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プロローグ
八月の太陽が空高く地を照らしていた。
全国シニア野球選手権大会決勝。
そのグラウンドを支配していたのは、アンパイアでも、夏の暑さでもなく。
一人のピッチャー。
見上げるような長身が驚くべきしなやかさで大きく捻られ、背中のエースナンバー「1」が打者を威圧する。
鋭く、荒々しく、トルネードから繰り出された左腕が唸りを上げ、次の瞬間破裂音を立て白球はミットに収まる。
吼えず、騒がず。ただ淡々と。獅子のような眼差しで。
完全無欠のエース。マウンドの王者。
セカンドから、外野から、時にはマスクをかぶって、僕はあいつの姿を見続けてきた。
見てるだけだった。追いつこうとも思っていなかった。夢だと笑い飛ばした。
でもいつしか、思いは大きく、強く僕の中で膨らんだのだった。
―――「エースになりたい」と。