出会い-4
戦慄に近かった。
空気の震えが直にビリビリと感じられた。
「…何だ今の」
「…ったく、何度聞いてもビビるわこの感じ。そっか、ミキリンここ来たことないのか。今のは何というか…ここのバッセンの主みたいなもんだ」
「こんな打球音、久我峰でも全国でも聞いたことない」
「見てみる?」
理一が尋ねる。
「隣のケージだ。すげえぞ」
凛太郎は頷いた。
スペースを出てすぐ右、一番端のケージに轟音の主はいた。
異様な男だった。
まず、でかい。身の丈180センチは優に越えている。それだけではなく横にもガッチリしていてまるで熊のようだ。
それでいて野球をしているにしては日焼けをしてない、白い肌。そして屋内にも関わらず何故かサングラスをかけていた。
「…パンダみたいだ」
凛太郎がそう言うとまたも理一が吹き出す。
「アハッ、ミキリンそれ的確!確かにでかいパンダが笹振り回してるようにも見えるわ」
「どこの人なんですか?あんなバッティング初めて見た。すごい有名人だと思うけど」
「…それが全然分かんねーんだわ」
理一は頭を掻いた。
「何回か話しかけてみたんだが全然答えてくれねーし。それよりさ、気付いたかあのパンダが使ってるマシンの異常さ」
言われてピッチングマシンを見てみると、確かにおかしい。
「すごく速い。こんな速いマシン初めて見た。しかもランダムに変化球も混ざってる」
「150キロだ。ワシの自信作なんだが、打ってみるか?」
突然後ろから声がした。
振り返ってみるとそこには店主のおじいさんが立っていた。
「カーブにフォーク、シュート、チェンジアップに加えてスライダーは大小三種類。これをランダムに投げ込むオリジナルマシンだ」
「あ、こんちわ!おじさんお世話になってます!」
「ああ理一君か。隣は…お友達?」
どうやら顔見知りのようだった。
「そうッス!ミキリンです!あ、彼女じゃないですよ!」
「余計なこと言わないでください!…初めてまして、三城凛太郎といいます」
「店主の上野です。元はスポーツ用品会社のミズキで技師をしてて、あんなマシンを作って遊んでるというわけで…いやあうるさくてすいませんね」
「いえ、それよりあの人どこのチームの人なんですか?多分学生だと思うんですけど」
「ああ…あいつね。あんまり話すなって言われてるんだけど…」
上野氏は少し間を取って、こう言った。
「…実はあいつ野球やったことないんだよ」