出会い-5
「は…?」
上野氏の言葉に二人は呆気にとられる。
「野球やったこと無いって、今やってるじゃないですか」
「言葉が悪かったか。…あいつは『バッティング』という競技は達人だが、九人でやる『野球』という競技をやったことは、ただの一度もない」
上野氏は感慨深そうに語る。
「五歳の頃に初めてここに来てバットを握ってな。今でも忘れん。それから取り憑かれたように通い詰めてきて、小学校に上がる頃にはここで一番速かった130キロを前に弾き返すようになってた」
「130!?」
「毎日来るもんだから可愛がってたんだが、その段になると少し悔しくなってきてね。なんとか負かせてやろうと昔の職場の施設を借りてオリジナルのピッチングマシンを作るようになった。でもその日のうちにバカスカ打ちまくられてね」
上野氏の『パンダ』を見る目は息子への眼差しのようだった。
「もう連日リトルやら私立校やらの関係者がしつこく勧誘に来たんだが、野球には関心が無くてね。もったいない気もするが、全部追い返しちまった。それならせめてあいつには人間以上のボールを打たせてやろうと、あんな化物マシンになったんだ。ほら、見てみなさい」
二人は『パンダ』の打席を注視した。
通常よりかなり大きいマシンには防護用のネットが厳重に張られている。
放たれる球も通常と異なる。
まず何の前触れもない。突然マシンからボールが放たれる。一定のテンポでもなく、時に息もつかせぬほど、時に間を取って。マシンとは思えない伸びのある速球や、ブレーキの利いたカーブ。コースまでランダムだ。
しかしそれより異常で異様な存在がパンダだった。
「全部真芯で捉えてる…!」
一球たりとも、打ち損じが無い。ボールについた傷による不規則な変化も、あわやデッドボールの内角球も、巨体を驚くほど柔らかく使って弾き返す。
殺人ライナーが何度もネットを破ったのであろう。いたるところに補修の跡があった。
「外で打たせたら、さぞホームラン連発なんだろうな」