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ヴィタ森林

 勇者が切り殺された。刻み雀の群れに。

 濃密な森林の香りに生臭く鉄臭い匂いが混ざる。

 勇者の装備が銅の鎧だったと言う事が一つ目の敗因だ。

 鉄の鎧であれば……それでも時間の問題だったのかも知れないが。

 一応勇者は奮闘した。

 数百の刻み雀を鉄の剣で切り払い、覚えたての初級火魔法で同じくらいの刻み雀を焼き墜とした。

 今の勇者はレベル10なのだから、刻み雀は十分に格下の筈だ。

 それでも死んだのは最初の五匹を倒すのに手間取ったと言う事だ。

 これが二つ目の敗因。

 刻み雀はすぐ仲間を呼ぶ。際限無く仲間を呼ぶ。

 対処方法は一気に焼き払う事だ。下級の火魔法程度であれば、才能が無い農民ですら簡単に覚えられる。

 覚えられない奴こそ何かの才能が有るのではないかと言うくらい簡単なのだ。

 因みに気配を殺している彼はその手の非常に残念な才能が有る。

 三つ目の敗因は、MPを惜しんだと言う事だろう。

 MPが枯渇しそうなのであれば森林を去るべきだったのだ。

 スライムに殴り殺された時と言い、この新米勇者は無理をするきらいがある様だと、彼は浅い溜息を吐いた。

 失血死した勇者の周りでは未だに興奮している刻み雀が飛び回っている。

 その数は優に五百を超える。

 わんわんと煩い鳴き声と風切り音が森林に響き渡っている。

 刻み雀は肉食性では無いので勇者の死骸を啄まれる心配は無く、この状態であれば他のモンスターが寄って来る事は無い。

 だが、刻み雀の興奮状態は最長で三日も続くと言われる。

 彼単身であれば興奮する刻み雀の群れを突っ切っても問題は無いのだが、それでは勇者の死骸は原型を留めないだろう。

 彼は木陰から一歩踏み出した。

 勇者の死骸との距離は僅か二メートル。

 実際刻み雀は何度も彼の身体を切り刻もうとしている。

 いくら気配を殺しているとは言え気付けよ勇者と、彼はこの新米勇者と己が仕事の展望を心配した。

 彼は腰に下げられた球体から安全ピンを抜いて高く放り投げた。

 数拍の間を置いて球体は爆発する。

 爆発は僅かな火炎と大量の金属片を撒き散らし、周囲の刻み雀はぐんと数を減らした。

 勇者の死骸は大量に飛び回る刻み雀に護られる形でほぼ被害を受けていない。

 彼もまた、そのフルプレートアーマーが全てを防いだ。

 生き残った五十余りの刻み雀が怒り狂って彼へと標的を変更したが、彼がその全てを手刀で叩き落とすのに然程時間は掛からなかった。


「おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」

 


●刻み雀。

 握り拳程の小さな鳥型モンスター。

 小柄故に肉は少ない上に酷く不味い。

 その翼は刃状で、十分に加速した状態であれば骨をも両断する。

 単体であればそれ程の脅威では無いのだが、常に数匹で行動する上、仲間に危害が加えられると周囲の個体が団結して対処する習性がある。

 気性はやや粗いが主食は木の実と皮であるので、大凡無害な部類のモンスターである。

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