プロローグ 転生
生前。なんて自分で言うのもおかしな話だけれど、適当な言葉はそれ以外見当たらない。
だって私は一度死んでいる。そしてその記憶を持ったままとある人物へと転生を果たしていた。
自分の名前や、家族構成、どのような人生を歩んできたのかに関しての記憶はひどく曖昧だった。しかし、私が一度人生に幕を下ろしていることははっきり覚えていて、否定しようがない。その明確な死の記憶――と言っても布団の上でおそらく家族であろう人たちに囲まれての幸せで穏やかな最期だった――ともう一つ、主に青春時代の大半を費やしたとある娯楽品についての情報は我がことながら引くくらいにはっきりと覚えている。そのせいでこの世界に転生したのだとしたら、それはファン冥利に尽きると言えるのではないだろうか。
前世についての記憶の中で、燦然と光り輝き一片たりとも欠けることなく残っているパーフェクトな記憶。乙女ゲーム全盛期と言われた時代に一世を風靡したメジャータイトル。その名も「学園スター!~ときめけイケメンの園~」。
今考えるとふざけてんのか! と方々から石を投げられそうなタイトルであるが、そんなふざけたタイトルに反して中身はいたって真面目な乙女ゲームで、後に続編や書籍・アニメ化もされたほどの圧倒的人気を誇った。かくいう私もリアルの恋愛そっちのけでハマりにハマった口だ。
学園物としてさんざんやりつくされた感のある、お坊ちゃまお嬢様が集まるセレブ御用達の私立学園物で、攻略対象者、主人公を阻むライバル、そして数少ない友人まで全員が超のつくお金持ち。
乙女ゲームを愛好しているユーザーからすれば、食傷気味な設定にも見えるそれは、緻密に練られたシナリオと恋愛面以外での意外性のあるストーリー展開、そしてお約束と言われてしまうような恋愛パートの展開をあえて本筋として迎えたことにより、むしろ真新しく乙女ゲーユーザーの目に映ったのだった。
乙女ゲームが乱発する中、久しく見かけていなかった、王道で正統派な展開は惜しみなく乙女のハートを甘く、時には切なく揺らし刺激した。
そうして学スタは一気にスターダムへの道を駆け上がり、乙女ゲームに学スタありとまで言われるようになっていったのだった。
と、ここまで学スタについて褒めちぎったのだから、私がどの世界に転生したかもうおわかりであろう。
そう、私はまさしく「学園スター!~ときめけイケメンの園~」の世界に新たな生を受け、生まれ変わったのである。