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punimon - 育成チートで異世界最強ハーレムを!  作者: 如何屋サイと
第二章 コンペキ山のジョーカー団
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第一章12 守るための力! 不屈の意志と絆のエネルギー

 身構えると、空気がピンと張り詰めた。

 後ろに隠れていたピカリュウもその空気を察して顔を出す。



「その年で悪の組織とは、若いのに大変だな」


「は? お前の方が年下だろ?」


「……それもそうか。まあいい。手加減はしなくていいぜ」


「いきがるなよガキ! ジョーカー団に楯突いたこと、後悔させてやる!」



 ジョーカー団の団員が右手を胸に当ててお決まりのポーズを取った。



「ゆけっ! ラーバー!」



 団員が繰り出したのはラーバーだ。スカートの裾が湖の水面に浸かっている。

 年の頃は8歳ほど。黒と赤の混ざった長い前髪で、片目が隠れている。

 幼い見た目と反して冷ややか目をしていた。


 図鑑をラーバーに向ける。

 どんな相手かを知ることは戦いにおいて非常に重要だ。



「なんでも持ち上げる強い力を持っている、か」


「その通り。どんな相手も超パワーでねじ伏せるのさ!」


「いけるか? ピカリュウ、あれ……?」



 振り向いた先にあるのは誰もいない孤島と祠だけだ。


 彼女がいないのは急にサタケが豹変してしまったからか?


 やはり子供らしく振る舞うべきだったか?

 客観的に自分を見ていないと、俺はサタケじゃいられなくなる。


 あくまで普通の少年時代を送るにはそうするしかなかった。



 視界の端でソルベルがエンデッドの激しい攻撃を耐えているのが見える。

 孤島を囲む湖の水面が一撃一撃に合わせて波打つのだ。

 足元に打ち寄せた小さな波は確かな重みがある。



 今は、今だけは、少年のままじゃいられないんだ。


 お願いだ……、ピカリュウ、返事をしてくれ!


 目をつむって祈る。

 祈る神なんて知らないけれど、何かにすがりたいほど心細かった。


 水が跳ねる音が聞こえてまぶたを開けると、



「ピィカァァ、リュ!」



 目の前にたのもしい背中を見せてピカリュウが立っていた。


 金髪に生えた竜の羽がピクリと動く。

 震えるのを我慢しているのだ。


 ああ。小さな背中にこれほど勇気をもらえるとは。



 ジョーカー団の団員がピカリュウに指さす。



「ククッ、指一本でも触れてみな? そんな小さなぷにもん吹き飛ばしてやる」


「挑発か? ハハハ、こちとら圧迫面接で慣れてんだよ!」


「あ、あっぱくめん、なんだって?」



 圧迫面接という言葉を知らないらしい。

 前世では正直なところストレス耐性もないし臨機応変でもなかった。

 今も同じだが、それが悪かったとは言い切れない。


 赤ん坊からやり直しても変わらなかったんだから、個性だと認めよう。



「乗ってやる、挑発。行くぞ、ピカリュウ! 全力で《びりびりぎゅー》だ!」


「ピカピ!」



 頭の羽を閉じる。腕を身体の内側に寄せて、何かを圧縮するように力んだ。

 上半身がうっすらと輝いて、バチバチと音を立て始める。


 帯電しながらの抱きつき攻撃、吹き飛ばせるものなら吹き飛ばしてみろ!



 ラーバーめがけてがむしゃらに突っ込む。

 団員が「回り込め!」と指示を出すが、ラーバーの動きが乱れた。


 足元の水が動きを鈍らせたのだ。


 ピカリュウはラーバーの腹部に思い切りタックルする。

 真っ直ぐすぎる攻撃は幼い見た目のラーバーを苦悶の表情にさせた。


 それだけではない。

 勢い余ってラーバーを抱きしめたまま、団員のいる方へ倒れ込んだ。



「お、おい! そんな状態でこっちに来たら……!」



 ラーバーの背中を湖面に叩く時、水が真っ二つに割れたように見えた。

 見えたのではない。実際に水を割りながら、電撃が団員の足元へ滑り込む。


 ただの水よりも人体のほうが電気が流れやすい。

 そこに電位差が生まれるので、人間は水に触れていると確実に感電する。


 サタケの身体にもわずかながらビリビリときていた。

 孤島の土が湿っていたせいだろう。

 わずかな痺れを噛みしめるように拳をぎゅっと握った。



 気を失ったラーバーと完全に失神した団員が湖に浮かんでいる。



「……俺たち、守ったんだ。ピカリュウ!」


「ピカ!」



 ピカリュウがびしょびしょの身体のまま飛び込んでくる。

 12歳くらいの外見の美少女だけど、ピカリュウはぷにもんだ。

 前世の年齢を足したら俺はおっさんで、こんな娘がいてもおかしくない。


 ピカリュウに抱きしめられた時、彼女を娘だとは思わなかった。

 はじめは妹のようだと思っていたけど、それもなんだか違う気がしている。

 きっと相棒という言葉がぴったりなんじゃないだろうか。


 だから俺は戻ろう、サタケに。

 トレーナーのサタケとしてピカリュウの少し前を歩いていこう。



 ピカリュウが頭をこすりつけてくる。

 大好きという意味だ。サタケはうんうんと一人でうなずいた。



「感謝の大好き、だよな。俺からも言わせてくれ。ありがとう」



 サタケの気持ちに答えてくれた彼女を盛大に抱きしめた。



 もう1匹、同じ気持ちを抱く者へ視線を向ける。



「……ルベルッ」



 見た時、破れた布かと思った。

 よく見るとそれはボロボロになったソルベルだ。

 全身に切り刻まれたようなダメージを負っている。



「エェェンデェェッ!」



 ソルベルの身体をさらに痛めつけるように、エンデッドは棒を突きつけた。

 棒の先端には登山口前で見たのと同じ標識が付いている。

 一方通行を意味する矢印がソルベルを袈裟斬りにした。


 倒れてもおかしくない威力なのに、ソルベルはまだ地に膝をついていない。

 標識が地面に突き刺さり、エンデッドはそれを抜くのに手間取っている。

 反撃のチャンスを目の前にして、ソルベルは指一つ動かさなかった。


 ただ、立っているだけ。どうして?


 サタケが駆け寄ってソルベルの横顔を見る。

 鋭い目つきをバンカーに向けて、威圧感で祠を死守しているのだ。

 技を出す余裕など端からない。ソルベルは文字通り、その身を盾にしていた。



「団員は片付けた。ソルベル、キミは……」


「……ソ」



 サタケを見て気が緩んだのか、途端に足腰の力が抜ける。

 あわてて彼女の身体を支えた。自分よりも大きな身体だ。

 ピカリュウがサタケ・ソルベル2名とエンデッドの間に割り込む。


 エンデッドがピカリュウを睨みつけた。

 サタケはソルベルの身体をゆっくり寝かせる。

 ピカリュウの羽は震えているが、前みたいに腰を抜かしてはいなかった。



 バンカーはエンデッドに告げる。



「戻れ、エンデッド。我々の目的は阻止されたようだ」


「エンデッ」


「エネルギーサーチャーが破壊された。これでは強いぷにもんを見つけられない」



 バンカーが指さした方にエンデッドは視線を向ける。

 湖のほとりで団員が何かの機械をあわてて背中に隠した。

 団員はエンデッドに睨みつけられて、ブルブルと震えながら身を守った。


 エンデッドはソルベルを一瞥し、バンカーのディスクに戻る。



「少年! 私たちの負けだ」



 バンカーがうつむいたまま話す。低い声が半ドームに反響した。

 サタケはピカリュウを自分の隣にまで後退させる。



「お前、何のためにここへ来た?」


「強さだ。私のエンデッドは強さを求めている」



 嘘偽りがないように思えた。

 バンカーはソルベルを抱えて座るサタケに近寄る。

 あまりに大きな男だ。見上げるだけでも一苦労する。



「少年、名前はなんという?」


「……サタケだ」


「ならば、サタケ。お前にこれを渡す」



 サタケはバンカーから【デュースカード】を受け取った。

 トランプの「クラブの2」に見える。しかし、地が白ではなく黒いカラーだ。

 それを傍から見ていた団員が「ゲッ」と声を漏らす。



「バンカー様!? そんな子供にジョーカー団の証・ナンバーカードを渡すなんて!」



 団員のつぶやきを無視してバンカーは話を続ける。



「そのカードは最低ランクの2だ。最高ランクは私の持つキングのカードだ」


「なぜ俺にこんなものを?」


「我々ジョーカー団は世界を変える力を求めている」



 バンカーはそう言い残して、早々と踵を返した。

 下っ端の団員が壊れた機械をかき集めて、いそいそと追随する。


 サタケは呆然とその背中を見送った。


 ……悪の組織に勧誘された?


 信じられない展開にしばらくの間、開いた口が塞がらなかった。

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