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怪しげな隊長

「悪いねぇ、遅れちまったよ」

「構わんが、クランを率いる長ともあろう女が船酔い程度に負かされていてよいのか?」

「船酔いはAランククエスト以上の強敵だったってことにしておいておくれよ……」

 シルバーとレオナが船内に揃い、丸いテーブルを囲む。

 ここはマスター同士の会議の場ではあるが、何故か俺の同席も許されていた。

「でも、ここで何を話すんだい? まだ敵影も見えていないんだし、会議しようがないと思うんだけども」

「ここでは話しておきたいのは、どう捜索していくかの役割分担だ」

「役割分担ねぇ」

「私たちの二つのクランは、明らかに毛色が違う。機動力が高く、勢いに乗れば手がつけられないのが『グリードタイガー』。正面から構え、防御力には定評のある我々、『銀翼の騎士団』。近くで戦えば、その違いのあまり足を引っ張り合いかねない」

 シルバーの言っていることは理にかなっている。

 俺ですら、この二つのクランのメンバーたちは相性が悪い(・・・・・)ように見えた。

 一緒に戦うことは不可能に近い。そもそも、性格自体が合わないだろう。

「ふーん、そこで役割分担ね」

「そういうことだ。こちらには水の上を歩けるようにする魔術師が数名いる。彼らの力で、お前たちは海上を自由に探してほしい。我々はこのまま残り、船を守りつつ周囲を探索する」

「なるほどねぇ。でもそれ、アタシらのリスクはかなり高くないかい? バラけるわけだし」

「そこで、お前たち側にアルをつけたい」

 突然名を呼ばれ、体が跳ねた。

「俺?」

「言い訳と取らないでもらいたいが、我々はまず鎧の重さを含めて海上戦に向いてない。質量に合わせ、海上を歩けるようにする魔術もコストが上がっていくからだ。身軽なグリードタイガーの連中の方が持続させるのはたやすい」

 確かに、銀翼の騎士団は名前に違わず、全員が全員騎士の装いをしている。

 防御の面に関して優れているが、それは反対に重量があることと同義だ。

「帰りの足である船を失うのも恐ろしいだろう。万が一の時、我々が完璧に船を守る。が、故にそちらに戦力を割けない。そこで、アルの出番だ」

「……それは心強いねぇ。そういうことなら安心だよ」

「グリードタイガーには納得してもらえたようだ。当の本人である、アルはどうだ?」

 話を聞いている中で、おかしな点は感じない。

 俺自身がこの案よりも優れた案を出せない以上、従うのが吉だろう。

「それでいいよ。グリードタイガーの連中について動けばいいんだろ?」

「うむ。では、これで決まりだな」


「水を弾け、アンチ・ウォーター」

 銀翼の騎士団の陣営では珍しい、ローブを纏った魔術師風の連中が、俺の体へと魔術を施す。

 淡く光る自分の体が、他人の魔力によって包まれているのを感じた。

「これで水の上を歩けるはずです。念の為、そこの桶の水に手をついてみてください」

「分かった」

 近くに用意されていた桶に、そっと手を入れてみる。

 すると、まるで地面に手をついているかのような抵抗感を感じた。

 押してみても、水面下に手が沈むことはない。

 本当に不思議な感覚だ。

「珍しい魔術だな」

「元々は水での攻撃を防御するための魔術でしたからね。それの範囲を極限まで絞って、上手いこと表面でとどめているだけなので」

「かなり難しそうだけど……」

「習得にはかなりかかりましたね。もう一つ言えば、持続時間もそこまで長くありません。持って二時間なので、時間が迫れば船に戻ってください。そうしたらかけ直しますので」

「分かった、ありがとう」

 俺は魔術師たちの下を後にし、甲板で待つレオナたちの所へと急いだ。

 もう全員が揃っているようで、俺を待っていてくれたようである。

「悪い、待たせた」

「いいさいいさ。そんじゃ、行くか野郎ども!」

「「「おおーー!」」」

 体をほぐしたり、武装を確認したりなど思い思いの過ごし方をしていたグリードタイガーの面々は、それぞれが船の端まで移動していく。

「グリードタイガーの諸君! 基本的には船の移動に合わせ、範囲を絞って探索してくれ! 万が一にも魔術の効果が切れた時に、回収することが出来ないからな!」

「だってよ、野郎ども! どうせ泳げない連中ばっかりなんだから気をつけるよ!」

「「「あいガッテン!」」」

 威勢よく返事したグリードタイガーの面々が、海面へと飛び降りていく。

 しかし、水の跳ねる音はしない。

 当然だ、全員水の上に着地しているのだから。

「アタシらも行くよ! アル!」

「ああ」

 俺もレオナとともに、海面へと飛び降りる。

 かなりの高さがあるが、なんてことはない。

 膝を少し曲げて衝撃を殺し、軽やかに着地することに成功する。

 同じく着地したレオナは辺りを見渡し、腕を振り上げて声を張った。

「野郎ども! 張り切って探すよ!」

 グリードタイガーの連中の雄叫びとともに、謎の影の捜索が始まるのだった。


「ギダラ様! ご報告があります!」

「何事だ!」

 魔王城の内部を慌ただしく駆け回っていた兵士が、ギダラの前で膝をつく。

 息を整えながら、その兵士は言葉を続けた。

「魔王親衛隊一番隊隊長、ファントム様と、副隊長であるイレーラ様の船を海上で確認致しました。三十分もすれば到着するかと思われます!」 

「何? あまりにも早すぎるな……連絡用の魔石は繋げられるか!」

「ご用意してあります。いつでも繋げられます」

「ご苦労、下がれ」

「はっ!」

 ギダラの指示とともに、兵士は下がる。

 兵士が去ると同時に、ギダラは別の部屋へと移動した。

 そこには大きな輝く魔石が鎮座しているだけであり、人影はない。

「対話要求、ファントム」

 この魔石は、ファントムなどの親衛隊隊長の持つ魔石を介し、遠距離で会話をするために用いられる。

 一層強く魔石が光り輝くと、どこからともなく声が響きだした。

『あれ、ギダラ様ァ? ご機嫌麗しゅう?』

「ファントム、なぜこうも早く帰還する? 捜索期間はまだあったはずだが」

『それは――おっと、直接お話なされますか?』

 向こうで少し動く気配がして、この魔石の部屋にファントムとは違う声が響いた。

『ギダラ、私だ。イスベルだ』

「ま、魔王様! 真に魔王様か!?」

『うむ、間違などない。今からそちらへ戻る。迎え入れる準備を頼むぞ』

「おお……! ギダラは嬉しく思いますぞ! 魔王様! 今すぐ迎えの準備を整えまする!」

 そうしてギダラが魔石から手を話すと、声は消える。

 心の底から喜ばしいという表情でギダラが退室しようとすると、イスベルともファントムとも違う声が、彼を止めた。

「――ギダラ様、魔王様が帰還なされるのですか?」

「ッ!? サドール……! 一体いつから――」

「そんなことはどうでもいいじゃないですか。どうせ僕にも連絡は来たのでしょう? 僕は二番隊の隊長なんですから。早いか遅いかの違いですよ」

「――むう」

 いつの間にか部屋にいたサドールと呼ばれた男は、ファントムとも違う馬鹿にするような笑みを浮かべた後、部屋の扉を開けて外へと出た。

「さて、私もお出迎えの準備を整えなければ……では、失礼しますよ」

「ま、待て! サドール!」

 そうギダラが止めに入るが、サドールは無視し、廊下を進んでいってしまう。

 残されたギダラは虚空に伸ばした手を下げ、口惜しそうに床を踏みしめた。

「やつめ……本当に何を企んでいる……」

 魔王イスベルが帰還する。

 それは喜ばしいことであり、同時に――波乱を呼ぶ要因でもあった。

 

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