九
翌週の水曜日、二時間目が終わってから、しばらくぶりに正樹からメールがあった。送信者を見て、内容を見るまでに実に一時間要した。もちろん、すぐに授業が始まってしまい携帯を弄れなかった、という理由もあるが、それよりも、度胸がつかなかった。
放課後に、少しだけ話がしたい。
昼休み、トイレに篭ってようやく読んだ彼からの言葉は、それまでのような絵文字のひとつもなく、切迫しているようにも、無愛想にも見えて、思惑が、判然としない。
しかし逃げ出すより早く、放課後、彼は私を捕まえた。
ひと気のない体育館裏に連れて行かれて、何かと思えば、
「ごめん」
彼は深々と頭を下げて、何度か、そう繰り返した。
わけがわからなくて、言葉を発することも、考えることも、ままならない。
「俺、間違ってた。ちょっと、ふらついたんだ。自信が無かった。だから一回距離を取りたいって思って……、でも、そんなの、自分本位だよな。俺のことしか考えてない行動だった。絶対、傷つけたと思う。嫌いになったかもしれない。でも、もしよければ、俺と、やり直して欲しい」
両手が、無意識に口を押さえる。
でも、抑えられなかった涙が、無意識にするすると流れてしまう。
私は深々と、こくこくと、何度か、そう繰り返した。