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相対する三人

「邪魔だよ豚ども!」


 レオナの拳がオークの心臓を穿ち、蹴りが頭部を吹き飛ばす。

 彼女の武器は速度だけでなく、身体自体も強靭なようだ。

 縦横無尽に森の中を駆けまわり、確実にオークの息の根を止めていく。

 

「アイス――っと、人前で氷魔術はダメだった」


 イスベルは氷魔術が使えないせいで、安物の剣一本で戦い出した。

 魔術が使えないとはいえ、剣を振るえば一撃必殺。

 この辺りにいるのは通常のオークばかりで、イスベルの一撃を回避できるだけの実力はない。

 剣を振るう度に、山のように死体が積み上がっていく。


『主! 負けてはいられないぞ!』


「そうだな」


 俺はエクスダークをオークに対して振るう。

 振りごたえのある重量感だ。

 これなら確かな威力が期待できる。

 そう思っていたのだが、確かに目の前のオークに命中したはずのエクスダークから、まるで手応えを感じない。

 空振りか? ともう一度振ろうとした瞬間。

 オークの胸部に線が刻まれ、そこを境目として真後ろにずり落ちていく。

 なるほど、切れ味が良すぎるというのも考えものだ。


『お気に召したか? 主』


「……最高だ」


 これなら道を切り開ける。

 目の前にいるオークを切り伏せながら、俺は進んでいく。

 レッドと同等の力を持つ、何者かの元へと。


「うむ? いつの間にか二人とはぐれてしまったな」


 まるで狂戦士のようにオークを惨殺していたイスベルは、いつの間にか誰もいない場所へと来てしまっていた。

 どうやらオークの群れを突っ切ってしまったらしい。

 森の中に見えるオークの数は、目に見えて数を減らしている。

 全滅するのも時間の問題だろう。


「まあ良いか。全滅させれば合流できるだろう」


 イスベルは踵を返し、再びオークの群れへと戻ろうとする。

 そのとき、真後ろから巨大な魔力を感じ取り、彼女は振り返った。


「貴様か、レッドとブルーをやったのは」


 イスベルの後ろには、黄色いローブをまとった目つきの鋭い男が立っていた。

 敵意を隠すこともなく、ただただ彼女を睨みつけている。


「ブルー? ああ、あの青いローブの女のことか?」


「心当たりがあるということは、やはり貴様がブルーを殺したのだな」


「っ!」


 突如、男の手が閃光を放った。

 とっさにイスベルが横に跳ぶと、今までいた場所の土が弾ける。

 煙をあげるその足元を見て、イスベルは口を開いた。


「雷属性の魔術か……厄介なものを使うな」


「この速度の魔術を初見で見ぬくとはな……やはり只者ではないか」


「確かに只者ではないつもりだぞ!」


 イスベルは剣を持ち直し、真っ直ぐ男を睨みつける。


「……虹の協会、イエロー・トールだ」


「イ――ただのベルだ」


「そらよ!」


 レオナがオークの首をへし折った。

 これを最後に、彼女の周りのオークは全滅したことになる。

 

「本当に歯ごたえがない連中だねぇ。やっぱりジェネラルオークくらいのやつとやり合いたいけど……いないか」


 拳を鳴らすレオナは、深い溜息をつく。

 A級冒険者であるレオナは、駆け出しのときから手に汗握る戦いが好きだった。

 お互いの命を削り合うような、熱い戦いを愛していた。

 ランクが上がれば上がるほど、クエストの難易度が上がっていく。

 それに連れて敵も強くなり、レオナの気持ちも高ぶった。

 しかし、今の彼女は萎えきっている。

 こんな小物を倒し続けたところで、レオナの飢えは満たされない。

 

「そんなに強敵と戦いたいなら、あたしが相手してあげよっか!」


「ん?」


 レオナの肌がざわついた。

 反射的に首を倒すと、彼女の頬に鋭い痛みが走る。

 どうやら鋭利なもので切りつけられたようだ。

 頬から顎にかけて血が垂れ、地面に落ちる。


「やあやあ! 大きい口を叩くだけはあるね」


「あんた、何者だい?」


 レオナは見えない敵に問いかけた。

 声は森の様々なところから聞こえてきて、位置が分かりづらい。

 身をかがめたレオナは、どこからの攻撃にも対応できるよう神経を研ぎ澄ませる。


「まあまあ、そう警戒しなくてもいいよ。あたしはもうあなたの目の前にいるんだからさ」


 風が吹き荒れた。

 レオナが髪を押さえ耐えていると、いつの間にか目の前に緑色のローブを羽織った女が立っていることに気づく。

 女は心底楽しそうに、指で空中に円を書きながら近づいてくる。


「やあやあ、こんにちは! あたしは虹の協会のグリーン・アウラ。あなたは冒険者だね?」


「グリードタイガーのクランマスター、レオナだよ。あんたは中々歯ごたえがありそうだねぇ」


「うんうん、歯ごたえはあると思うよ。でも……まずは噛めるかどうかじゃない?」


 突風が吹き荒れる。

 それにかき消されないほどに響き渡る獣の雄叫びが、森の中に響き渡った。


「二人ともどこへ……!」


「ゴァァァ!」


「邪魔だ!」


 先ほどから絶えず遅い来るオークを、一撃で斬り伏せる。

 斬っても斬っても数が減らない気がしてきた。

 二人のところにも、これだけオークが群がっているのだろうか?

 

『主、後ろから一際でかい図体の魔物が来ているぞ』


「なに?」


 別のオークを斬り捨てながら振り返ると、群れの向こう側に明らかに見た目の違うやつを視認できた。

 黒い肌を持った一際巨大なオーク。

 

「ジェネラルオークだ」


『オークの親玉か?』


「ああ。だけど、あのジェネラルオークを操っている存在が、さらにどこかにいる」


「オオォォォォォォォ!」


 ジェネラルオークの咆哮が、鼓膜を揺らした。

 他のオークたちもその声を聞き、さらに凶暴性を増したかのように興奮しだす。

 

「いつの間にか二つのでかい魔力も、レオナとイスベルの魔力も感じなくなってるな……エクスダーク、お前は?」


『我も感じぬ。おそらく魔力探知を阻害する魔術が使用されているな』


 面倒くさい術を使う輩もいるものだ。

 できれば虹の協会の連中は俺が相手をしたかったところだが、こうなってしまえば仕方がない。

 

「まずはこいつらから片付けるぞ」


『了承した!』

 

 魔力を魔剣エクスダークに流し込む。

 赤黒い光を纏う剣を構え、俺はオークの群れに突っ込んだ。

 

 それにしても、今の俺禍々しすぎないだろうか?


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