ガマ毒沼
勇者と魔法使いが殺された。死因は毒である。
斑蛇の群れが二人の死骸の上を這い回る。
毒の沼に鼻まで浸かって気配を殺しながら、彼は浅く溜息を吐いた。
この結末は街を発つ時に容易に予想が出来たからだ。
勇者は魔法使いの忠告を無視して解毒薬を少量しか用意しなかった。
魔法使いが解毒魔法を覚えたのだから無用だと断じたのだ。
馬鹿である。
確かにあの魔法使いのMPは多い。
中級魔法を連射可能な程度には多い。
実際あの魔法使いを回復専属として運用すれば解毒薬は必要ないのかも知れない。
但し、それは勇者一人で毒の沼を踏破出来ればの話だ。
勇者のレベルは20になったばかり。30を越えれば可能かも知れないが、そんな風にじっくりと物事に当たる性格であれば解毒薬をケチったりはしないだろう。
彼の予想と不安は外れる事無く、斑蛇を捌き切れなくなり途切れぬ毒で体力を削り切られて勇者と魔法使いは死んだ。
せっかちな新米勇者と組んだあの魔法使いも不憫な奴だと彼は思う。
それでも、勇者と組むのはそれなりの恩恵があるのだからパーティーを解消はしないだろう。
実際、彼の様な回収技師によって復活を約束されている勇者とそのパーティーは非常に優遇された存在なのだ。
蘇生の儀式を行うたびに莫大な借金を背負い、勇者業から足を洗えないのだとしても、十分に優遇された存在なのだ。
彼はじゃぶじゃぶと毒水を掻き分けて沼のほとりに立った。
フルプレートアーマーの隙間から毒水がだばだば流れ落ちる。
常人であれば即死物の毒水だが、まあ、そこは鍛錬と気合の賜物である。
あとは斑蛇を千切っては投げる簡単で単調なお仕事だ。
我先にと襲い掛かって来る斑蛇を、彼は無造作に掴み取ると引き千切る。
簡単に引き千切るが、勇者がそんな芸当を熟せるようになるのは50レベルを超えた辺りだろう。
結局彼が斑蛇を殲滅するまでに掛かった時間は三十分にも満たなかった。
「おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」
●斑蛇
太さは大人の腕程もあり、長さは一メートル程の蛇型モンスター。
一口噛まれれば死ぬまで毒で苦しむ事になるが、毒自体は市販の解毒薬で簡単に対処できる程度。
好戦的なモンスターで、人を見掛ければ即襲い掛かってくる。
全身を使った締め付けは強力で、子供であれば容易く骨を折られてしまう。