第一章34 再戦! ライバル・シグレと相棒マリンコ
翌朝。
サタケはカントウシティのぷにもんセンターの宿舎で目を覚ました。
隣でピカリュウがすやすやと寝息を立てている。
いたずらしたい気持ちが湧き上がって、鼻の頭を指の先でくすぐってみた。
触れるとピリリと電気が走る
「うりゅぅ……」
両腕をばってんにして顔を隠す。
その愛らしい仕草に思わず笑みが漏れた。
昨日の夜、コキド博士にピカリュウたちのことを話した。
ピカリュウの特性は【たいでん】という触れた相手を麻痺させるものらしい。
また、【パイルドライブ】は竜タイプの技ということも教えてもらった。
新しくゲットしたタネネが赤いのは【色違い】という性質のようだ。
通常色のぷにもんと比べてやや成長した姿になるのに伴い、能力値が高くなる。
【色違い】はかなり珍しいらしい。
朝の日差しが窓から差し込む。
サタケは起き上がった。
ピカリュウは眠気まなこをこすりながら、サタケを見上げる。
「おはようピカリュウ。今日はタンザクシティ目指して旅立ちだ」
「ピカ!」
朝の支度を終えて宿舎をあとにした。
街角のカフェで朝食を摂りながら、テレビのニュース番組を眺める。
「え? 俺が映ってる……」
昨日の祭でのぷにもんバトルが映っていた。
祭でハイブ戦をやるなんて滅多にないらしく、それで放送されたのだろう。
テレビが天気予報に変わる。
タンザクシティに行くにはスパークロードを通ってまずククリビナタウンだ。
今日も晴れらしい。
サタケはスパークロードへ向かう途中、カントウハイブの前を通った。
ハイブのステージを整備する姿が見える。
アルケミコが静かに土をならす横でテコップがドタバタ走り回っていた。
耳の怪我が大丈夫だったみたいでほっとする。
アルケミコがテコップを冷ややかに眺めていたが、急に抱きつかれていた。
嫌がるかと思えば満更でもない様子だ。
たとえば運動部の女子と文化部の女子が仲良くしたらこんな感じなのだろうか。
彼女たちを見送り、サタケは今度こそスパークロードに到着する。
道案内の看板を確かめた。どうやら花火で有名な道らしい。
道の途中に人がいるのを見つける。
「ん? あれは……」
ゴブハットにセーラー襟のブラウス。サスペンダー付きショーパン。
シグレだ。
シグレと会うのは前にカントウシティで出会って以来だ。
たしか先にリングをゲットしていたはず。
「トレーナー同士が目を合わせたらバトルの合図!」
唐突にバトルを挑んできた。
ディスクをバックハンドで投げると、中からマリンコが出てくる。
売られた勝負は買わなきゃ損だ。
サタケは随行していた3匹を眺めて、
「頼んだぞ、ピカリュウ!」
ピカリュウを繰り出した。
「ピカピ!」
マリンコと再戦だ。コキド博士の研究所で怯えた姿を思い出す。
彼女の背中から前の時のように怯えた様子は消え、むしろ勇ましささえ感じた。
「ピカリュウ! 【びりびりぎゅー】だ!」
「いい? マリンコ、【アクアライフル】よ!」
同時に技を指示した。
先に動いたのはピカリュウだ。
ピカリュウがバチバチと帯電し、電光石火のごとく駆け出す。
マリンコが水で作り出した銃を構えて標準を合わせた。
放たれた弾丸をピカリュウは真正面から受ける。水の弾丸は燦然と爆ぜた。
ミストの中、ピカリュウは足を止めている。
腕で顔を隠して耐えていた。
「大丈夫か!? ピカリュウ!」
「ピィピ!」
彼女は元気な返事をした。
マリンコはかなり鍛えられている。
迫ってくる帯電したピカリュウに怖気づくことなく、冷静に技を遂行した。
おかげでピカリュウの攻撃はマリンコに届かない。
「もう一度いくぞ! ピカリュウ、【びりびりぎゅー】!」
「2度も同じ攻撃は通じないわ! 【アクアライフル】!」
ピカリュウは一直線に駆け出す。
マリンコが銃を構えた時、サタケは叫ぶ。
「しゃがんで、濡れた地面を滑るんだ!」
「ピカ!」
ピカリュウは身を低くして、先程のアクアライフルで濡れた地面を滑る。
走るより速度は落ちた。しかし、マリンコが標準を合わせ直すその刹那を狙う。
素手の攻撃が近づいたところまで肉薄した。
マリンコはとっさにライフルの引き金を引く。
ピカリュウの肩を水弾がかすめ、道路の表面を軽くえぐり取った。
バチッ! と電撃の弾ける音が鳴る。
マリンコに効果は抜群のようだ。
ピカリュウがマリンコから離れると、マリンコはその場に膝をついた。
「……どうやら、私の負けのようね」
サタケはぷにもんトレーナーのシグレに勝利した!
ピカリュウがサタケの元へ戻ってくる。
腕と肩に受けたダメージを【ぷにもん薬】で治癒した。
マリンコをディスクに仕舞ったシグレがサタケたちのそばに寄る。
「まさかサタケに負けるとは思わなかった! アンタは今日から私のライバル!」
シグレが宣言する。
指にはキラリと指輪が光っていた。
「ねぇシグレ。それってカントウリング?」
「そうよ。トレーナーは強さの証としてリングを嵌めるからね」
サタケはもらったリングを仕舞ったままにしていた。
……強さの証か。
サタケはリュックから【カントウリング】を取り出す。
「ピカリュウ、おいで」
「ピ?」
彼女のぷにぷにとした手を優しく掴んで、リングをサイズの合う指に嵌めた。
「まぁっ!?」
シグレが黄色い声を漏らす。
サタケはシグレがそこまで驚いたのか分からなかった。
なぜか頬まで染めているし。
「俺たちの強さは絆だと思うから、俺じゃなくてピカリュウに……、あ」
ふと、ピカリュウの指にきらめくリングを見て合点がいく。
これじゃまるで……。
「ピッカァ!」
ピカリュウが嬉しそうにサタケに満面の笑顔を見せた。
もう居ても立ってもいられないのだろう。
ピカリュウがサタケに飛びつく。
「あばばばばばばばば!!」
思い切り感電した。
たぶんピカリュウは指輪を嵌めた指の意味を分かっていない。
サタケからの贈り物を喜んだだけのようだ。
ブスブスと煙を上げながら、彼女の笑顔が見れたならそれでいいかと思った。
傍らでシグレが笑う。
ソルベルが慌ててサタケに駆け寄った。
サタケの顔を見て、タネネが「ネェネ♪」と頬に手を当てて微笑む。
ゴロリと横になって、青い夏の空を眺めた。白い雲が浮かんでいる。
何の因果か知らないけど、転生することができて本当に良かったと思う。
サタケの旅はまだまだ終わらない。
第一章 完
あとがき
第一章はここまでです。最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
物語も一区切りということで、ご感想などいただけると助かります。また、感想はコミュニケーションの一ツールだと考えています。気軽に感想をお送りいただければ幸いです。評価、レビューも励みになります。
はじめましての方はじめまして、そうでない方お久しぶりです。絵都瀬とらです。
本作『punimon』はどうでしたか?
私としてはポケモン的な世界観を書きたいと思って本作を執筆、発表しました。
この世界観で好きなのは、死の存在しないバトルをする点です。スポーツマンシップのような健全さがあります。ポケモンを捕まえ育てて旅をするという部分も好きです。みんなが憧れるリーグという大舞台があって、ジムという切磋琢磨し合う関門が用意されている点もおもしろいと思います。人間が世界の支配者であるようで、実はそうとは限らないかも、と考えられる材料だけを残していく演出も良いですね。
死が存在せず、健全さがある点が最も好きな部分なので、そこを活かして作りたいと思いました。ポケモンはだいたい1年おきに新作が出ますから、私が作る必要はないのかもしれません。最新作のサンムーンも楽しかったし、ポケモンはいつも最新作がいちばん好きな作品です。それでも作りたくなるのが作家の性という奴でして……。
願わくばポケモンのシナリオやアニポケの脚本を担当してみたいのですけどね。残念ながら書類選考で落ちました。今、私は大学生ですが、学生時代に3作品ほどR-18ゲームを作っていて、プランニングの能力や完成させる能力、複数人の制作を指揮するリーダーシップの面を評価されると思っていたんですが、よくよく考えてみれば健全ゲームの会社に送るエントリーシートじゃなかったです。
舞台についてお気づきになった方もいると思いますが、東北地方をベースに考えた異世界になっております。地名はお祭りの名前から取りました。他にもご当地の郷土料理やグルメを登場させています。作中そのまま出てきたものだと「玉こんにゃく」ですかね。私の出身が宮城県なので東北地方をベースに考えました。
また、『punimon』はシリーズ連載を想定して書いた初の作品になります。前作の『プラシアの翼』(6月に完結)、前前作の『オタぼっち、恋をする』(4月に完結)では最初から第二シリーズを作る予定がありませんでした。前前作の『オタぼっち、恋をする』は小説家になろうに掲載しています。もしよかったらお読みください。こういうお話です▼
現在まだ第二シリーズをどんなお話にするか決めていません。構想はあるのでこれからプロット作りをします。そうですね……、早ければ9月1日から第二シリーズを始めようと思います。それまでの繋ぎとして、作中に登場したアイテム、キャラクター、施設などのデータを掲載する予定です。
他には誤字脱字などの修正作業をします。推敲は1回だけしているのですが、なにぶん書き終えてスグの推敲なので精度が落ちていますね。余談ですが毎日ストック0です。これすごく大変!
あと、ピカリュウのイラストも新しいものに差し替えます。今掲載しているのは一発描きのラフなので。スパッツの上にネグリジェ着てるの、今見ても意味わかんないです。どういう状態なんでしょう。
最後に、今やってるポケモンの映画『キミにきめた!』はマジで見た方がいいですよ。オススメします。特に休日のお昼に見に行くと、劇場の子供たちが知ってるポケモンが出て来るとそのポケモンの名前を呼ぶので楽しいです。3DSを持っていくのを忘れずに。
都内某所のモスバーガーにて 2017年8月28日
etc.