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序章   転生、あくまで普通の異世界生活を送るために

 通勤電車でうんこくらい漏らしていいかって考え始めた辺りから人生が狂った。



 気がつくと暗闇の中にいる。


 たぶん死んだのだろう。

 あるいはこれから死ぬのかもしれない。


 正直、どっちでも良かった。

 ブラック企業に入社して社畜として飼いならされ、まともな記憶が残ってない。


 死ぬなんて考えたことなかった。

 明日から現場に行かなくて済むと考えたら、死ぬのも悪くないと思った。



 意識がドロドロのつぶつぶになっていく。

 ぼんやりと周りが温かくなった感覚があって、突然まぶしい光が差し込んだ。


 徐々に目が慣れてくるが、視界はまだはっきりしない。

 たぶんこれは……



 ……女の人?



 視界がぼやけて判然としないが、たぶん女の人だ。白い服を着ている。

 もしかして病院に担ぎ込まれたのか?



 ったく、驚かせやがって、



「ぃあぅんぁっあぉぁ」



 は? なにを言ってるんだ?

 ただ、「死んでなかったのか」と言いたかっただけなのに。



 身体が布で包まれて、軽々と女性に抱きかかえられる。


 その感覚が妙になつかしくて、だけどぜんぜん思い出せなくて。



 とても居心地の良い感覚を探すように、力いっぱい手を伸ばしたら、


 きゅっと掴まれた。



 まるでここにいていいんだよ、というように。

 すっかり忘れていたこの感覚は、紛れもなく「優しさ」だった。


 胸の奥に湧き上がった感情はもうどうしようもない。

 嬉しさ、誇らしさ……

 幸福を連想できるあらゆる感情がうねりを伴いこみ上げる。



 そうして大きな産声を上げて、この世界に生まれたのだった。




 ■乳児期■



 生まれてすぐは目がほとんど見えなかった。

 少しずつ細かいものも見えるようになってきて、世界の有り様が分かってきた。


 まず、俺はまだ頭が座ってないキッズだ。

 なのでゆりかごで横になっている。


 普通に人間だ。

 これといった特徴はない。

 まあ、赤ん坊なんてどれも似たようなものだけど。



 続いてこの世界はたぶん日本じゃない。

 日本にあったのと似たものがあったりはする。

 家は木造の土壁だし、普通にテレビが置いてあった。


 テレビからは地球でポピュラーな言語のどれとも違う言葉が聞こえる。


 ママンが俺の視線に気づいたのか、こっちへ顔を覗かせた。


 この世界の言葉で何か話しかけてきた。

 たぶん、これは「あら? サタケちゃんおめざなの?」って言っている。



 俺の名前はサタケだ。

 苗字みたいだが、これが名前である。

 そんな感じで日本とは文化が違う。



 ママンが去った後、急にゆりかごがゆっくり揺れ始めた。

 これは非常に心地が良い。気を抜くと一瞬で睡魔に襲われる。


 実は揺らしているのは頭に熊耳を生やした女の子だ。

 年の頃は中学生くらいだろう。墨を付けた筆のように髪先だけ黒い。

 初めて見た時は驚いた。獣人がいる世界なんだと。



「スミ?」



 ニコニコと笑顔を見せる。この子は【スミクマ】というらしい。

 正直、中学生くらいの女の子は嫌いじゃない。

 いやむしろ大好物なので、彼女に甘やかされるのは至上の喜びだ。


 ……たまにおっぱい揉ませてくれるしな。




 ■幼児期■



 俺は四歳になった。いや、サタケは四歳になった。


 少しずつ歩けるようになって、最近は家の中を探検するのが楽しい。

 言葉もだいぶ分かるようになってきたし、文字も読めば読むほど覚えられる。



 あ、それと、すごい事実を発見した。



 スミクマは【ぷにもん】という生き物の一種らしい。


 この世界にはぷにもんと呼ばれる生き物が何種類もいるようだ。

 しかもそのどれもが5歳〜18歳くらいの女の子。


 信じられるか?


 俺は信じられずに3度は泣いたね。

 夜泣きしてゴメンよ、ママン。



 ぷにもんの多くは野生で、この世界のいろんなところに生息しているらしい。

 その一部は人と共存している。

 例えば、スミクマは家事手伝い兼俺のお守りだ。


 共存しているぷにもんは人に【ゲット】されている。

 ゲットというのは【ぷにもんディスク】という円盤を使うのだ。

 円盤を投げつけると低確率でディスクの中に収納される。



 いや、それなんか覚えがあるんだよな……。



 これテレビで見て知ったんだけど、本で調べてもどうやらマジらしいよ。



 あと、ぷにもん同士を戦い競わせる【ぷにもんバトル】がある。


 ……。


 ……もうね、もうね!



 露骨なほどポケモンの世界だよね、これ。



 正直、感動です。

 控えめに言って、夜泣き5回。

 ママンとスミクマほんとにごめんね。



 でも、ポケモンみたいにキュートな小動物もクールな怪獣も出てこない。

 出てくるのは小学生、中学生、高校生くらいの女の子だけ。


 しかも、ぷにもんは進化の段階が3つあるんだけど……


 それが小学生、中学生、高校生とリンクしている!



 小学生くらいの子がたねぷにもん。

 それが進化して中学生くらいになり、さらに進化すると高校生くらいになる。



 そして、彼女たちを鍛える人を【ぷにもんトレーナー】と呼ぶ。

 ぷにもんトレーナーになれるのは10歳からだ。



 俺は心底思ったね。


 この世界でだったら、普通に少年時代を送りたい、と。




 ■少年期■



 サタケは8歳になった。

 早く10歳になってぷにもんトレーナーになりたかった。

 ぷにもんトレーナーになったら、もちろん目指すのはただひとつ。


 【ぷにもんリーグ】の【チャンピオン】である。


 ぷにもんリーグというのはその年の最強トレーナーを決める大会だ。

 出場するには【ぷにもんハイブ】で【ハイブヘッド】を倒さなければならない。

 ところが、ハイブやヘッドのことは誰も教えてくれないのだ。



 近所にぷにもん博士の研究所があって、そこにも聞きに行った。

 残念ながら、トレーナーになるまで情報は解禁されないらしかった。

 研究所で同い年のシグレと出会った。すげーいけ好かない奴。


 俺よりぷにもんについて詳しいからって調子に乗っている。

 しかもこの前はスミクマのことを雑魚だって馬鹿にした。

 気がついたら取っ組み合いの喧嘩になって、シグレを泣かせてしまった。



 いやー、これはびっくりした。シグレって女の子だったんだな。

 紳士であろうと努める俺としては手痛い失敗だ。

 ベイビーだった頃はスミクマの乳を揉んでたけど、今はそんなことしないぜ?



 それに俺はあくまで「この世界で普通の少年時代を送りたい」だけ。


 なんだけどさ、なぜかことぷにもんにおいては事情が違った。


 例えば、【ハネウオ】だ。羽のようなヒレを持つぷにもんが海辺にいる。

 ハネウオはせっかちで人がいても無視して通り過ぎてしまう性格だ。

 実際、海の磯にいる釣り人なんて無視してぴょんぴょん水面を跳ねている。


 次に俺が磯に近づく。

 するとハネウオが俺に向かって跳んできた。

 3匹くらい跳んできて、濡れた頭をスリスリしてくるのだ。


 すぐに服がびしょびしょ。彼女たちが頭をこすりつけるのは親愛の証らしい。

 ちなみにこの子たちとは初対面だ。

 俺が頭を撫でただけで「ハッ、ハッ」と嬉しそうに抱きついてくる。



 どうやら俺にはぷにもんが一気に懐いてしまう能力があるらしい。



 仮にもこの世界は、育成ゲームみたいな世界なのだ。


 その世界でこの能力はちょっと強すぎじゃね……?



 だから俺は能力を持っていることを隠すことにした。



 あくまで普通の異世界生活を送るために。

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