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六
店内に入って僅か十分足らずだ。
お互いの名前すら知らない。私が恋人に振られぬいぐるみを求めたことと、彼がぬいぐるみを作っている、という話しか、していない。
それなのに、譲ってくれると言う。
「ごめんね、唐突だったよね。実は僕、この子たちを最後に、ぬいぐるみ作りはやめようと思っているんだ。そういう意味でも、特別なんだよ」
「やめてしまうんですか?」
「うん。作りたいと思えるものが作れた。満足してしまったんだ。ほかにもやりたいことがあるし、いい区切りだと思って。だから最後のこの六体は、それぞれこれと思える人たちにあげようと、多分、最初からそのつもりだったんだ」だから、と彼は続けた。「貰って欲しい。出来たら君に」
優しい。と思った。
同時に、優しさの押し付けだ、とも思った。
でも私は、そういう押し付けがましい優しさに、飢えていたのかもしれない。