豚の抵抗
ーープギー邸ーー
「これはどういうことだ!?」
屋敷の一室でプギーは声を荒げていた。
「何故あの宿が潰れていない! それどころか更に人気になっているではないか!!」
自分の部下へと叫ぶ。
「も、申し訳ありません。どうやらなにかしらの方法で鐘の音を防ぐことに成功したようです」
「……っ! くそったれがぁ~!」
部下は思った。あの宿の小娘に執心するあまり、我らが主人は盲目になっている、と。まず、あの娘は当たり前だがプギーに堕ちてなどいない。それを照れ隠しと考えているだけでどうかしている。
以前、この部下は苦言を呈したところ戯言と流され、それ以上言うとクビにすると言われたため、なにも言えなかった。
「いいか! あそこに我々の者を向かわせろ。適当に苦言をいって宿屋の評価を下げろ!」
「……」
「わかったか!?」
「……仰せのままに」
ため息を尽きつつ、主に付き合う部下だった。
ーー『安らぎの鐘』、朝ーー
~チリーン、チリーン
「ふうぁ~、もう6時かあ」
ダイダは欠伸をしつつ下へ降りた。食堂へいくと冒険者たちがむしゃむしゃと料理を食べながら談笑している。冒険者の朝は早い。
ーそのとき
ガシャーンッ!
「きゃあ、え、えっと、すみません。お客様、どうされました?」
「どうしたもこうしたもねえ! お嬢ちゃんが皿を落としたんだろうが! 俺の服が汚れちまったぞ!」
「え、えっと、お客様が私の手を叩いたと思うのですが……」
「なんだと! 客のせいにする気か!?」
なんだこのチンピラは、ランが困っておりどうしようとオロオロしている。しょうがない。助けるか。
「いったいどうしたんだ?」
「あ……ダロス」
ランがこちらをみて目を見開く。そして、来ちゃダメと口パクで伝えてくるがさらっと無視して割ってはいる。
「誰だおめえ。俺はな! 溢したあげくちゃんとした謝罪もしねえこの宿はどおかって思うわけよ!」
ああ、なるほど。プギーの手の者か。
「あ~そうだ。俺はちょっとした魔導師でね……。こんなこともできるのよ」
「はっ! てめえみてえなガキが魔導師な訳……っ!?」
俺が作ったのは直径1メートルの水球、そこに向けて
「我、欲するものあり。汝、照らしたまえ。再現創造」
すると、水球にはランが映る。彼女が男に配膳しようとした瞬間、男が手ではたき落としているのが映る。
「さて、これは過去を映すものだがどうやらお前が悪いようだなぁ。しかも謝罪要求。営業妨害で衛兵に尽き出せるな」
「な……な……」
焦った男が周りを見るが、皆一様に男を睨んでいる。
「お、覚えてろやクソガキィ!」
男は宿から走って出ていった。
すると俺に対して拍手が沸き起こり、ランに対してはよかったよかったと、同情の目がほとんどだった。
ーー『安らぎの鐘』、1週間後ーー
「だぁ~くそ! もう、もう怒ったぞ!」
「お、落ち着いてダロス!」
ランに宥められるとは珍しい。が、しかしこれはもう我慢の限界だ。
この1週間、なにがあったかダイジェストでお送りしよう。
・1日目
チンピラ男を『再現創造』で追い払ったあとに、玄関先でチンピラ冒険者2名がケンかを起こす。騒ぎにしようとしてたようだがダイダが二人とも吹っ飛ばして事なきを得る。
・2日目
飯のなかにごみが入っていると朝から騒ぐ冒険者1名。しかし、またもやダイダの『再現創造』が炸裂。あえなくご用となる。
・3日目
布団が八つ裂きにされており、この布団じゃ寝れないと騒ぎだす。しかし、ダイダが即座に『復元回復』を発動し、もとに戻す。冒険者は呆然としながら礼を言ってくる。なお、その冒険者はただ問題起こすために宿をとったらしく、金がなかったためあえなくご用となる。
・4日目
いったいなにを間違えたのか、サラさんをナンパし始める。どうやら家庭内不和を招きたいようだが旦那さんであるロデルさんはサラさんを信頼しきっており、特に問題なく終わる。
・5日目
食堂で決闘騒ぎを起こそうとしたが、それに気づいた俺がいち早くぶっ飛ばした。
・6日目
ギルド内で『安らぎの鐘がぼったくりをしている』と声高々に叫ぶが反論されぼこぼこにされている。意味わからん。
・7日目
ギルド内の酒場でテロを計画。しかし他の冒険者がいち早く発見、報告してくれたお陰で阻止できた。テロはもはやネタの域を越えてしまっている。
と、このようなことがあった。そのためダイダはプギーのところへいこうとするが、それをランが止めている。
「ダロス、やめとこうよ! だめだって!」
「いや、任せとけ。勝算はある」
「……ほんとに?」
「ああ」
それもかなり大きい勝算がな。
「分かった。ダロスのいうこと信じるわ」
「ああ、まかせとけ」
「その代わり、絶対に無理しちゃいけないからね!」
その優しいお願いに苦笑で応えつつ宿を後にした。
ーープギー邸ーー
「く、くそ!? なんなんだあの忌々しいガキは!」
プギーは部下の報告が信じられなかった。自分達がここ1週間で起こしてきた数々の問題をほぼ一人で解決しているのだ。
そんな様子のプギーをみて、ため息をはく部下筆頭。命令のなかでできることはやったのだ。はたして、この上司はどこまで生きていけるのか。
そう思った瞬間、意識が闇の中へと沈んでいった。
ーープギーside
な、なんでこんなことに!?
さっきまで部下筆頭のやつに計画の失敗と確認、命令をしてきた。しかし、窓からの侵入者は一瞬で護衛と部下筆頭を気絶された。
「久しぶりだな、豚野郎」
「お、お前は……ッ!?」
そのとき、俺は気づいた。こいつはこの前宿街通りで会ったクソガキということに。そして、奴が水球をだして、そこに何かを映していることに。
その水球に映像が映しだされ、音が出てきた。
(……とにかく、今度こそチンピラ風情を使って宿を潰せ!)
(あの宿め……どうしたら潰れる!!)
(いっそのことあの夫妻を殺してやるか……)
それを見たとき、俺は自然と土下座していた。なにかが終わる音がした。
「お……お願いします! どうか、どうかたしゅけてくだぶひっ!?」
俺は謝罪している最中に頭を蹴られて意識を失った。そのとき情報を衛兵に渡される恐怖と少年のオーラにより失禁していた。
ーー
「ふぅ、やっぱ神力は違うな」
今回はこのクソ豚を衛兵に突き出すために神力で恐怖を与え、失神させた。え、なんで蹴ったかって?
……憂さ晴らしに決まってるだろう。
「あとは、不正書類を探すだけか」
俺はくそ豚の書類を漁り始めた。




