第一章16★恋が叶う? ハートロード伝説とメイジーナ
ぷにもんセンターに到着したサタケは真っ先にピカリュウに謝った。
「ごめんな、一緒に強くなろうって約束したのに……」
「ピ、ピピカ!」
「こんな俺でもパートナーで居続けてくれるのか?」
「ピカ!」
サタケに抱きつく。
ピカリュウにはサタケしかいないのだ。
サタケは彼女のことを優しく抱きしめた。
身体を離すとピカリュウが名残惜しそうに頭を擦りつける。
彼らをシグレが羨ましそうに眺めていた。
「サタケ、強くなりたいなら【ヨミヤ原生林】に行くといいわ」
「ヨミヤ原生林?」
「人の手が入っていない土地で鍛えられた強いぷにもんがいるのよ」
「そうか……、地タイプのテコップと戦うにはピカリュウは不利だしな」
「あら。タイプ相性はちゃんと勉強しているのね」
「い、一応な」
前世での記憶が、とは言えなかった。
しかし、シグレの言うように新しいぷにもんをゲットするのは悪くない。
手持ちのピカリュウはおそらく雷タイプだ。
新ぷにもんだけに情報がないが、もしかすると何かと複合タイプかもしれない。
ソルベルは図鑑によると悪タイプひとつだけ。
勝つために戦うならソルベルで行けばいい。
ただ、ピカリュウと一緒に強くなるなら、強くなった成果を出したかった。
「なあみんな、ヨミヤ原生林で強くなる特訓に付き合ってくれるか?」
サタケはぷにもんたちに尋ねた。
「ピカ!」
「ソル」
ピカリュウは元気で楽しそうに返事をした。
ソルベルは静かに闘志を燃やしながら頷いた。
サタケはシグレに見送られながらヨミヤ原生林へ向かう。
ヨミヤ原生林は地図で言うとカントウシティの左側にある。
その途中はハートロードという名前が付いた道路だ。
サタケの道行く途中にハート型の大きなオブジェがそびえていた。
オブジェの前には人がたくさん集まっている。
どうやら結婚式のようだ。
純白の衣装を身にまとった若い女性がサタケに視線を寄越す。
女性は傍らに居た男性に少しかがんで耳打ちした。
結婚式の途中だというのにこちらにやってくるではないか。
非常に美しい歩き方でやってきて、サタケたちの前でピタリと止まる。
近くで見るととても神々しい姿をしていると分かった。
白い髪で毛先に近づくにつれて薄紫色にグラデーションしている。
「……ピカ?」
じっと見つめられてピカリュウは首を傾げた。
どうやら彼女はピカリュウに用事があるらしい。
敵意があるようには見えなかったので、ソルベルも様子を見るに留まる。
女性はピカリュウに、
「メメイ、ジーナ?」
お願いをするようにぷにもんの言葉で話しかけた。
「キミ、ぷにもんなのか?」
「メイ?」
サタケは図鑑をぷにもんと思わしき女性に向ける。
ピコンと音を立てて情報が表示された。
「メイジーナ。神の怒りに触れて人からぷにもんに変身した伝説がある……」
よく観察するとベールに隠れて水かきのような青い翼が頭に生えていた。
そういえばピカリュウにも同じような翼が生えている。
と言っても2匹とも見た目はまるで違うが。
「メイ」
「ピーピカ!」
メイジーナがピカリュウに確かめると、ピカリュウはしかと頷いた。
花畑に行って真っ白な花だけを選んで摘み始める。
ソルベルも一緒になって花を詰むのを手伝う。
サタケが手伝おうとしたが、メイジーナに止められてしまった。
どうやらぷにもんだけに許された行為らしい。
サタケが2匹を見守っていると傍らに新郎の男性がやってきた。
優しそうな眼差しをメイジーナに向けながら話す。
「メイジーナは気ままなところがあってね。付き合わせてしまってすまないねぇ」
「いいえ。急いでたってわけじゃないですから」
「おや。あの子は君のぷにもんかい? 初めて見るけれど、竜タイプの子?」
「ピカリュウは新ぷにもんらしくて、まだ雷タイプしか分かってないんですよ」
「そうなのかい? もし竜タイプもあるなら育てるのは苦労するだろうねぇ」
鳴き声から「ピカリュウ」と名付けたのは間違いじゃなかったのかもしれない。
ピカリュウはせっせと集めた花を今度は撚り合わせている。
傍らでメイジーナが手先の不器用なソルベルに結び方を教えていた。
道を歩いていた2人組のトレーナーがメイジーナを見かけて感心する。
「竜タイプを最終形態まで育てるなんてトレーナーとしてかなりの腕前だ」
相方のトレーナーも頷く。
竜タイプというのは育てるのが大変なぷにもんらしい。
サタケはピカリュウをじっと眺め、ううむと声を漏らす。
それを見ていた新郎が目元を細めた。
「ぷにもんを育てる大変さを心配しているのかい?」
「……はい。俺は育成の才能があると思ってたんですが……」
「僕は才能がないと思ってた。でもね、ぷにもんは人の想いに答えてくれる」
「というと?」
「僕がメイムと出会ったのは君と同じ年頃のことだよ」
サタケは目を見開いて新郎を見る。
メイジーナと見比べてサタケは物憂げに息づいた。
「俺はピカリュウといつまで一緒にいれるのかな……」
「ピカ?」
花の冠を抱えたピカリュウが振り返る。
あどけない容姿からは、メイジーナのようなスタイリッシュさを想像できない。
ピカリュウは持っていた冠をメイジーナに渡す。
「メイ!」
メイジーナは嬉しそうに微笑んでそれを受け取る。
慎重な持ち方をするのは爪で花の冠を傷付けないためだろう。
新郎のそばに寄りその冠を頭に乗せた。
男の背に合わせてメイジーナは膝を曲げて背丈を合わせている。
続いてソルベルが男に花の冠を渡す。
「ありがとう。メイジーナ、少しかがんでくれるかい?」
メイジーナがかがむと、男が自分の座っている車椅子を動かす。
新郎はかなり歳を召していたのだ。それも結婚式に車椅子を使うほどに。
花の冠をメイジーナの頭に乗せる。
メイジーナが優しく微笑んで新郎の頬にキスをした。
サタケは驚いて目をそらす。
視線の先にはキョトンとした表情のピカリュウがいた。
「ピッカァ!」
「ピ、ピカリュウ?」
サタケはピカリュウにダイブされて花畑に倒れ込んだ。
花びらが青空に舞う。
ピカリュウがひょこっと顔を出して、サタケに顔を近づけた。
「おっ、俺たちはまだはや……」
すりすり。
「……」
「ピカァ!」
ピカリュウが頭をサタケにぐりぐりとこすりつけた。
サタケはほっとしたような残念だったような複雑な面持ちだ。
ともあれぷにもんが頭をこすりつけるのは好きという証。
サタケはピカリュウの頭をぽんぽんしてあげた。