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戦国ロリポップ  作者: カノン
第壱章 不思議な二匹
9/11

第捌話 敵は…狸と猿ですか!?

しかし、そこで屋上に幾つもの人影が落ちる。

まるで忍者のように黒装束を着た彼らは出入り口から始まり、遠間隔で円を描くように並ぶと千代と政宗を取り囲んだ。


「何、この人たち…」


「千代、俺から離れるな」


後ずさる千代を庇うように威嚇する政宗の顔が、一気に緊張を帯びたものに変わる。只ならぬ気配に、千代が胸の前で手を握りしめていると、背後で蠢く何かに気付く。


「っ!……え?」


千代が反射的に振り返って見たものは…フェンスの上に立つ『狸』と『猿』だった。

野生ではないのか、和服にも見える小さな服を着た狸と猿は、まっすぐに政宗を見つめていた。


(か、可愛い!)


この緊迫した状況の中、千代が呑気に頬を赤らめていると、狸が口を開く。


「久しいのう…伊達政宗」


「狸が喋った!?」


狸の口から紡がれた人の言葉に千代が驚きの声を上げると、政宗は周りを取り囲む者たちを警戒しつつ振り返る。

そしてそこにいた人物…もとい狸と猿に目を見張る。


「家康公…秀吉公…」


「え…。」


(家康公…ってあの徳川家康!?じゃあ、秀吉公は…豊臣秀吉!?)


改めて狸と猿を凝視した千代は、狸の胸元に「三つ葉葵」と、同じように猿の肩袖に「五七桐」の見知った「家紋」を見つけ、驚いたように目をしばたたかせた。


「驚き申した、まさか貴殿が“まだ”生きておられるとは」


狸…家康だと思われる者が、手にしていた扇子で自身のぽっこりとした腹を叩けば、隣に立つ日本猿…秀吉が無邪気な笑みを浮かべ政宗に聞かせるように言う。


「生憎と、我が命は貴殿らに差し出せるほど安いものではないのです。それに…何もせず、死しては配下の者に顔向けできませぬ」


そう言った政宗は千代を見上げる。

今の言葉の中には、先程千代と話したことにより家臣の者たちの事を受け入れられたようにも取れた。

そう感じた千代もまた、優しげに目を細めると政宗を見つめ返した。


「なるほど…流石、奥州の独眼竜というところですかな。」


不敵な笑みを浮かべた家康は持っていた扇子を広げ政宗を指す。すると囲むようにしていた黒装束の者たちが一斉にどこからともなく小刀のようなものを取り出し、刃先を千代に向けた。

ビクリと肩を揺らし千代が顔を青ざめ周りを見れば、政宗が怒りの声を上げる。


「彼女は関係ない!女子おなごに刃を向けるなど…!!」


「女子も何も、彼女は我らや貴殿のこの獣の姿を見た。ならば…既にこちらに関わりのある者ではないですか?」


「くっ!」


こうはならないよう、千代に出逢う前の政宗たちは極力人とは接してこなかった。

けれど千代の優しさに触れ少しでも共に居たいと想ってしまったのだ。しかしその想いが結局は千代を巻き込んでしまったことに政宗は深く後悔した。

けれど今嘆いていても仕方がないと、政宗は家康たちから庇うように千代の前に立った。


「彼女に手を出してみろ…その瞬間、自身の命は無いと思え。」


小さな犬の体ながらも全身から溢れ出る殺気と低く唸るような声を前に、黒装束の者たちは怯んだかの如く一人、また一人と後ずさった。

これが武将の、多くの家臣を従える「威厳」と「強さ」というものかと、黒装束たち以外に千代までもが息を呑んだのだった。


「ええい!情けぬ!我が忍び部隊ともあろう者たちが、何を怯んでおるのだ!」


家康の怒号が飛び、黒装束・忍たちは刀を構え直すと一斉に襲い掛かろうとした。

しかし政宗の目を見た瞬間、まるで金縛りにでも遭ったかの如く動きを止める。


「あの、降参してはどうでしょうか?」


そこで、凛とした声が屋上に響いた。


「何だと?」


「千代…?」


声の主・千代を振り返った政宗は、彼女の瞳に宿る強い意志を見てハッとしたように、釘づけになる。

同様に見入ってしまっていた家康と秀吉も、ハッとしたように我に返ると声を荒げる。


「降参しろと?何を馬鹿なことを言っているのだ、小娘。現状況で、追いつめられているのは其方そなたらぞ!?」


「良く、ご覧になられて下さい。貴方の忍たちは、先程から一歩も私たちに近づけておりません。」


「だから、なんだと――――」


「簡潔に言えば、アナタ方に勝ち目はありません。」


「なっ!?」


(千代?)


人が変わったかの如く、話し続ける千代に政宗は不審な目を向ける。

しかしその視線の先にいるのは間違いなく、政宗の知る千代で彼は益々惹きつけられるように千代へと視線を注いだ。


「強い者を前に、恐れるのは人の性。恥じることではありません。…ですから、ここは一旦お引きになって頂けないかと申している次第です。」


「小娘が…っ!舐めた口を利きおってからに!!」


家康は持っていた扇子を折ってしまいそうな勢いで握りしめる。

けれどその間も千代は目を反らすことなく、家康を見つめていた。その視線に計り知れない何かを感じ、家康は知らず背に冷や汗をかいていた。


「ふん!そ、そんな生意気な口を利けるのも今の内だ!この下にいるお前らの仲間は、既に我の臣下が倒しておるはずじゃ!」


「なっ!」


家康の勝ち誇った表情を前に、政宗は焦りの色を浮かべる。しかし肝心の千代の表情に何の変化がないことに、家康は知らず目を泳がせる。


「千代!千志郎たちを助けに行かねば!小十郎がいるとしても、忍相手にでは…!」


家康に構うことなく、政宗が出入り口へと駆け出そうとする。

しかしそれを制するように、千代の優しい声音の声が政宗の耳に届く。


「心配ないですよ、政宗さん。千ちゃんもシロくんも小十郎さんも無事ですから」


「へ?」


「「は?」」


驚いたように目を丸くする豆柴と狸と猿。

そんな三匹が自信たっぷりのニコニコとした笑みを浮かべる千代を見つめていると、バタバタと階段を駆け上るような足音が聞こえ、全員の視線が出入り口の扉に集中する。

その瞬間、勢いよく扉が開かれ、千志郎と誠志郎、そして小十郎が姿を見せた。

千志郎と誠志郎の表情は俯いているため見えなかったが、二人に挟まれるようにして立つ

ゴールデンレトリバーは鋭い眼光を忍達に向けていた。


「やはり、此処でしたか…」


「貴殿は、軍師・片倉景綱!」


秀吉の声に睨み付けた小十郎の威圧に動けぬ忍達を通り過ぎ、小十郎は千代と政宗の所まで歩いてくるとホッと息を吐いた。


「ご無事なようですね…政宗様、千代殿」


「小十郎…お前の方こそ、大丈夫だったのか?」


「その事なのですが…」


「ええい!!いい加減にしろ!」


政宗に顔を寄せ話し始めた小十郎に、顔を赤くし憤慨する家康が扇子を向ける。


「何故生きておる!我の仕向けた忍は…!」


「アイツ等なら、職員室前の廊下に積んできたけど?」


家康の問いには、誠志郎が答えた。

彼は千志郎と共に千代の傍まで歩み寄ると、千代の無事を確認し息を吐いた。

次いで俯いていた顔を上げると、文字通り鬼の形相をした雪崎兄弟が家康と秀吉を見た。


「このご時世に、まさか本物の忍者を見るとは思わなかったけど」


「あまりにも弱いので、拍子抜けしました」


「弱い、とな!?」


「狸に猿って、まんまだな。あんた等さぁ、戦国時代ではそりゃあ名の知れた人物なんだろうけどさ――――こいつに手を出したら誰だろうと容赦しないから」


千代の頭にポンッと手を置き、先程の政宗以上に鋭い殺意の籠った視線を向ける誠志郎に、家康と秀吉は柄にもなく「ぴゃっ」っと可愛い悲鳴を上げた。


「銃刀法違反。…をご存知ですか?」


誠志郎よりも濃い殺気を放ち笑みを浮かべた千志郎に、パティシエの時の温和な面影は無く、狸と猿は恐怖に知らず体を震わす。


「し、知らな…」


「まあ、そんなことはどうでもいいんです。ただ…」


「た、ただ…?」


恐怖の所為か、お互いに体を抱き合う狸と猿に、千志郎は笑みを崩すことなく目を細めると、この世のものとは思えない程恐ろしい視線を二匹に向けた。


「この世から一人残らず消えて欲しいんですよ。刃物を向け、彼女を怖がらせるような“下衆”は。」


「「ひゃいっ!!?」」


笑顔なのに、笑顔じゃない。そんな千志郎に、家康は誤って扇子を千代に向けるように落としてしまう。


(ぎゃあーー!!?)


心の内で悲鳴を上げる家康。

扇子を向ける時は、襲撃の合図。

もう遅いとばかりに、それを命令と受け取った忍達は恐れを断ち切り千代に襲い掛かっていた。


「危ない!!」


政宗が叫ぶ中、千志郎は千代を背に庇うように立つと手を胸の前に構え、その手で向かってきた忍を投げ飛ばす。


「まったく…これだから、下衆は嫌いなんだ」


その可憐な動きに政宗がポカンとしたように見つめていると、今度は反対から襲い掛かってきた忍を誠志郎が鋭い蹴りを入れ弾き飛ばした。


「まあ、そう言うなって。…つっても、俺も同意見だけどな」


軽口を叩きあいながらも、次から次へと拳や蹴りで忍を倒していく雪崎兄弟に、政宗は終始開いた口が塞がらなかった。

―――数分も経たずして、忍は全て雪崎兄弟に倒され、屋上には気絶した忍の山が出来ていた。


「えっと…降参してくれますか?」


見計らったように、千代はいつの間にはフェンスの下に落ちていた家康と秀吉に近づき尋ねる。

彼らは青ざめた顔を何度も盾に振ると、家康がパチンと指を鳴らした。

その瞬間、倒れていた忍達がムクリと起き上がるとふらつきながらも一瞬にして屋上から姿を消した。


「よ、よいか!今日のところは退いてやるが、貴殿が生きている限り我らは何度でも刺客を差し向けるであろう!」


「覚えてろー!」


それだけ言い残すと、家康と秀吉は忍の後を追うかのようにフェンスを駆け上ると屋上から飛び降りた。

千代はフェンスに駆け寄り下を覗き込むが、そこに家康たちの姿はなかった。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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