一番の宿
ーー『安らぎの鐘』ーー
5人のお客さんが帰ったあと、サンさんが質問をしてきた。
「あ~の……このあと、私たちはどうすれば良いのでしょうか?」
「ああ、そのことなんだがな。このあと1週間は様子を見る。で、なにも変わらなかったら次の手を打つ。まあ、あの様子だと大丈夫だと思うがな」
あの小隊ならちゃんと宣伝してくれるだろう。
「じゃあダロスさんは……」
「ああ、俺はここに泊り続けるが、1日のうち大抵は神殿のなかにいよう。俺がずっと宿で見てたって意味ないからな」
「で、でもでも! ダロスがいてくれたほうが、安心なんだけど、どうかな?」
ランが嬉しいことを言う。だが……
「それじゃあだめだ。俺が射なくなった後も、3人で経営していくんだろ? だったら3人でやるべきだ」
「むぅ~」
「ラン、ダロスさんの言う通りだ。俺も料理のパワーで客を寄せる。お前は看板娘として手伝え」
「はーい」
とりあえず納得してくれたみたいだな。
「じゃ、神殿にいってくる。何かあれば伝えてくれ」
「わかりました~」
「おうよ、人気取り戻して見せるぜ」
「ダロス、いろいろありがとね!」
そして、『安らぎの鐘』を後にした。
ーー神殿への道、道中ーー
「あんたがダロスか?」
突然、デブったおっさんが話しかけてきた。護衛と思わしきやつらと一緒に。
「ああ、あんたは?」
「ふん、俺のことも知らないのか。田舎ものめが。俺はプギー、この町の不動産を仕切ってるんだよ」
ああ、こいつか。
「で、あんたがなんのようだ?」
「き、貴様! 様をつけろ!」
護衛が煩いな。
「ふん、あれ以上あの店に関わったらお前を潰す。覚えておけよ? 若造が。それに、どうせ何もできなかっただろ?」
なるほど……宿屋の再建計画がばれたか。だがどういう風になってるからは知らないみたいだな。
「ええ、何もできませんでした。勇気づけただけですよ」
「だろうなぁ……ふはは、所詮ただの若造、俺のランと関係を持ちたかったのだろうが、あいつはもう俺に堕ちてるからな」
うわぁ……こいつ盲目系かよ……。めんどうくさいタイプじゃん。
「そうですか、ま、もう関わることは少ないでょう」
「そうかそうか。ちゃーんと俺の言うことがわかってくれたか」
いやそうじゃないんだけどな。わざと1週間関わりを減らすんだよ。
「権力も、力もないガキが。さっさと帰って母乳でも吸ってな。ハハハハ!」
無視して神殿へ向かう。相手にしてられん。
ーーグリエンタル神殿ーー
とりあえず、計画の進み具合とプギーとのやり取りをダリアに伝えた。
「……」
「あ、あのダリアさん?」
俯いて、鬼の形相をしている。
「ダイダ様のこと馬鹿にしたダイダ様のこと馬鹿にしたダイダ様のこと馬鹿にしたダイダ様のこと馬鹿にした……」
「お、落ち着け! 俺はそんなに気にしてないから!」
そうだった、小言が多いから忘れてたけどダリアって割と狂信者だった!
「ありえませんよ、よりにもよってあのくそ豚に。あんなやつさっさと◯◯して◯◯で、そんでもってごみにまみれて◯◯◯ばいいのよ!」
「だ、ダリアさんアウトアウト!」
あ、あかん。ここはどうにかしないと。俺はダリアを抱き締めて耳元で言う。
「俺は気にしてないから、ね?」
すると
「だ、ダイダ様……」
こちらを恥ずかしげに見上げてくる。やばい。来るものがあるなこの表情。
「あ、あ! そろそろ夕方だな。用事あるから俺はこれで!」
「あ、だ、ダイダ様!」
俺はダリアに背を向けて走り出していた。
ーー冒険者ギルドーー
受付を見ると、冒険者はもうこの時間だと宿へいっているのかどこも空いている。俺はライサを探すが、今日は居ないようだった。
ふと見るとルシアが俺をみて手招きしている。なのでそちらへいくことにした。
「ダロス様、今日は如何しましたか?」
「あ、ああ。この前ライサに依頼を出してな。その依頼を達成した奴らがいるからその褒賞金を届けに来たんだよ」
「ああ、なるほど」
そういってルシアに半金貨5枚渡す。
「……ダロス様ってお金持ちなんですか? どこかの貴族様だったり…」
「いや、違うよ。気軽に接してくれ」
「そうですか、良かった」
ん? 何が良かったのだろうか。
「ところで、今日はライサはいないんだな」
「……ライサは今日は担当当たってないので休みです」
「な、なんだ。どうしたんだ急に」
「私と話ながら他の受付嬢の話をするのはないと思いますが?」
「あ、ああ。ごめん」
なんだ、可愛い嫉妬か。
「じゃ、また今度な~」
「はい、お疲れさまでした」
いい笑顔だなぁ。癒される。
ーー冒険者ギルド、1週間後ーー
さて、俺も安らぎの鐘に泊まっていて気づいたが、客足はもはや完全復帰している。
冒険者たちのざわめきのなかにも噂が聞こえてくる。
「なあ、『安らぎの鐘』ってしってるか?」
「知ってるぜ、あの『春の目覚め』の小隊が宣伝してた宿だろ?」
どうやら、あの小隊は結構有名なところらしい。これは本当にラッキーだった。いい小隊に当たったな。
「ああ、俺も宿を変えたよ。あの鐘の音で目が覚めるのが気持ちいいよな」
「なんだ、お前らも宿を変えたのか。俺もなんだよ」
「ああ、確実に宿街のなかで一番、いや町のなかで一番宿だぜありゃ」
そうか、一番の宿といわれるぐらいに戻ったのか。さらに客足が増えたら、もう復活どころか大人気の宿になるな。
さて、問題はあのデブだがこのまま黙ってみてるわけないよなぁ。どうでてくるのか。




