店の奥に向かって声をかける。

 すると、鳴り響いていた金属音が止み、店の奥からのっそりと大柄な男が現れた。

「何だ……客か?」

 

 

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