第一章03 美少女にモテる能力!? 弱虫・勇気・恩返し その2
そこに待ち受けていたのはシグレと、そのパートナーのぷにもんだ。
そのぷにもんはベレー帽をした青い髪の小さい女の子だ。
険しい表情をして、ギロリとこちらを睨む。
「逃げずにやってきたわね! それでこそトレーナーよ!」
「もちろんさ。ところでそのぷにもんは……」
「私の相棒の【マリンコ】よ。私たちの力、とくと見なさい!」
博士がやれやれと頭を掻きながらやってくる。
「一年もいればマリンコなら進化するんじゃが……」
「じーちゃんうるさい黙っててよ!」
「おお、おお、すまん。それでサタケ、ぷにもんバトルは知っとるか?」
「ぷにもんリーグで優勝が俺の夢! まあ、バトルはやったことはないけど……」
リーグはぷにもんバトルの最高峰を決める大会だ。
もちろんバトルを知っているけれど、10歳にならないとバトルはできない。
シグレだって一週間前から10歳なのだ。勝ち目はある。
「そりゃそうじゃ。今日からぷにもんトレーナーじゃもんな」
コキド博士はどこからともなく黒板を取り出して、そこに3つ書き込んだ。
「ぷにもんバトルとはこういうことじゃ!」
「ええと……?
1.ぷにもんトレーナーがぷにもんや他のトレーナーと力を競うのがバトルじゃ!
2.バトルはぷにもんの【技】を使って、ぷにもん同士が戦うのじゃ!
3.ぷにもんが戦闘不能になったらバトル終了じゃ!
……俺が知ってる通りだね!」
「うむ!」
コキド博士はシグレとサタケの交互に見て、審判台につく。
「両者、一対一のぷにもんバトルじゃ! 戦闘不能になったら終わりじゃぞ」
「はい!」「分かってるって!」
「それでは、バトル――開始!」
合図とともにシグレは、
「お願い! マリンコ」
マリンコを前に出した。
青くて長い髪は美しく風に舞い、見ていると涼しく感じてしまう。
対するサタケは、
「それじゃあピカリュウ、頼んだぞ!」
ピカリュウを繰り出した。
黄色に揃えた外見のピカリュウはマリンコと対峙する。
それだけで羽がプルプルと震えだしてしまった。
「ピィカァ……」
「どうした、ピカリュウ?」
「来ないのなら私から行……、マリンコ?」
「マァァリッ!」
シグレの声を無視してマリンコが構える。
マリンコのぷにっとした手には水が集まって、無骨なライフルの形になった。
「ピピカ!?」
ピカリュウが怯えた声をもらして、その場にストンと腰を落としてしまった。
いや、腰が抜けたと言った方が正しいだろう。
そんな様子でも構わずマリンコが銃口を向けた。
ピカリュウは目をぎゅっと閉じる。
「だ、だめよマリンコ! ピカリュウは――」
「マリィ!」
マリンコがトリガーを絞る。
じゅぽ、という水音がして、勢い良く水の球が発射された!
「危ない、ピカリュウッ!」
球が弾けて飛沫を上げる。
水の球は飛び込んできたサタケの背中に命中した。
ドロドロの地面にサタケが膝を落とす。
「大丈夫か? ピカリュウ」
「ピカ……」
ピカリュウはおそるおそる目を開く。
その瞳にはサタケの痛みのせいで未完成の笑顔が映っていた。
サタケの背後ではシグレがマリンコの名を何度も呼びかけている。
「言うことを聞いて、マリンコ!」
「マリィ、マリィ!」
マリンコは振り向かずに何か文句ありげな口調で鳴いた。
そうして再び、銃口をピカリュウに向ける。
「ピカリュウ……、戦いたくなかったら戦わなくていいんだぜ」
サタケは力なく笑った。
同時にマリンコの射線に重なって、ピカリュウを守ろうとする。
「マリマリィ!」
トリガーを絞る。じゅぽ、という水の音。
反動で銃口が上を向く。
マリンコの視線はサタケだけを追っていた。
今の今までは。
今は視線が定まらない。
なぜならサタケの身体は横に突き飛ばされていたからだ。
その上、
「マリ!?」
横に突き飛ばされたサタケの後ろから、ピカリュウが高く跳び上がる。
そのまま両手を広げてマリンコめがけてダイブした。
「あれは雷タイプの【びりびりぎゅー】じゃな!」
博士が技名を見抜いたと同時に、ピカリュウがマリンコを抱きしめた。
まばゆい閃光が走る!
「マリリィ!?」
ピカリュウがマリンコから飛び退き、水で濡れた地面へ綺麗に着地した。
水たまりの縁を電流がピリリと走る。
マリンコは苦しそうにうめいて、膝を地面に付いた。
シグレが心配そうに、
「マリンコ!」
パートナーの名前を呼んだ。
「大丈夫、痺れ状態じゃ。とにかくこの勝負、ここで終了!」
博士の合図でシグレはマリンコに駆け寄る。
少しだけサタケの様子も気になるらしく、ちらちらとサタケの方を見ていた。
サタケは横になった状態で、シグレとピカリュウの視線を感じていた。
「ピカリュ……」
心配そうに鳴くピカリュウはサタケに寄り添う。
小さな舌でペロ、と頬を舐めた。
「……心配させて、ごめん。ピカリュウ」
上体だけ起きて傍らのピカリュウを見た。
ピカリュウの頬にはきらりと光るものがある。
「そっか。ありがとう、ピカリュウ」
「ピッカピ!」
彼女の顔に次第に笑みが戻ってくる。
サタケは嬉しくなってふっと笑い、両手を広げてピカリュウを待った。
待ちきれなくなったピカリュウがサタケに元気よくダイブ。
「あばばばばばばばば!!」
博士はやれやれと頭を掻いて、二人のトレーナーたちを遠巻きに眺めている。
ふと笑みをこぼし、うんうん、と一人で頷いていた。