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宝箱を開ける魔王

「……確かに息の根を止めたんだけどな」


「俺の名前は、レッド=フェニックス。不死鳥(・・・)レッド様だ。覚えとけ」


 俺のつけた傷が、徐々に塞がっていく。

 ほんの数秒で、傷一つない身体に戻ってしまった。

 そこに傷があったという証拠は、もう衣服だけ。

 

「実験は失敗――いや、ブルーのやつは死んだみたいだし、阻止されたが正解か。仕方ねぇ、今日のところは引いてやる」


 レッドの背中から、炎の翼が飛び出した。

 それは二回、三回と羽ばたくと、レッドの身体がふわりと浮かび上がる。


「次に会った時は、俺が勝つ。てめぇを地べたに這いつくばらせてやるよ、一般人」


「……楽しみにしておく」


 ニヒルに笑ったレッドが、先ほどのシルバーと同じように天井の穴めがけて飛翔する。


「逃がすか!」


 イスベルが魔術を発動し、巨大な氷の槍を放つ。

 それはほとんど外れたものの、一本がレッドの身体を貫いた。

 しかし槍をすぐさま抜け、レッドはそのまま飛翔を続ける。

 俺が瞬きした一瞬で、腹に空いていてたはずの傷は塞がっていた。


「てめぇの顔も忘れねぇからな」

 

 レッドはイスベルに一瞥くれると、そのまま天井に空いた穴から姿を消した。

 辺りには静寂と、薄暗さだけが残っている。


「……やつらは何者だ?」


「分からない。けど、何かを企んでいることは確かだ」


 実験とレッドは言っていた。

 今回は失敗らしいが、成功していたらどうなっていたのか――。

 

「ふむ。まあアデルが知らないのであれば考えても仕方あるまい」


 イスベルは真剣な顔から一転、パッと明るい顔に変わり、俺の方を振り返った。

 

「では改めてダンジョン探索と行くぞ!」


「そんなこったろうと思った」


「せっかく邪魔者がいなくなったのだ! 今からでも楽しまねば損であろう?」


「損得の話か? まあ……確かにここまで来たしな」


 七十階層までこんなに簡単に来れる機会もそうないだろう。

 シルバーが指揮を執り今空いている穴は塞がれてしまうし、今後は「ダンジョンを壊してはいけない」という決まりができるはずだ。

 ここまで来る手間を考えれば、ラストチャンスといっても過言ではない。


「お宝を探すぞ、アデル!」


「どこにそんな元気があるんだよ……」


 イスベルの方でも戦闘は起きたはずだ。

 レッドと一緒にいたブルーという女、やつの気配も弱くはなかった。

 俺も人のことは言えないが、それでも疲れを一切感じさせないのは恐ろしいものがある。

 顔は大変間抜け面をしているが、これでも魔王。

 つくづく味方でよかった。


「まずは今まで通り、下の階への道を探すのだな」


「ああ。お前はあの女を追ってったけど、そっちに階段らしきものはあったか?」


「いや、なかった。行き止まりだったな」


「そうか。それならこっちだな」


 俺は先程イスベルが追っていった方とは反対側を指す。

 いくら勇者と魔王でも、ダンジョンの中では普通の冒険者と変わらない。

 下の階層へ行きたければ、己の足で道を見つけるしかないのだ。


「では、行くとしようか!」


「油断するなよ」


「ふん、誰に物をいってるのだ。早く行くぞ!」


 勇み足で進んでいくイスベルの背中を見ながら、俺は不安にかられるのであった。


「む? 見ろ! 宝箱だ!」


 七十一階層への道を探している途中で、イスベルが声を上げた。

 彼女が駆け寄った先を見てみれば、そこには確かに宝箱がある。

 ここまでの道にあった宝箱は、すべて初めに来た連中によって空になっていた。

 七十階層は攻略が進んでいるとはいえ、まだすべてを探索しきれているわけではないようだな。


「開けても良いか?」


「ちょっと待て……うん、大丈夫だ。開けてみてくれ」


「よし!」


 たまに、宝箱には罠が仕掛けられていることがある。

 ダンジョンを作った何者かが設置したと言われている宝箱だが、本当に誰かが作ったものであれば相当趣味が悪い。

 ダンジョンは自然発生したものという説もあるが、だとしたらこのように宝箱があるのも不思議なものだ。

 ちなみに俺は、ダンジョンは神が遊び心で作ったもの説を押している。

 他人の運命を弄ぶこの世界の神が好きそうな施設だからな。

 あのクソ女神(・・・・)が作ったのなら納得だ。


「どうした? 考え事か?」


「ああ、いや。何でもない。それで、何が入ってた?」


「大したものは入ってなかった。せいぜいこの魔石くらいか?」


 イスベルの手にはそれなりの大きさの魔石が乗っていた。

 一抱えまでは行かないものの、売ればかなり高値で売れるであろう魔石だ。

 

「他のものは籠手や兜だ。上質なものだが、私たちには必要のないものだな」


「あー……そうだな。まあ上質なものだし、持って帰れば売れるぞ」


「む、そうか。こんなものでも欲しがるものはいるのだったな」


 悪気は一切ないのだろうが、知らない冒険者が聞けば反感を買いそうなセリフだ。

 確かにつけていてもつけていなくても変わらないし、むしろ動きにくくなる可能性すらある。

 しかし俺たちに需要がないだけで、七十階層の宝箱から出た装備と言えば喉から手が出るほど欲しがる者がいるはずだ。

 

 問題は、七十階層の装備を俺たちが売ればとんでもなく目立ってしまうという点だけ。

 いや、もう今となってはそれも問題点ではなくなった。

 

「帰ったらシルバーにでも渡そう。やつが買い取ってくれればそれでいいし、何ならシルバー経由で売買すればいい」


「む! あやつを頼るのか!?」


「悪いやつではないからな」


「むぅ……」


 イスベルは苦手意識を持っているようだが、俺はすでにシルバーに対する印象は限りなく良いものに変わっている。

 シルバーの行動には、すべて悪意がない。

 単純に迷惑なやつではあるが、実力は本物だし上に立つ者としての風格がある。

 素直に関係を保ちたいと思える男だ。


「A級クランのリーダーなんだし、この街にも詳しいだろうからな。最悪でも口の固い防具屋とか鍛冶屋を紹介してもらおう」


「……私ついていかなくてもいいか?」


「そんなに苦手なのか……」


 一度ついた印象というのは中々拭えないということか。

 あからさまに視線を逸らしているイスベルを見ながら、つくづくそう思う。


「別についてこなくてもいいけど、この話はまずこのダンジョンをある程度攻略してからだな」


「完全攻略してみせるくらいの気概を見せぬか!」


「何日かかると思ってんだよ……」


 魔石や防具を魔力袋に入れて、再び歩き出す。

 それから運が良かったのか、悪かったのか。

 俺たちは新たな宝箱を見つけることはなかったものの、ついに七十一階層へ続く階段の前にたどり着いた。


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