出会い-3
横手から放たれた白球は、過たず理一のミットにパンと音を立てて収まった。
「おお…」
理一が唸った。
「都立中の平凡な軟式野球部で正捕手を務めた俺から言わせてもらうと…」
「…どうでした?」
「…しょぼっ!!」
理一はそう言うと凛太郎の投球より速くボールを投げ返した。
「フォームがそれっぽかったから期待してみれば…今の100キロも出てたか怪しいぞ。本気か?」
「もちろん全力投球ですよ!」
「セカンドの送球でももうちょい速いわ!お前これで久我峰シニアの背番号貰ってたのかよ。ポジションどこだった?」
「二遊間とファースト。たまに外野と三塁かな。あ、ブルペンだけだけどキャッチャーもやってました」
「全部じゃねーか!」
「…全部やらないと、生き残れなかったから」
そう言うと凛太郎は目を伏せた
。
「…あー、便利屋てやつか。噂には聞いてたが、ガチでやってたのな」
昔を思い出すような目になる理一。
「お前昔から器用だったし。ピッチャーのフォームも始めたばっかにしちゃ様になってる」
けどな、と続ける。
「お前は練習すればそこそこのピッチャーになれるかもしれねえ。でもそれじゃ他のポジションと同じだ。決してエースにはなれない。エースってのはナンバーワンだ。ナンバーワンにして、オンリーワンってのがエースだ。あいつを見てきたなら、お前にも分かるだろ?」
あいつ。
小学校来の凛太郎の親友。理一とバッテリーを組んだこともある、本物のエース。本物の才能。
「…投げたいんだ」
「ん?」
「投げたいんだ。マウンドで。チームを背負って、視線を、期待を集めて、グラウンドのど真ん中で。あいつに誘われてなんとなくやってた野球で、初めてこんなに強く思えたんだ。脇役が嫌じゃない。そんな振りをして、分かりきった振りをして、野球をやるのはもう嫌なんだ。だから」
凛太郎の目は決然としていた。
「エースになりたいんです」
しばらくあっけにとられた理一だったが、すぐに吹き出した。
「ブハッ、いや、すまん笑っちまって。お前がそんなに思い詰めてるとは知らなかったもんでな。さっきあんなこと言ったが、まだ始めたばかりだし。先のことなんか分かんねえよ。存外、スーパーエースになっちゃったりしてな」
「僕は真剣に――」
「だからごめんってー!茶化したみたいになってよ。あんまり意外だったもんで…あ、それと」
理一が顔をしかめる
「エースが全部背負うとか、んな勘違いはすんなよ!俺達キャッチャーだっているんだ。バッグを守ってる七人も、ベンチも、スタンド応援だって、みんなやってきた結果をみんなで背負うのが野球だ。全部背負うなんて言いやがるワンマンエースの球なんざ受けたくねえよ…とまあさておき」
一転笑顔の理一。
「今日は付き合ってやるから好きなだけ投げろよ。これから本気でバッテリー組むなら俺にも大いに関係ある話だしな。よっしゃ、目指せ甲子園ーー」
その時だった。
ギィン!!
耳をつんざく強烈な打撃音が、バッティングセンター全体を震わせた。