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punimon - 育成チートで異世界最強ハーレムを!  作者: 如何屋サイと
第四章 決戦! カントウハイブ
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第一章30 決戦! カントウハイブのマツシ その2

「いいぞ、タネネ! 怯んだ隙に【さいみん】だ!」



 さいみんはタネネの覚えている4つの技の一つだ。

 気を張っている相手には効かないが、相手を眠らせる強力な技である。

 どういう時に効くのかと言えば、斜面を滑り落ちて動揺している時などだろう。


 タネネが胸のペンダントに力を込める。

 すかさずマツシが反応した。



「目を覚ませテコップ! 【ドリルダイブ】!」


「テ、テコプ!」



 テコップはマツシの声で我に返った。

 先のドリルダイブで空けていた穴の中に逃げられる。

 逃げ足が早いのは、こうさく状態で地タイプ技が先制を取れるのも合わせてだ。


 また岩が動く。それほどの推進力で地中を移動しているのだろう。


 さあ、次はどこから現れる?


 背中を狙うのならばサタケにも策がある。



「後ろは俺が見る!」


「タネ!」



 タネネは前方を警戒する。

 前と後ろの両方をカバーすることで、側面にも意識を向ける余裕が生まれた。

 サタケは連携の意義を見出す。


 タネネがサタケを信じ、サタケがタネネを信じる。理想の形。

 ぷにもんとトレーナーが共に戦うというのはこういうことなのだと得心した。


 タネネの足元の砂がパラパラと動く。



 心がざわついた。



「下からくるぞッ!」


「タ――」



 彼女が返事をするやいなや、テコップのドリルが地中から飛び出す。

 タネネは身を翻した。

 足がドリルの螺旋に絡め取られる。


 巻き込まれる形でタネネの肩甲骨のあたりがドリルの先端に触れた。

 ギュルギュルという擦れる音がする。

 タネネは乾いた息を漏らし、やわらかい砂の上に放り投げられた。



「大丈夫か!?」



 サタケの叫びにタネネは微笑みで応じる。だが、苦痛は隠しきれていない。

 タネネはかろうじて耐えた。耐えてくれたと言っても間違いではないだろう。

 いくら相性的に優位でも、こうも繰り返し攻撃されればジリ貧になる。


 テコップはふたたび距離を取った。袖に付いた土を払い、気を静めている。

 あてっこをや草タイプの技(・・・・・・)を警戒しているのだ。



 ……どうする。


 もっと距離が近ければ超タイプ技の【ねんどうりき】を決められるのに。

 ねんどうりきは相手が見えないと攻撃が当たらない。

 相手は地中だ。あまつさえ、こうさく状態で先制攻撃を仕掛けてくる。


 遠距離でも【あてっこ】は使える。が、効果がいまひとつな上に消費が激しい。

 ねんどうりきで弾丸を作り出すためにタネネは相手より2倍も疲れるのだ。


 【さいみん】も無理だ。あれは一回限りの猫騙し。


 残された4つ目の技は【おおごえ】だ。無タイプの技である。



 そう、サタケのタネネは肝心の草タイプの技を1つも覚えていない。


 決定打に欠ける。

 それがサタケのパーティの抱える問題点だ。


 サタケは目を伏せた。

 視線の先にはテコップの空けた穴。

 土が付いている。おそらく海のそばだから、地中は湿っているのだろう。



 何もない。

 勝つためのプランが。

 勝利のビジョンが、見えない。


 真っ暗な穿孔を見つめるほどにサタケの心は焦燥に駆られる。



 でも、視界は白んでいない。


 絶望ではないということ。


 目の前の闇。


 何かヒントがある?



 ……穴?



 マツシが閉じたチョキの手をタネネに向ける。



「来ないのならわしから行くぞ! テコップ、【ドリルダイブ】!」



 指示を受けてテコップが地中へ潜る。



 サタケは顔を上げて、テコップを凝視した。

 また同じ穴から入った。


 岩が少し動く。

 また同じ。



 サタケはタネネの名を呼ぶ。



「タネ!」


「穴の中に向かって【おおごえ】!」



 指示どおり近くの穴に向かい、縁に手を付いて奥を覗き込んだ。

 大きく息を吸い、絶叫。


 雷が落ちた時のような轟音が小さく聞こえる。

 代わりに人間の出せる声の音圧をゆうに超える爆音は地響きを起こした。

 無論、おおごえに地響きを起こせる威力はない。


 土俵を取り囲む人々は突然の地響きにしばし黙り込んだ。


 ステージに設置された大岩が割れる。

 岩の底からテコップがドリルダイブで地上に出てきた。

 彼女は頭を抱えて悶絶している。


 地中で音が反響したのだ。

 当然だが音の正体は振動で、行き場をなくした空気の震えは地面に伝わった。

 地響きの原因はそれだ。



 マツシがテコップを心配そうに見つめる。

 テコップが悶絶するのをやめて、マツシと視線を合わせた。



「テコップ気をつけろ! 次の攻撃が来る前に【たえる】!」



 しかし、彼の指摘はテコップに届いていないようだ。

 テコップは耳を押さえる。



「テコップ……! お前、耳が……!」



 騒音性の難聴。

 あまりに大きな音、つまり空気の振動で耳の中を損傷したのだ。


 静まり返っていた観衆たちにどよめきが走る。



 サタケはささやくようにタネネに指示を出した。



「【ねんどうりき】」


「タネ」



 タネネは胸の前で指を組む。

 怪しげな紫の光がペンダントに灯ると、テコップの体が同じ色の光に包まれた。

 テコップが己の両手を確かめる。異変に気づいたのだ。


 マツシをすがるように見つめるが、指示の声は聞こえていない様子。

 何度も【たえる】を指示していた。



「……テコ」



 それなのにテコップは体に赤いオーラをまとい始めた。

 紫色の光を追い出すようにじわりじわりとオーラが湧き上がる。



 直感的にサタケは悟った。

 おそらく【たえる】という技を出そうとしている。


 ……読唇? いや、心が通じているのか。



「急いでくれタネネ! 決めろ、最後の一撃!」


「タァァァァッ!」



 叫び声を上げながら、指を組んだ手を強く握る。

 輝くペンダントに呼応するようにテコップの体を包む光も輝きを強めた。



「テッ……」



 赤色のオーラが火花みたいに消える。

 タネネが力を解いた。


 テコップの体は弛緩し、ゆっくりと地面に降りてくる。

 それをタネネが両手で優しく受け止めた。

 幼い見た目の彼女に抱えられた中学生くらいの少女は静かに眠っている。


 審判が手を上げた。



「テコップ戦闘不能! タネネの勝利!」



 そうしてタネネは初勝利を収めた。

 マツシの方を向いて、寝ぼけ眼の少女をやわらかな地面に寝かせる。



「……がんばったな、テコップ。そしてありがとう、タネネ」


「ネェネ」



 タネネは軽く挨拶をしてサタケに振り向く。

 後ろではテコップをディスクに戻すマツシの姿があった。



「よくやった、タネネ!」



 サタケはハグの姿勢で構える。

 全力で褒めてやろう。


 ところが、タネネはサタケの差し出した手を両手でぎゅっと握った。



「ネェネ♪」



 がんばったわね、と言っているような気がした。

 こんな時でも、いや、どんな時でも彼女はサタケに優しくしてくれるのだ。

 サタケはタネネの底なしの愛に感銘を受けたのだった。

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