安泰の宿
ーーグリエンタル衛兵詰所、翌朝ーー
ダイダがプギー邸で不正書類を大量に手に入れた翌朝のこと。ここグリエンタルの衛兵詰所でとある事案が発生したそうだ。それは……。
「はわぁ~、今日も仕事やりますか~」
衛兵の一人が起床し、会議室へいく。そこには掲示板があり、今日のスケジュールが書いてあるのだ。
「ん?」
そのとき、この衛兵は会議室の長卓の上に紙束がおいてあるのを見つける。
何気なくそれを手に取り、誰かの忘れ物かと目を通した。
「こ、これは……! プギーの書類! し、しかもこれらすべてが不正関係のものだ!」
慌てて衛兵はそれを上司へ報告。あえなくその日のうちにプギーは御用となった。
ーー『安らぎの鐘』ーー
プギーが捕まったというニュースを受け、町が落ち着かない雰囲気になっているなか、『安らぎの鐘』では祝勝会が行われていた。そこには、宿の宣伝を手伝ってもらった小隊、『春の目覚め』の面々や、宿の3人家族、他にも応援してくれた冒険者らが宴会を開いていた。
「『安らぎの鐘』完全復活と、プギーへの勝利に乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
皆で酒を煽りながらダロスさんの自慢料理を平らげていく。
俺は安定の、ランとの雑談を楽しんでいた。
「へぇ~、あのプギーをオーラで圧倒なんて出来たんだ」
「まぁな! 俺にかかりゃ朝飯前だ」
「にしても、屋敷に突撃なんてホント無茶するわね」
「呆れたか?」
「ええ。でも、それ以上に私のためにと考えたら……ちょっとだけカッコ良かったかも……ね」
「そ、そうか」
酒を煽り、一階のベランダ席で二人きり、夜空を見ながら雑談を楽しんでいた。
「……」
「……」
急に、互いに無言になる。話題がなくなったわけではない。
ではなぜか。それは、ランがなにか言いたそうにしているからだ。一生懸命、口をパクパクさせ、顔が赤くなっている。決してお酒のせいだけではないと俺でもわかる。
「……」
「あのね……ダロス。私、まえ言おうとしたこと……覚えてる?」
前というのは、多分依頼をした日のことだろう。あのときも何かをいいかけて、『春の目覚め』がタイミング悪くやってきて、うやむやになってしまった。
「ああ」
「……あの、あのときの……さ。続きを言っても、いい?」
「……ああ」
彼女は大きく息を吸った。そして吐き出すように、じっくりと一字一句丁寧に言ってきた。
「あなたのことが、好きです! 貴方と共にいつまでもいたい! 貴方のくれた恩恵を返したい!」
「……」
「もう我慢できないの! サポーターという役割を受けてくれて、一生懸命私を助けてくれて、それで、いつの間にか好きになっちゃって……。お願い、私と付き合って!」
「……。ごめん、ラン。俺はランとは付き合えない」
ここでもし、付き合うといったらランが苦しむだろう。人間と神とでは寿命が違う。悠久の時を過ごす神とでは、ランはきっと辛いだろう。
それに、俺は旅に出る身。いつ帰ってくるか分からないまま彼女を待たせることなんて、俺には出来ない。
……もしかしたら旅の途中で追手に捕まるかもしれないのだ。そうしたら完全に音信不通となってしまう。
「そ、そんな……どうして……」
「ラン、大事な話がある」
「なによ……ダロスの、ダロスなんか……っ!」
「落ち着いてくれ……」
「……なによ」
「俺は、本名をお前に教えていない」
「っ!」
「今から教える。そして、考え直してほしい」
俺は、深呼吸をした。はっきりいって、心臓がばくばくだ。破裂しそうなほど、脈打っている。
しかしそれでも俺は、ランから目をそらさなかった。そしてランの耳元まで俺の口を持っていき、囁いた。
「俺の名前は、ダイダだ」
「……え?」
ーー
そして俺は、難しい神のシステムを除くその他の出来事をあらましランに教えてしまった。
「……」
「そう、だったんだ」
「……俺のこと嫌いになったか?」
「ううん、私のことを考えてふってくれたのも嬉しい」
そこで、一呼吸おいてからランはいった。
「私は、そんなあなたが愛しい」
ああ、なんて健気なんだろう。俺は、こんな娘と付き合いたかった。だが、神という立場がそれを許さない。
神なんかくそくらえだ。ワーカーホリックなだけじゃなくて、こんな、こんなことも許されないなんて!
「でも、神様が味方なら、この宿は安泰だね」
そんな一言を言われた瞬間、さっきまでのドロドロした思考が溶けていく。そして、彼女は俺の顔に口を近づけて……
キスをした。
それは単純な動作であるが、表している意味は複雑であった。
「お休みなさい、ダイダ!」
そういって彼女はベランダから自分の部屋へと戻っていった。
『でも、神様が味方なら、この宿は安泰だね』
俺は、神に転生してから初めて、神であることに感謝した。
如何でしょうか?
なかなか複雑な恋愛を表してみました。
次回は新しい話か、閑話が入ります。




