主人公と一緒に旅立つ受付嬢の裏側は大体こんな感じ。
「お疲れ様です」
受付嬢はありきたりな言葉を述べた。嘘の作り笑いをある一人の男性に向けていた。
その男は豪華な服を着ている。おそらく貴族なのだろう。顔も整っているのだろう。
「有り難う僕のラナ。最高に愛してるよ。今夜ディナーでもどうだい?」
「別に貴方のモノではありません。クーゼ様。それにディナーは遠慮しておきます」
どうやら、貴族と思われる男が一方的にアプローチしているようだ。彼女は心底ダルそうな瞳をクーゼと呼ばれた男に向けた。
しかしクーゼはそんなことも気にはせずにアプローチを続ける。そんな彼らに近づく影が一つ。
「あっ、誰だお前?」
「早く退いてもらえないか?報酬の確認をしたいんだ」
ローブを深くかぶりカツカツと彼女の居るカウンターに向かってくる。彼女はローブに視線を向けるがまたもやダルそうな瞳を向けた。しかしローブはそんな視線に気づかない。
「ちっ、お前か………」
クーゼは少し舌打ちをすると潔く去っていった。ローブは彼女のいるカウンターまで来るとドカッと乱暴に袋を置いた。彼女がギルドカードを出してください、と言うとローブは懐から黒のギルドカードを取り出した。
このギルドには階級と言うものが存在する。白、青、緑、黄、赤、黒、銀、金と8つの階級に分けられている。このギルドの平均の階級は緑なのでローブさかなり強いと言えるだろう。
「どうだ。俺を認めてくれたか?」
どうやらローブも彼女にアプローチを掛けているようだった。しかし彼女はまるで大人数のなかの一人を見ているようだった。
「コレでも認めてくれないのかよ。ギリレウスの鱗だぜ、危険度A級のバケモンだぞ」
「別に強い魔物を倒したからって認めると思いますか?私はそんな尻軽ではありませんので。………それに私には決めた人がいますから」
彼女は一瞬微笑むと、また営業顔に戻る。報酬を渡すとローブは「諦めないぞ。いつかお前を振り向かせる」と言い、ギルドを出ていった。
彼女は嵐が去ったかのような気持ちになりホッと息を吐いた。そして誰も気付かれないように窓際に目を向けた。そこには本を読む眼鏡をかけた男の子がいた。いつも大人しくギルドの端でちょこんと座り果実の絞り汁を飲むか、今のように本を読んでいる。見た目は15、6才位だと彼女は予想している。彼女の年齢は15。かなり年は近い。ランクは白。だけどすごく強い。おそらく金ランクといい勝負が出来るくらいに。
そんな彼に彼女は一度だけ助けられたことがあった。
それは今から6年前。彼女が9才だった時だ。彼女は森で薬草を摘んでいた。そんなとき彼女は一匹の魔物に教われた。《異界の残虐兵》と呼ばれたAの魔物だった。魔物にも階級があり、E、D、C、B、A、S、特級、災厄の8つのランクに分けられている。魔物はBランクからとても強くなる。Aランクの魔物は普通パーティーが組まれるほど強いのだ。
そんな魔物に彼女は会ってしまったのだ。彼女は死を覚悟した。
しかし、死ななかった。何故か?それはあの眼鏡の男の子に助けられたからだ。自分と同じくらいの男の子がAランクの魔物を圧倒していた。
彼女は驚くと同時に憧れ尊敬した。彼はなにも言わず森の奥深くに入っていった。しばらくすると何人もの屈強な男たちが何人もやって来たのだが《異界の残虐兵》が死んでいることに皆驚いていた。
しばらくして最初にきた男が自分が倒したと豪語し始めた。彼女は最初は違う、と言いたかったのだがここで嘘つきの男を否定したら何をされるかわからない。
本当にこの男が殺ったのかと言う他の冒険者問いに服の裾をギュッと掴みながらも首を縦に降ってしまった。その時の嘘つき男の卑猥めいた醜い顔が気持ち悪い程に歪んでいた。私はコイツと同格になったのか。と彼女は悲しさよりか悔しさが込み上げてきた。
その後彼女はギルドに預けられ受付嬢となった。彼女が受付嬢になったとき彼がいることに歓喜を覚えたが、同時に驚きもした。彼は白ランクだったからだ。Aランクを一人で倒すほどなのでかなり高ランクだと予想していた彼女はかなり驚いたのを記憶している。
彼女は彼に話しかけようと立ち上がったのだが先輩の受付嬢に止められてしまった。理由は簡単。彼が単純にランクが低いからだった。
受付嬢が冒険者に名前を聞くときはアプローチと言う意味があるらしい。顔も整っているのだからもっと強い冒険者にアプローチしなさいと言われてしまった。
オススメはあの人と指名されたのはあの卑猥な冒険者だった。両腕に女を囲ませている。何であんなやつにと思ったのだがあの冒険者はこちらの視線に気が付いたのか顔を醜く歪ませてきた。
先輩の受付嬢はカッコいいとか言っていたのだが、この時彼女は見る目が無いなと思ってしまった。
彼女には嘘つき冒険者より白ランクの彼の方が何倍もカッコよく見えた。
しかし、もう彼には会えなくなってしまう。翌日にはここを出ていくらしい。何でも王都市に用があるみたいだ。彼女は急に悲しくなる。
そんな彼女の心に気付いていた先輩の受付嬢は彼女に言った。
「そんなに好きなら着いていけばいいじゃない」
「えっ、でもそれじゃギルドが………」
「一人くらい抜けたって大丈夫よ。ほら、グズグズしない!」
「でも………」
「大丈夫って言っているでしょ。ギルドマスターには言ってあるからね」
「えっ」
「何年あなたを見てきたと思っているのよ。感情を読み取るくらいできるわ。あの眼鏡の子が好きなくらい嫌なほどわかる」
「………」
「あなたには幸せになってほしいのよ。私も他の受付嬢もギルドマスターも」
いつの間にか彼女の目には涙が溜まっていた。今にも泣き出しそうな目を下唇を噛んで必死に耐えている。
「そんな無理しなくても良いのよ」
そんな彼女を見かねて先輩の受付嬢は諭すように言った。ついには胸に飛び込み泣き出してしまった。
そんな彼女を先輩の受付嬢は微笑ましくなで続けた。
最後まで読んでくださりありがとうございました☆⌒(*^∇゜)v