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提案する勇者

「……本当にこれで行くのか?」

「当たり前さね! 準備はいいかい?」

「大丈夫だけど……」

 俺は現在、四つん這いになり身を屈めているレオナの背中の上にいた。

 自分の足でレオナの胴体に足を回し、またがる形でレオナに乗っている。

 彼女の作戦というのは、こうして機動力と攻撃力を同時に手に入れようというものであった。

 見た目は間抜けそのものだが、俺はレオナのおかげで波の上でも自由に動くことが出来て、レオナは少し劣ってしまっている攻撃力を補うことが出来る。

 一応は、理にかなっていた。

「細かいことは後さ! 行くよ!」

「あ、ああ!」

 巨大な触手が真っ直ぐ向かってくる。

 それを真横に跳ぶことでかわし、飛沫を払い除けながら本体へと駆け出した。

 しかし、一本かわしてもまだ七本ある。

「左右から来るぞ!」

「あいよ! 捕まってな!」

 俺はレオナの肩に手を置き、強く握る。

 次の瞬間、全身を壁に叩きつけたような衝撃を感じた後、触手たちをくぐり抜けていた。

 なるほど、今のは空気抵抗か。

 そう気づいた時には、もう別の場所にいる。

 俺の思考よりも速く、レオナは動いているのだ。

 目で追うのがやっとなわけである。

「よく俺を乗せてこれだけ動けるな」

「ちょっと経験があるからねぇ。ま、その話はまた今度で」

 話を切ったレオナの表情が、少しだけ曇っていた。

 少し話しにくいことがあるのかもしれない。

 ならば必要に追求などもせず、今は目の前のことに集中してもらおう。

「アタシはこの機動力を保つので精一杯だ! 攻撃は頼むよ!」

「分かってる!」

 再び襲いかかってくる一本の触手を、まずはかわす。

 そしてかわし際に、俺はエクスダークでその触手に飛剣を放った。

 しかしその一撃は切れ込みを入れるので精一杯で、切り離すには至らない。

『やはりとっさに放つ飛剣では、触手すら切断出来ぬか……』

 エクスダークがつぶやく。

 伝説の剣でもこのレベル。

 このタコ、まともにやりあえば国一つくらいなら滅ぼせるんじゃないだろうか。

「溜めの時間が必要だな。レオナ、少し時間を稼げるか?」

「攻撃を受けないよう避け続けるってだけなら、簡単だよ。触手は鈍いわけじゃないけど、アタシの足には届いてないからね」

「分かった。じゃあ一本あたり五秒くれ。それだけあれば、一つ残らず切断出来る」

「あいよ! しっかりかわしてやるからね!」

 俺たちを鬱陶しく思ったのだろうか。

 タコは俺たちに四本の触手を差し向けてくる。

 レオナは全身のバネを活かし、跳び、時には走り、時には止まるを繰り返した。

 するとレオナの言った通り、すべてをかわしきることい成功する。

「これなら……っ!」

「今だよ!」

 今一度三本の触手をかわしきった後、飛び上がると同時にすれ違いざま、残りの一本に対して飛剣を放つ。

 今度は五秒以上魔力を溜めた飛剣だ。

 先程の一撃とは比べ物にならないほどの斬撃が、触手に命中する。

 斬撃は瞬時に肉に潜り込み、そのまま触手を切断した。

 切り離された先端部分が海へと落ち、水飛沫を上げる。

「よし、まず一本――」

『主! 下だ!』

 エクスダークの言葉とともに、海面へと視線を落とす。

 海中に何かが蠢いたのが見えた。

 嫌な予感がし、とっさに首を倒す。

 すると、海中から突如飛び出してきたそれが、俺の頬を掠めた。

 頬に熱を感じつつも、飛び出してきた物へ視線を移す。

 それは、先程グリードタイガーのメンバーを海中へと引きずり込もうとした小さい触手だった。

「これはまずいよ!」

「分かってる!」

 その触手が引き戻ると同時に、同じ大きさの触手が複数蠢いているのが見えた。

 このタコ、八本の巨大な触手の他に、数えきれないほどの小さな触手を持っているようだ。

 タコの特徴は持ちつつ、その辺りはやはり魔物。

 平気な顔して常識を覆してくる。

「魔力障壁!」

 俺は腕を突き出し、自分たちを覆うように魔力の壁を形成する。

 次の瞬間、無数の触手たちが俺たちを串刺しにしようと飛び出してきた。

 それらは壁を貫くことは出来ず、外へと弾かれていく。

 しかし、攻撃はそれだけでは止まない。

 弾かれた触手が海中に戻れば、別の触手たちが襲いかかってくる。

 障壁が破られることはまだないが、さすがに耐えきれず徐々にひび割れ始めた。

「ちょっと! もう持たないんじゃないのかい!?」

「わ、分かってる!」

 俺は元々魔術が得意じゃないのだ。

 才能がなかったわけじゃないが、『性に合わない』といった方が正しい。

 防御の基本である魔力障壁も、使い慣れていないせいかこのザマだ。

 ただ、これなら水面まで持つ。

 足場さえあれば、レオナの速度で離脱も可能だ。

『主! 今度は上だ!』

「なっ」

 俺たちが影に覆われる。

 真上に迫っていたのは、巨大な触手。

 もうすでに回避は間に合わない。

「障壁――全開!」

 とっさに巨大な触手に腕を向け、障壁の強度を上げる。

「ぐっ!」

「うわぁ!」

 障壁と触手が衝突した瞬間、強い衝撃とともに海面へと弾き飛ばされた。

 今までまともに受けなくてよかった。

 こんなものを受け続ければ、いくら俺やイスベルでも圧倒されていただろう。

「参ったね、こりゃ。こんなやつの相手は、さすがのアタシでも初めてだよ」

「まったくだ……」

 海面に叩きつけられた俺たちは、分離しつつ体勢を整える。

 魔力障壁のおかげでダメージ自体は極めて少ないが、戦況は悪い。

 あの夥しい数の触手が厄介過ぎる。

「シルバーに協力してもらうことは出来ないのかい?」

「駄目だ。こいつ相手に船を守れるのはシルバーだけだし、それを分かっているからあいつも加勢に来ない」

「っ……確かに。あたしの部下もいることだし、あっちを任せるしかないね」

 船はだいぶ遠くまで避難している。

 しかし、今は俺たちに興味を向けているタコが、いつ船へ攻撃を仕掛けに行くかも分からない。

 ここは俺とレオナでなんとかするしかない。

「――そういえば、アル」

「なんだ?」

「アタシら、水の上を歩けるようになってから、どれだけ経ったっけ?」

「……そういえば」

 俺は自分の体に纏っている魔術の残量を確認する。

 その確認は、俺へまた一つ焦りの原因をもたらすものだった。

「……切れかけだ。あと数分も持たないかもしれない」

「やっぱりね……本格的にまずいけど、どうする?」

 ――考えがないわけではない。

 ただ、成功率は極めて低く、読みが外れていれば一瞬にして最悪な状況がさらに絶望へと追い込まれることになる。

「いや、失敗を考えてる場合じゃないな」

「え?」

「ひとつ考えがある。初めから無理なら無理って言ってくれ。でも可能ならば――」

「言ってみ。まずアタシに話そうとしてくれるってことは、アタシを信頼してくれてる部分もあるんだろう?」

「……ああ。まず、レオナに頼みたいことがあるんだ」

 俺は考えついた最善の作戦をレオナに伝える。

 それを聞いたレオナは、返事の前に口角を釣り上げた。

「――アル、あんたも中々にイかれてるね。でも、その作戦は面白いよ」

「出来るか?」

「やってやるさ。あんたの頼みなら、アタシは応えるだけさね」

「分かった。じゃあ……頼む」

「あいよ!」

 俺たちはしっかりと二本足で立ち、こちらの様子を窺ってきていたタコを睨みつける。

「さあ、ぶちかますぞ」


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