アルパ平原
スライムに殴り殺された。勇者が。
その不定形な身体を巧みに操り、勢いをつけて頭部を捉えたのだ。
スライムながらに見事な体捌きである。
仕方の無い事ではあるのだ。勇者はまだレベル1なのだから。
しかしながら。レベル1なのだから無理な連戦を避けるのもまた道理ではあったのだ。
彼はそう思って浅く溜息を吐いた。
彼が身を隠しているのはだだっ広い平原である。
スライムと、稀に草原兎が出現するこの草原はそれ程危険な場所では無い。
如何に新米勇者であるとは言え、何故スライムに殺されてしまうのか。
熟練の回収技師である彼には不思議でならなかった。
彼の視線の先、凡そ七キロ先で、スライムが勇者の死骸を吸収しようとその身体を広げた。
流石に跡形も無く消化されてしまっては蘇生出来ない。
仕事をしなければならないかと、そう呟いた彼は立ち上がるのと同時に殺していた気配を解放した。
この平原に出現するモンスターは弱い。
彼が気配を殺してしまえば彼に気付かない程度には弱く、彼が気配を殺さなければ近寄らない程度には弱い。
スライムは逃げた。
彼は七キロ先に横たわる勇者の死骸に向かって歩き始めた。
「おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」
●スライム
不定形で色彩は多彩。
殆どの場合人に被害を及ぼす事は無いが、稀に肥大化した個体が家畜を丸ごと呑み込む被害が報告さる。
不定形であるのに何故か打撃系の攻撃が通用し簡単に倒せるのだが、時折身体を圧縮して突撃して来る。当たり所が悪いと骨を折られる事もあるので注意が必要。