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はるあらし  作者: 雨咲はな
本編
31/45

31.希望の形



 ハルさんを自宅に送り届けてから家に戻ると、塀の周囲を巡らせるように、ぐるりと車が列を成していた。

 桜庭宴の招待客たちが帰る時間帯だったらしい。迎えに来た黒塗りのハイヤーやら高級自家用車やらが並ぶ中、きらびやかに装った客たちが立ち話をしたり乗り込んだりしている。

 ちょうどよかった、とおれはなるべく目立たないように車でその脇を通り抜け、そのまま、自宅車庫のほうへと廻った。

 薄暗い庭を通って、会場のほうへと向かう。その途中、スマホが着信音を鳴らした。

 少し驚き、歩きながら耳に当てると、

「よう、哲ちゃん! 俺だよ元気?」

 やけに場違いな、明るい声が飛びだしてきた。

「……葵、どうしてお前は毎回こうタイミングよく電話をかけてくるんだ? まさかおれを見張ってるんじゃないだろうな」

 心底不思議になって問いかけてみると、葵は怒りもせず、不審がりもせず、あははーと楽しげな笑い声を立てた。

「よく言われるんだよねー、それ。女の子にも、『今ちょうどかけようとしていたところだった』って感激されるもん。ほら、俺って気を遣うタイプだからさあ、無意識の領分でもそれが出ちゃうのかな」

「まあ、一種の才能だよな」

「でしょ? でも、こっちに電話がかかってくるのは、いつもタイミング悪いんだけどね。誰かとデートしてる時、なぜか絶対に彼女から電話かかってくるし。あれって、何回経験しても慣れなくて、心臓に悪いんだよねー」

「…………」

 それは無邪気に笑いながら言うようなことではない。ついでに言うと、タイミングが悪いのではなく、葵が悪いのである。ちなみに、この場合の「誰か」と「彼女」という言葉を指す人物は、どちらも複数いるのだろうと思われる。友人としての葵は、本当にいいやつなんだけどなあ。

「タイミングよく、ってことは、何か進展があったってこと? 哲さー、いつハルさん連れてうちの店に来るんだよ。俺、ずっと待ってるんだけど」

「ああ、そうだな……」

 そのうち、ハルさんを店に連れて行ってもいいか、と。

 確かに、葵にそう言った。

「忘れてるわけじゃないよ」

「あれから、ハルさんに会ってないの?」

 あれから、って、どれからだっけ、と考えて、そうか「深雪との話し合いから」か、と思い当たった。そういえば、葵にはまだあの後の成り行きを話していなかった。

「ハルさんとは、ついさっきまで会ってたところだ」

「なんだ、そうなんだ」

 葵はきっと、おれがヘタな行動に出て、ハルさんを怒らせたり、ぎくしゃくしたりすることを心配していたのだろう。おれの返事に、安堵したように笑った。

「じゃあ、上手くいってるんだね」

「うーん……」

 おれはスマホを耳に当てながら、頭に片手を置く。現在の状況を、「上手くいっている」と言ってもいいのかどうか、非常に悩むところだ。

 言葉を濁して、曖昧に視線を周りに向けると、まだライトアップされて白く輝いている大きな桜が、ここからでも見えた。

 桜──そうだ、おれは、あの児童公園で、ひとつ思いついたことがあるんだった。

「……あのさ、葵」

「うん?」

「明日、ヒマか?」

「日曜日? うーん、まあ、店のほうは別に俺がいなくても何とかなるけど。なに、メシ食うの? 酒飲むの?」

「いや」

 桜の木からひらひらと零れ落ちていく花びらを見ながら、おれは言った。

「──もしよかったら、ちょっと、買い物に付き合って欲しいんだけど」

「買い物?」

 葵が面白そうに笑う。

「女の子みたいなこと言うね、哲」

「この場合、おれよりは絶対お前のほうが経験豊富で、仕事柄、そういうのも目利きだろうから、いろいろと相談に乗ってもらいたいと思って」

「相談って?」

「だからその」

 ちょっと赤くなる。

 葵のやつ、判ってて聞いてないか。声にものすごくわざとらしいものを感じるのだが。

「……女性へのプレゼント、について、とか、そういう」

 ぼそぼそ言ったら、向こうから、くくくっと押し殺した笑いが伝わってきた。

「うん、女性へのね」

「得意だろ」

「そりゃ、女の子の気持ちが判らないと、こんな商売やってられないでしょ。でも、哲もそういうの、特に苦手ではないと思ってたけど」

「無難なものなら、選べる」

 たとえば、大多数の女性が喜びそうなもの。不愉快な気分になることなく受け取ってもらえるようなもの。珍しいもの、高価なもの、可愛いもの、の範囲で、適当にポイントを外さず無難なプレゼントを用意することくらいは出来る。

「なるほど、今回は、『特別』なんだね」

 葵は笑って言うと、じゃあ明日、と快諾した。



 その後、素知らぬフリをして後片付けでごった返している会場に戻ると、母親に「まあ、哲秋さん」と驚いたように声をかけられた。

「あなた、どちらにいらしたんです」

「どちらにって?」

 しれっと問い返す。離れた場所で、テーブルの銀皿の上に残ったフルーツをつまんでいた愛美が、可笑しそうに笑いを噛み殺しながら、こちらを見ていた。

「みなさん、お探ししていたんですよ。ご挨拶したいのに、哲秋さんのお姿が見えないと」

「そうですか? 変だな。おれ、ずっとここにいましたけど」

 母親は疑わしそうな表情をしたが、じろりとおれの全身を上から下まで一瞥するように眺めまわしただけで、それ以上の追及はしてこなかった。

 あれ。意外とあっさりだな。

 と思ったが、もちろんそれならそれで助かるので、口にはしないでおく。

「お客様に、ちゃんとご挨拶はしましたか」

「しましたよ。ご存知でしょう?」

 最初のうち、あちこちを廻っている姿を母に見せていたのは、そのためだ。不承不承という感じで頷いた母は、今度は少し窺うような上目遣いになった。

「……今日は、若い女性も多くお呼びしたのですけど」

 集団見合いについての探りを入れることにしたらしい。おれは、はあ、ととぼけた。

「そういえば、多かった気がしますね」

「お話はされましたか」

「一言くらいです」

「どなたか、感じのよいと思われるかたはいらっしゃいましたか」

「それが、なにしろ」

 おれは白々しく、にっこり笑った。

「数が多すぎて。どなたの顔も名前もほとんど覚えられませんでしたよ。どの女性も、似たような雰囲気でしたしね。まあ、あえて言うなら、いちばん美しかったのは──」

「美しかったのは?」

 母親がぐぐっと身を乗り出す。

「桜ですね」

 それだけ言うと、ぽかんとする母親を置いて、おれは愛美のいるところへ向かった。パーティー開始からほとんど何も食べていないので、今になって空腹に気がついたのだ。

「行方をくらましてた時間のことを、お母さんに尋問されてたんでしょ」

 残り物の料理を適当に皿に乗せて食べ始めたおれに、愛美がくすくす笑いながら言った。

「まあね。でも、そんなにうるさく問い詰められなかったぞ」

「そりゃあ、そうよ」

 楽しげに笑って、おれの肩に手を伸ばす。何をするのかと思ったら、愛美が軽く触れただけで、ほろほろと二、三枚の花びらが空中に舞った。

 ああそうか、と納得した。

 だから母親は、おれの「ずっとここにいた」という言い分に、反論できなかったのか。



          ***



 翌日、家を出ようとしたところで、ちょうど兄の妻の蒔子さんとばったり会った。

「あら、お久しぶりねえ、哲秋さん」

 おっとりとした声で挨拶をする蒔子さんは、品の良い和服姿である。子供の頃から着慣れているだけあって、色も柄も嫌味がなく、よく似合っている。ただ蒔子さんは小柄で童顔なため、子持ちの人妻であるわりに、しっとりとした色香とか色気というものはあまり漂ってはこない。

「七五三みたい、って思ってるでしょう」

 まだ何も言ってないのに、にこにこ微笑んだ蒔子さんに指摘されて、慌てた。

「いや、そんなことは思ってませんよ」

「さとちゃんは、わたしが着物を着るたび、いつもそう言うのよ」

「失礼な兄で申し訳ない」

「でも、その後で必ず、『蒔ちゃんはそういうところが可愛いんだ』って言うの」

 結局ノロケか。毎回思うのだが、蒔子さんの前にいる時の兄は、ただのアホである。

「今日はどうしたんですか、義姉さん」

「ええ、お義母様のお供で、お茶の会に」

「ははあ……」

 昨日が花見の会で、今日がお茶の会か。あの母も、忙しい人だな。もちろん、それらはすべてが遊びというわけではなくて、「桜庭唯明の妻という仕事」としての側面も持っているわけだが。後継者である兄の妻の蒔子さんも一緒に連れて行くということは、今日のお茶会は、そちらのほうにより重心が置かれている、ということなのかもしれない。

「子供たちは?」

「実家のほうに預けてきたの。父と母は、こういう機会をむしろ喜んでいるみたいよ」

「それならよかった」

 どうせ母のことだから、お誘い、なんてものではなく、有無を言わせない命令だったんだろうからな。蒔子さんは、外をあちこち出歩くよりは、子供たちと一緒にのんびりと過ごしたいという性格だから、まだ小さい息子と娘を残して出かけるのは、いろいろと心苦しいだろう。その点、彼女の実家は大きな病院で、うちでいうスミさんのような信頼できる昔ながらのお手伝いさんもいるという話だから、まだしも幸いだ。

「母と一緒のお茶会は、何かと疲れるでしょうけど」

「あら、そんなことないわ。久しぶりだもの、楽しみにしてきたのよ」

 蒔子さんはほんわかと笑って言った。裏表のあるような人ではないので、彼女がそう言うのなら、そうなのだろう。

 兄いわく、「蒔ちゃんが一と言ったら、そこには本当に一しかない。その裏に、二や三が隠れているということはない」そうである。

「兄さん、最近は忙しいかな」

「いつも忙しいわねえ」

 そりゃそうか。

 電話をかけようと思っていたのだが、仕事中に忙しなく用件を話すより、家に帰ってゆっくりした時にでも蒔子さんから伝えてもらったほうがいいかな、とおれは考えた。

「義姉さん、時間のある時でいいんですけど、兄さんに、父さんのスケジュールを少し空けてもらうよう、おれが頼んでいたと伝えてもらいたいんです。出来れば、家族で話す時間を持ちたいので」

「あら」

 蒔子さんは、ぱちりと瞬きをしてから、にこっとした。

「もしかして、哲秋さんのおめでたいお話?」

「いやいや」

 急いで手を振り否定する。

「おれじゃないですよ、愛美の将来に関することで」

「そう、愛美ちゃんの? 判りました、必ず智さんにその旨お伝えしておきますね」

 蒔子さんはしっかりとした声で請け負ってから、再び、ふにゃりと表情を崩した。

「それで、哲秋さんのほうは? お見合いして、お付き合いされていると聞いたけど」

「…………」

 ちらっと蒔子さんの顔を観察してみたが、そこにはなんの屈託もなかった。兄はどうやら、おれの見合いの話くらいはしていても、菊里商事にまつわる何事かは妻に話してはいないらしい。まったくガードが固い。こちらからも聞きだすのは無理そうだ。

「まあ、それなりに」

「それなりに」

 繰り返して、また笑われた。蒔子さんは意外と人が悪い。

「──義姉さん」

「はい?」

「聞いてもいいかな。義姉さんは、兄さんとの結婚を決めるにあたって、何かきっかけとか、理由とかは、ありましたか」

「そうねえ」

 おれの唐突な問いに、蒔子さんは困る様子も見せず、どこか嬉しげに、薄っすらと染めた頬に手を当てた。

「本当はねえ、わたし、桜庭のご長男との結婚なんて、まったく考えていなかったのよね」

「え、そうなんだ?」

 驚いて、思わず言葉遣いがくだけた。蒔子さんが、ふふふと笑う。

「だって何かと大変そうだし。わたし、ちょっとボンヤリしてるでしょう。とても務まらないと思ったのよね。それに、お見合いの席でのさとちゃんったら、ものすごく不機嫌そうに、怒ったような顔でムスッとしてるし。こんな怖そうな人、わたしには無理だわ、って」

「…………」

 母親に無理やりさせられていた、十六回目の見合いだからなあ、とおれは兄に同情した。

「それでね、その印象がどうして変わったかというとね」

 蒔子さんは嬉々として話を続けた。目がキラキラ輝きだしている。

「そのお見合いの時に、さとちゃんがね」

「……あの、自分から聞いておいてなんだけど、その話、どれくらい時間がかかりそうかな」

「半日くらい」

「…………。すみません、次の機会にお願いします」

 おれがそう言うと、蒔子さんはええーっと残念そうな顔になった。いや無理でしょ、そんな時間はない、という現実を置いておいても、これから半日間延々とノロケを聞き続けるのは。

 うーん、と難しい表情になって考え、蒔子さんは出来る限り短く結論を述べてくれた。

「とにかく、一言で言うとね」

 やんわりと目を細める。


「……この人と一緒なら、苦労をしてもいいかな、って思ったのよ」


「…………」

 ──そうか。

 蒔子さんは、見るからに善人の「お嬢様」である。生まれた時から頑丈な箱に囲われ、汚いことも醜いことも知らずに育ったような女性だ。だから兄は、やはりこの妻を、痛みや苦しみのようなところから切り離し、見せないようにして、掌中の珠のように大事に守っているのだと思っていた。

 結婚する、っていうのは、そういうものなのかなと。

 でもそれは、おれの独りよがりな考え方だったんだな。結婚の形は様々で、外から見えるものがすべてとは限らない。一方が一方を守ることによって成り立つ夫婦もあるだろうけれど、兄と蒔子さんは、そういうものじゃなかった。

 ちゃんと、お互いに支え合っている。

「……うん、ありがとう」

 それは、今のおれが望む「結婚」というものの姿に、いちばん近いかもしれない。



          ***



 少し迷ったが、葵には、「もうすぐハルさんの誕生日だから、プレゼントを探したい」ということだけを言った。

 ハルさんとの現在までの経緯を話すとなると、彼女の父親のことや菊里商事の過去のことまで言わなければ、葵は納得しないだろう。でも、ハルさんが黙っていて、おれも表面上は知らないことになっているその件を、友人とはいえ他の人間に話すのはいけないような気がする。

「プレゼントって、大体、目星はつけてんの?」

 と葵に訊ねられ、おれは頷いた。

「ピアスにしようかと思うんだ」

 その返事に、葵は「うん、いいんじゃない」とあっさり賛成した。

「女の子へのプレゼントとしては、そのあたりがいいよね。ピアスなら、そんなに趣味の悪いもんじゃなけりゃ使ってもらえるだろうし」

 ちなみに葵もピアスをつけている。もちろんシルバーだ。

「それでさ」

 と、おれは続けた。


「──桜のピアスがいいんだ」


「桜?」

 葵がきょとんとして、それから考えるように顎を指でなぞった。

「桜のピアスかあ……時期だしね、あるとは思うけど。でも正直、そこまでデザインを限定するのなら、ネットで探したほうが早いよ」

「けど、実際自分で見ないと、良し悪しなんて判らないだろ?」

「まあそりゃね。とにかく、いくつか店を当たってみようか。予算はどれくらい?」

「そこなんだ」

 がしっと葵の腕を掴む。そこが全然判らないから、おれはわざわざ応援を頼んだのである。

「今ひとつ、基準が判らない。どれくらいのものを買ったらいいんだ?」

「どれくらいって……哲は幾らくらいを考えてんの?」

 葵に聞かれ、率直に答えたら、「バカじゃないの」と一蹴された。

「高すぎ!」

「え、でもさ、やっぱり質のいいものをって考えるとこれくらいに」

「それにしたって程度があるでしょ」

「普通はどれくらいなんだ?」

「せいぜい万札一枚二枚で済むくらいだよ」

「だってハルさんは大人の女性だぞ? 子供のオモチャを買うわけじゃないんだし」

「誕生日プレゼントでしょ? 一生の記念になるような宝石を買おうってんじゃないんでしょ? それとも高価なモノで釣ろうって作戦?」

「そんなわけないだろ。こう、あくまで、軽くさりげなく……」

「深い仲でもない男に、そんな金額のピアスを軽くさりげなく差し出されたら、女は喜ぶどころか引くね。ドン引き」

「そ、そうなのか……」

 やっぱり、葵に付き合ってもらってよかった、とほっとする。

 葵はそんなおれを、奇妙な生き物でも見るかのように、サングラス越しにまじまじと見つめた。

「……哲、今までの彼女には、誕生日とかクリスマスとかにプレゼント渡したことって、ないわけ?」

「あるよ」

「そういう時はどうしてたのさ」

「いつも相手が『この店のコレがいい』って細かく指定してきたから、それを買ってた」

「…………」

 葵は何度も首を振って、はあーっと深い溜め息をついた。



 桜のピアスはあちこちにあったが、葵がひとつずつ、「高すぎ」「地味すぎ」「色が悪い」とダメ出しをするので、ちっとも決まらなかった。おれにしても、桜の形をしたピンク色の小さなピアスは、どれも悪くないように見えて、なかなか決められない。

 これがハルさんの耳についたら、どんなに可愛いだろうと思う。春の子ハルさんにぴったりだ。

 ほんのり色づいた桜のピアス。決して散ることもない、枯れることもないそれを身につけて、ニコニコと笑うハルさん。


 ──それはまるで、「希望」というものを形にしたような光景に思えて、想像するだけでワクワクする。


「蝶々のピアスもあるじゃん。これも春っぽくていいと思うけど」

「蝶はダメ。葵、これは?」

「形がちょっとな……哲は、ハルさんにはどういうのが似合うと思うのさ」

「ハルさんにはなんでも似合う」

「哲はホントにバカなの?」

 などと言い合いながら見ているうち、こちらに向けられる店員や他の女性客の視線が、妙なものであることに気がついた。アクセサリー売り場に男二人というのは浮くだろうし、そもそも葵は目立つ容貌をしているからだろうと考えていたのだが、それにしちゃ、クスクス笑いまでが含まれている。


「……じゃない?」

「ええー、ホントにいー?」

「片方はいかにもって感じだけど、もう片方は普通だよ?」

「だからそういうもんなんだって。リーマンと自由業の組み合わせって、けっこー鉄板な……」


「…………」

 後ろでヒソヒソ楽しそうに話している女子高生たちの会話を耳にして、なんとなく、おれたちが注目されている理由が判った。

 おれはわざとらしく、ゴホンと咳払いをした。

「えーと、葵、買い物が終わったら、何か奢るから。好きなだけ食べて飲め。な?」

「……哲ちゃん……」

 隣の葵は、不気味なくらい静かに、遠い目をして薄く笑っている。

「これでハルさんと上手くいかなかったら、俺、真剣に怒るからね?」

 ドスの利いた声で、脅された。




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