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今、君に会いたい中編

クリスマスまでもう少し…2人の想いは?


カップルにオススメ!と大きな文字で書かれているその表紙を見て、少し戸惑いながらも真也はその本を手に取りレジへと向かった。


正直、生まれてこの方デートなどしたことがない。

聖奈と出かけることは何度かあったが、せっかくのクリスマスは思い出に残るような1日にしたい。


真也は近くの喫茶店に向かった。

喫茶店でその本を読みながらイルミネーション。オシャレなお店なんかを調べていた。


その中でも気になったのは、恋愛成就のクリスマスツリーだった。

ツリーの下で告白した人は結ばれる。

ありきたりだが何となく、今ならここで告白しようと思う人たちの気持ちがわかる気がした。



その時だった。


「あれ?真也?」


予想外だった。

聖奈が友達と一緒に現れたのだ。


「え、な、何でここに?」

「何でって、真也こそ」


聖奈の視線が、真也が見ていた本へと移るのがわかった。

真也は即座にそれを隠すと、聖奈も少し目をそらした。


たぶんバレた。


すると、聖奈の友達の律が急に声を出す。


「あー大変。そう言えば、お母さんに買い物頼まれてたんだった!」


「え?ど、どういうこと?」


聖奈が、律にそう聞くと真顔で口を開きこう言った。


「帰ります」


突然の行動に、聖奈も戸惑いながら律の後を追うが、途中で真也には聞こえない声で、律が聖奈に何かを言った。

すると、聖奈は何もせず、ただ、律を見送ったのだった。



気まずい空気になるのは何度目だろう。


「とりあえず、座ったら」

「うん」


聖奈は真也に言われた通り、迎えの席に座った。

こんな時はどうするべきなのか、そんな事を思いながら真也はひたすらメニューを見つめる。


「さっきの」

「えっ!?あ、えっ!?」


何を動揺しているんだ!落ち着け!

何度も自分に言い聞かせるが、心臓の音が激しくなる。聞こえてるんではないだろうか?

今までに感じたことのない、緊張感。

嫌な汗をかいてる気がした。


「なに、見てたの?」

「えっと…」


真也は一度呼吸を整え、隠した雑誌を机に出す。


「クリスマス。せっかくなら、楽しみたいなって思って」

「考えてくれてたんだ」

「まあ」


恥ずかしかった。

本当はバレないようにやりたかった。

その方がカッコ良い気がしたから。

真也は顔を少し落とす。


刹那。


クスっと笑い声が聞こえた。

顔をゆっくりと上がると、聖奈は笑っていた。

いつも、見る、優しくて暖かい。

そして、真也が好きな笑顔。


「考えることは同じなのかもね」


そう言うと、聖奈はカバンの中から見覚えのある雑誌を取り出す。


カップルにオススメ!と書かれた表紙。

真也は首を傾げ、そして、机に置いてある雑誌を見る。


同じものだった。


「私もね。楽しみたいと思ったんだ」

「聖奈も?」

「うん。だって、2人で遊びに行くのって滅多にないじゃない。だから…今年は楽しみたいなって」


頬が熱くなるのを感じた。

ただ、一言嬉しかった。


やっぱり好きだ。


「聖奈」


今すぐにでも伝えたい。

この気持ちを


「なに?」


でも、まだ。

まだ、もう少しだけこの気持ちを抑えよう。


「クリスマス、楽しみだな」


真也の笑顔は、いつも同じようで何かが違った。

聖奈はコクリと頷いた。





【2】



空港。

ベージュのコートをきた、女性はキャリーバッグを引きながらバス停まで向かう。


ポケットに、入れた携帯電話がなると、女性は足を止め電話に出た。


「もしもし?」

「もしもし。綾子?電話した?」

「ええ、日本に着いたって連絡入れたくて。今、空港に着いた所よ」


綾子はそう言う。


「はぁ!?日本帰ってきたの!?なんで言わないのよ!」

「手紙送ったわよ」

「届いてない!」

「あら、そうなの?まあいいわ」

「相変わらずてきとうなんだから」


綾子はクスリと笑った。

電話の相手は、真也の母親である。美智子だった。


「ねぇ、美智子。聖奈は、元気してる?」


季節は冬。

クリスマスまであと5日だ。




【3】


聖奈は鞄を落とした。

まるで、信じられないものを見たかのように、何度も瞬きをした。


「久しぶりね。聖奈」


電話で声は何度か聞いた。

写真だって何度か送られてきてた。

それだけでも、いつも嬉しかった。だけど、


「大きくなったね」


直接会って、声を聞いて。

そして、頭をなでられることが嬉しかった。


「ん?ちょっと、もしかして泣いてる?」

「泣いてないよ」


頬を何度も何度も、涙が流れる。

それを袖で、ぬぐいながら聖奈は否定した。


「でも。どうして?日本に」

「研究の方がね、だいぶ落ち着いたの。信頼できる人たちや助手とかに娘に会ってきたらって言われてね」

「そうなんだ」


親子の再会っていうのは、よくわからない。

真也はそう思った。


きっとすごく嬉しいこと。いや、その一言では収まらないくらい色々なことを感じてるのだろう。

毎日、親にあってる自分にとっては、きっとわからないことなんだろうと真也は思った。


「ねぇ、聖奈。クリスマスなんだけど、一緒にどこかに行かない?」


そのときだった。綾子が口に出した言葉は、嬉しくも悲しくも、複雑な提案だった。


それと同時に真也の中で、何かもやっとした感情が生まれた。





【4】


暗い自分の部屋で1人。


真也は眠れずにベットで横になっていた。時間は0時を過ぎ、いつもなら寝てる。


「眠れない」


数時間前、学校からかえってきた聖奈と真也を待っていたの聖奈の母親だった。

10年間あっていなかった、親とあった聖奈は泣きながら喜んでいた。


真也もそれを見て、嬉しかった。



しかし、聖奈の母親は一週間もいられなく。

12月25日の夜には外国に戻らないといけないらしい。

そして、せっかく戻って来たのだから12月24日の日は家族ですごしたいと言ったのだ。


きっといつもなら、自分との約束なんかより優先して欲しいとすぐ言えた。

でも、なぜかわからなかった。


その言葉を言えなかった。

いや、言いたくなかったのだ。



ため息をつきながら、真也は起き上がる。

すると、トントンとドアがノックされる。



ドアを開けると、そこには寝間着姿の聖奈が立っていた。


「中、入っていい?」



【5】


不思議な感じだった。

10年も一緒に住んでいるのに、聖奈が自分の部屋に入るのは珍しい。


電気をつけて、部屋を明るくする。


聖奈は辺りを見回しながら、真也の部屋を見る。


「もう少し汚いかなって思ってた」

「どう言うことだよ」

「ほら、昔はよく真也のお母さんに片付けろ!って怒られてたじゃない」

「昔の話じゃん」

「もしかしたら、私の部屋の方が汚いかも。今度ちゃんと片付けよ」


母親が帰ってきたのに、なんとなく同じ…では、ないか。

真也はそう思った。


「クリスマスの約束のこと?」


話しづらいのはわかってる。


「真也は、どう思ってる?」

「俺は…」


きっと、複雑な気持ちなのは聖奈も同じだ。

10年ぶりに再会した母親とも一緒にいたい。

でも、2人で話し合ってどこにいくかも決めた約束をなかったことにもしたくない。


たぶん。

そう思ってる。


「聖奈はどっちを選ぶか悩んでる?」


聖奈は黙ってコクリと頷いた。


少し嬉しかった。

2人で約束したことを、母親と一緒に過ごす時間と同じくらい大切だと思ったことに。


真也は、聖奈の頭に手を置いた。


「真也?」

聖奈の瞳に真也がうつった。


「お母さんと一緒に過ごしたらいいよ」

「でも」

「かわりに来年。来年は一緒にいてくれませんか?」


その言葉を、言いたくなかったのかもしれない。

でも、これが1番いい選択肢だって思う。

少し寂しそうな表現を見て、聖奈は口を開いた。



「わかった。約束するね」



そのあとの事はあまり覚えていない。

2人で、話をしていたのは覚えてる。でも、内容までは記憶にない。


ただ、言葉にならない。

色々な感情が渦巻いてたことは覚えていた。



クリスマスまであと4日。



次回で最後です。

見てくれた方、お楽しみに

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