第一章22 対決! 幹部・バンカーと悪堕ちぷにもんエンデッド その1
サタケたちは温泉のそばで一夜を明かし、気持ちのよい朝を迎えた。
温泉から少し離れた原生林のそばで、ピカリュウとソルベルが対峙する。
サタケはソルベルの後ろに立ち、ピカリュウと戦おうとしていた。
「ピカリュウ! どこからでもかかってきていいぞ」
「ピカ!」
元気よく返事をする。
そう、これはソルベルと一緒にバトルする時のための特訓だ。
「2匹とも技は4つまで覚えられるはずだ。これは新技を覚える特訓でもある」
ピカリュウの覚えている技は2つ。
なきごと:(無・変化)愚痴を言って相手のやる気を削ぎ、攻撃力1段階ダウン。
びりびりぎゅー:(雷・物理)帯電した状態で抱きつく攻撃。低確率で麻痺状態にする。
ソルベルの覚えている技は3つ。
かぎあけ:(無・変化)使用後、相手の回避率に関係なく攻撃が当たる。相手に封印された技がある場合、封印を解いてしまう。
にらむ:(無・変化)相手の防御力1段階ダウン。
ハードロック:(悪・特殊)相手の腹の中に手を突っ込み、力を抜き取る特殊技。相手が直前に使った技を封印する(4ターン)。すでに封じられた技がある時、失敗する。
技には3種類ある。
1つめは相手の身体に直接触れる物理攻撃。技にもよるが大半が近接戦闘になる。
2つめは相手の身体に直接触れない特殊攻撃。ソルベルのハードロックのように近接戦闘になる特殊攻撃もある。
3つめは相手や自分の状態に干渉する変化技。今のところ自分の状態に干渉する技を持ったぷにもんはいない。
サタケはピカリュウと目配せする。
「ピカリュウはスピードを活かしてびりびりぎゅー!」
「ピ!」
ピカリュウの身体がバチバチと光る。
石で水切りをするようにピカリュウが地面を蹴り上げながら急接近。
この技の弱点は直線的にしか攻撃できないことだ。
「ソルベルはにらむ!」
「ソル!」
ソルベルが体勢を低く構える。
赤い瞳が鈍く輝く。
「ピッ!?」
ピカリュウが短い悲鳴を上げた。
地面から足を離した状態のピカリュウが頭を上にする。
重心が高くなってしまい、せっかくの速度が失われてしまった。
それでもピカリュウはびりびりぎゅーの勢いを止められない。
びりびりぎゅーという技は強い。
しかし、直線的にしか攻撃できず、途中で止められないという弱点がある。
「よし、いいぞソルベル! 次はピカリュウを受け止めてハードロック!」
「ソゥルル!」
ならばソルベルにはピカリュウの弱点を逆手に取る戦法だ。
先制攻撃を仕掛けられるならそれに越したことはないのだが。
ソルベル自身、元々スピードタイプのぷにもんではない。
サタケはまだ彼女の得意なスタイルを見つけられていないのだ。
電気に怯えるなよ、と声をかけようと思ったがやめた。
ソルベルのやる気は最大だ。
怯えなければ軽い体重のピカリュウならうまく受け止められるに違いない。
ピカリュウがソルベルの腹部めがけて突っ込む。
ソルベルが彼女の肩を掴むと、電流がソルベルの身体に走った。
今はピカリュウの突破力が弱まっている。ソルベルは彼女を食い止めた。
帯電状態のピカリュウを受け止めたためダメージを負う。
しかし、それで余りあるほどハードロックは強力な技だ。
ソルベルは右手を身体の横に広げ、手のひらに赤紫色の炎をまとった。
手を重たそうに閉じていくと炎が収縮して輝きを増す。
左手で止めたままのピカリュウを押し飛ばした。
バランスを崩してがら空きになった腹部に輝く右手を撃ち込む。
「ピッ……」
ピカリュウは苦悶の表情を浮かべる。
ソルベルの手が彼女の腹の中に潜り込んでいたからだ。
サタケは驚いて、ふっ、と息が漏れる。
大切にしているぷにもんのお腹に手がめり込んだのだ、さすがに狼狽した。
ハードロックが特殊技だと思い出してなんとか気を保つ。
身体に直接触れないで体内の何かに作用するから特殊技なのだろう。
ソルベルが手を引き抜く。その手には黄色の光る球体があった。
ピカリュウはその場に膝をつく。
あまり威力の高い技ではないようで、すぐに飛び退いた。
ふたたび走り出す準備に取り掛かるが、やめる。何か異変に気づいたらしい。
「ピ?」
身体に力を込めている様子だが、帯電しない。
「ソルベルの技が決まったんだ。今、びりびりぎゅーは封印されている」
「ソル」
その通り、と言うように頷いた。
ピカリュウがソルベルに驚愕の視線を向ける。
今までピカリュウはマツシのテコップに相性の悪い技を受けて負けただけ。
こうして技を封印されて負けるのは初めてだった。
「オーケー、特訓終了だ。技を戻してやってくれ」
「ソル!」
ソルベルは右手で黄色の球体を握りつぶした。
途端にピカリュウが帯電を始める。
元気そうな2匹だが、傷は放っておけない。
サタケはピカリュウとソルベルにぷにもん薬を使った。
ピカリュウのぷにぷにしたやわらかいお腹に薬を塗る。
くすぐったそうにして笑うのでかすかに腹筋を感じ取れた。
身体はまるっきり年相応の女の子だが、塗り薬を付けるとたちまち回復した。
ソルベルの方は全身が軽く焦げている。
特に手から脇にかけて強い電流が流れたのだろう、焦げ付きがひどい。
塗り薬の前に布で汚れを拭き取ろうとしたら、ソルベルに布を奪い取られた。
「こら、俺がやるからじっとしてろ」
「るぅ……」
背を縮こませて申し訳なさそうにした。
怖がらせてしまったのかもしれない。
「怒ったわけじゃないよ、ソルベル。俺をもっと頼ってくれていい」
「ソーソル?」
「ああ。俺はキミのトレーナーだからな」
ソルベルは布をサタケに差し出した。
その場に座ると、ふわりとしたスカートで下半身がすべて隠れる。
たぶん正座をしているらしく、グーにした手を膝の上に乗せているようだ。
そういえば昨日の温泉でもこの姿勢だった。
まるで試合前の剣士みたいで、凛々しくも少女的なソルベルに似合っている。
サタケはソルベルの身体についた汚れを落とし、ぷにもん薬で傷を癒やした。